2005年最後の月になりました。火星のLs(季節を表わす太陽黄経)は月末に350°になりました。南半球ではこの季節は、晩夏になっています。南極冠は永久南極冠だけになっており、肉眼ではもう見えないと言っても良い状況となりました。今月は中規模のダストベールの発生と、北極フードの縮小(北極冠形成へのステップ)が観測されました。
画像1 2005年12月の火星 撮影/C.Go(フィリピン、28cmSCT)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)、柚木健吉(堺市、20cm反射)、P.Lazzarotti(イタリア、32cm反射)(拡大) |
@ダストベールが発生
12月6日にノアキス(0W,-40)からマルガリティファー(20W,-10)にかけて、暗いはずの模様が見えにくくなっている様子を瀧本郁夫氏(香川県)がとらえました(画像1)。翌7日には永長英夫氏(兵庫県)がヘラス(290W,-50)方面まで拡がっている様子を確認しています。
ダストベールは、画像を注意深く見ないとなかなか気がつかない難物の現象で、長年撮像している人でも見つけにくいことがあります。何もおおわれていない、普段の濃さを記憶しておかないと判断が難しいからです。
最近は、IR波長(近赤外領域)で撮影する観測者も多く、このダストベールを検出することが容易になってきました。IR画像は淡いベールには関係なく地表の模様を撮影できるため、比較することによってダストベールの存在を知ることができるからです。ベールのおおっている範囲を正確に示すことはできませんが、地域全体のコントラストが落ちて、模様が見えにくくなることから、肉眼でも分かるようになります。
今回起こったダストベールは12月12日には収まっていき、マルガリティファーがだんだん元の濃さに見えるようになってきました。さらに、12月21日にはシルチス(290W,+10)の東側と、アルギレ(30W,-50)に新たにダストベールが観測されています。火星の夏はこういったダストベールが頻繁に起こり、暗色模様を変化させたり、模様のコントラストを下げたりと、変化に富んだ姿を私達に見せてくれます。
A低気圧性の雲
アキダリウム(30W,+50)と呼ばれる、北半球では最も大きな暗色模様があります。この地域の周辺には、これまで何度か明るい雲の発生がとらえられてきました。今月は12月7日に永長氏が撮影しています。局部的に小さな斑点になっているのが分かるでしょう。NASAのマーズ・グローバル・サーベイヤ(MGS)がこれまでに撮影した画像によれば、このアキダリウムの地域には毎年雲が発生していることが分かります。おそらく、今回の斑点もこれと同じものができていると考えられます。
Bテンペの白点
12月17日にダミアン・ピーチ氏(イギリス)が、テンペ(70W,+45)に白く輝く斑点を観測しました。明け方近くの位置で、しかも時間と共にしだいに淡くなっていく様子が記録されました。局部的な霧だと思われます。大きさ等から考えると、今までに記録されていてもおかしくない大きさですが、残念ながら、今シーズンにはこのような報告はありませんでした。高山と言うよりは、クレーター底のようなくぼ地に、霧がたまったものが見えていた可能性が高いのですが、面白い現象でした。
C極雲
12月現在、極雲は北極に集中しています。そして、その北極をおおう極雲(北極フード)の下では着実に北極冠が形成されようとしています。12月の下旬にはこの北極フードはだんだん縮小してきました。
この調子でフードが晴れると、その下に細くて明るく輝く北極冠が姿を現してきます。北極フードが縮小するにつれて、北極近くの暗い模様がしだいに姿を現し、北半球の姿がだんだん賑やかな姿に変身してきます。
一方、この時期に永久南極冠だけとなっている南極には、淡く極雲が拡がってきました。最初に見られたのは12月6日でしたが、12月11日にはさらに目立つようになってきました。これから南極雲はしだいに濃くなっていくものと思われます。
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