天文ガイド 惑星の近況 2006年3月号 (No.72)
伊賀祐一
2005年12月の惑星観測です。10月末に準大接近を終えて遠ざかりつつある火星の観測は、35人から31日間で716観測(そのうち海外から20人で228観測)と先月から半減しました。1月28日に衝をむかえる土星の観測は、16人から17日間で95観測(そのうち海外から9人で49観測)でした。朝方の東空に高度を上げている木星は、5人から21日間で87観測(そのうち海外から1人で11観測)の報告がありました。

12月の火星:ダストベールと北極フード(安達 誠)
2005年最後の月になりました。火星のLs(季節を表わす太陽黄経)は月末に350°になりました。南半球ではこの季節は、晩夏になっています。南極冠は永久南極冠だけになっており、肉眼ではもう見えないと言っても良い状況となりました。今月は中規模のダストベールの発生と、北極フードの縮小(北極冠形成へのステップ)が観測されました。


画像1 2005年12月の火星
撮影/C.Go(フィリピン、28cmSCT)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)、柚木健吉(堺市、20cm反射)、P.Lazzarotti(イタリア、32cm反射)(拡大)

@ダストベールが発生

12月6日にノアキス(0W,-40)からマルガリティファー(20W,-10)にかけて、暗いはずの模様が見えにくくなっている様子を瀧本郁夫氏(香川県)がとらえました(画像1)。翌7日には永長英夫氏(兵庫県)がヘラス(290W,-50)方面まで拡がっている様子を確認しています。

ダストベールは、画像を注意深く見ないとなかなか気がつかない難物の現象で、長年撮像している人でも見つけにくいことがあります。何もおおわれていない、普段の濃さを記憶しておかないと判断が難しいからです。

最近は、IR波長(近赤外領域)で撮影する観測者も多く、このダストベールを検出することが容易になってきました。IR画像は淡いベールには関係なく地表の模様を撮影できるため、比較することによってダストベールの存在を知ることができるからです。ベールのおおっている範囲を正確に示すことはできませんが、地域全体のコントラストが落ちて、模様が見えにくくなることから、肉眼でも分かるようになります。

今回起こったダストベールは12月12日には収まっていき、マルガリティファーがだんだん元の濃さに見えるようになってきました。さらに、12月21日にはシルチス(290W,+10)の東側と、アルギレ(30W,-50)に新たにダストベールが観測されています。火星の夏はこういったダストベールが頻繁に起こり、暗色模様を変化させたり、模様のコントラストを下げたりと、変化に富んだ姿を私達に見せてくれます。

A低気圧性の雲

アキダリウム(30W,+50)と呼ばれる、北半球では最も大きな暗色模様があります。この地域の周辺には、これまで何度か明るい雲の発生がとらえられてきました。今月は12月7日に永長氏が撮影しています。局部的に小さな斑点になっているのが分かるでしょう。NASAのマーズ・グローバル・サーベイヤ(MGS)がこれまでに撮影した画像によれば、このアキダリウムの地域には毎年雲が発生していることが分かります。おそらく、今回の斑点もこれと同じものができていると考えられます。

Bテンペの白点

12月17日にダミアン・ピーチ氏(イギリス)が、テンペ(70W,+45)に白く輝く斑点を観測しました。明け方近くの位置で、しかも時間と共にしだいに淡くなっていく様子が記録されました。局部的な霧だと思われます。大きさ等から考えると、今までに記録されていてもおかしくない大きさですが、残念ながら、今シーズンにはこのような報告はありませんでした。高山と言うよりは、クレーター底のようなくぼ地に、霧がたまったものが見えていた可能性が高いのですが、面白い現象でした。

C極雲

12月現在、極雲は北極に集中しています。そして、その北極をおおう極雲(北極フード)の下では着実に北極冠が形成されようとしています。12月の下旬にはこの北極フードはだんだん縮小してきました。

この調子でフードが晴れると、その下に細くて明るく輝く北極冠が姿を現してきます。北極フードが縮小するにつれて、北極近くの暗い模様がしだいに姿を現し、北半球の姿がだんだん賑やかな姿に変身してきます。

一方、この時期に永久南極冠だけとなっている南極には、淡く極雲が拡がってきました。最初に見られたのは12月6日でしたが、12月11日にはさらに目立つようになってきました。これから南極雲はしだいに濃くなっていくものと思われます。

木星:mid-SEB outbreak発生か?
朝方の東空にようやく高度を上げてきた木星ですが、SEB(南赤道縞)に活発な現象が見つかりました(画像2)。12月18日に永長英夫氏(兵庫県)は、SEB中央のII=350°付近に1個の明るい白斑の出現をとらえました。永長氏は冬場の悪シーイングの中を精力的に追跡し、23日と25日にその白斑が2個に分離し、拡大している様子を示しています。2個の白斑の経度は、II=337.2°とII=347.0°で(永長氏計測)、前方の白斑の緯度が低くなっています。さらに、これらの白斑の前方のSEBnには青暗い暗部も形成されており、mid-SEB outbreakの初期の様相を示しています。

mid-SEB outbreakは『SEB中央の白斑突発現象』のことで、1つの発生源から白斑が次々と出現し、SEB内をかなり速い速度で白斑が前進し、大赤斑の後方までが白斑で埋め尽くされます。最近では2003年9月に堀川邦昭氏(横浜市)がII=190°での発見があります。今回の現象がmid-SEB outbreakであるという確認は、1月の観測まで待つ必要がありますが、とにかく要注意でしょう。

また、大赤斑(GRS)後方のII=180°付近のSEBにも、白斑の活発な活動が見られます。11月30日の永長氏や、12月19日の福井英人(藤枝市)の画像では、通常見られる大赤斑後方擾乱(じょうらん)領域が後方まで広がったか、あるいは新たな白斑の活動が始まったか、現時点では判断が難しい状況です。こちらも注意が必要です。


画像2 2005年12月の木星
撮影/ 永長英夫(兵庫県、25cm反射)、福井英人(藤枝市、25cmミューロン)、T.Olivetti(タイ、18cmマクストフ・ニュートン)(拡大)

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