天文ガイド 惑星の近況 2006年12月号 (No.81)
伊賀祐一

2006年9月の惑星観測です。木星は14人から21日間で115観測(そのうち海外から6人で46観測)の報告がありました。木星は11月22日に合ですが、西空で低く、ほぼ観測の終わりを迎えました。観測対象が少なくなったためか、9月6日に衝を迎えた天王星に観測が集まり、18人から22日間で108観測(そのうち海外から13人で87観測)の報告が、海王星は4人から4日間で4観測(すべて国内)の報告がありました。朝方では、10月26日に外合となる金星は3人から5日間で11観測(すべて海外)、土星は6人から8日間で17観測(そのうち海外から4人で9観測)でした。

木星

@NEB北縁の白斑のマージ

NEB北縁の白斑'Z'が、同じ緯度の前方にある別な白斑に追いつき、1つの白斑にマージ(合体)する現象が観測されました(画像1)。白斑'Z'は、1997年から10年間にもわたって存続する長命な白斑で、すでに6月29日には前方にあった白斑'Y'とマージした様子が初めてとらえられていました。


画像1 NEB北縁の白斑のマージ
撮影/ 月惑星研究会(拡大)

白斑'Z'は同じ緯度にある白斑よりも早く前進し、9月2日/3日と2つの白斑は次第に接近を続けていました。8日または9日には、白斑'Z'はその前方の白斑と並んでいる様子がとらえられています。そして、9月11日には2つの白斑が接触し、前方の白斑は南側へ、白斑'Z'は北側へ、お互いの周りを右回りに回り込んでいます。残念ながら天候に恵まれずに12日の観測がありませんが、13日の画像では2つの白斑はマージして1つの白斑になっています。翌14日は条件が悪く詳細は分かりませんが、やはり1つの白斑と思われます。その後の観測はなく、月末の30日になってひと回り大きくなった白斑'Z'が確認されました。 NEB北縁の白斑同士のマージは、過去には観測されたことがない珍しい現象です。NEB北縁の白斑は高気圧性の渦で、同様な高気圧性白斑同士のマージは、STB白斑(1998年と2000年)あるいはSSTB白斑(2002年)で観測されました。渦同士が合体するという現象の新しいパターンが観測された瞬間でした。

AEZsの白斑の活動

3月下旬からEZs(赤道帯)が黄濁し、この緯度の活動は今月も活発です。8月にはI系で0°と30°、300°の3ヵ所に暗部がありましたが、そのうちのI=0°の暗部が大赤斑の北側を通過しようとした9月2日に、SEBnからEZsに流れ込む白斑が観測されました(画像2)。3日には大赤斑の真北に、4日には大赤斑の前方に、発達する白斑の様子が見られます。この白斑は、6日には横に伸びた形状となり、その後11日まで存在が確認されました。I=0°の暗部は、7月11日に大赤斑を通過した際にリフトが発達するのが観測されたものと同じです。 EZsに見られるこの現象はSED(South Equatorial Disturbance)と呼ばれるものです。EZsの白斑の活動は1999年10月から2002年3月に見られましたが、約50日で木星面を1周して、大赤斑を追い越すことが知られています。また大赤斑を追い越す際に、白斑の活動が活発になるという特徴を持っています。

画像2 EZsの白斑の活動

撮影/ 月惑星研究会

土星:観測シーズン始まる
9月2日に、今シーズンの土星の初観測がR.Heffner氏(名古屋市)から送られてきました(画像3)。これは8月8日の合から25日後の観測でした。土星の地心緯度が-15度になり、土星のリングの傾きが小さくなってきました。昨シーズンに比べると、土星の北半球がずいぶんと見えてきています。瀧本郁夫氏(香川県)の画像では、南極地方高緯度は赤味がかっています。

画像3 2006年9月の土星

撮影/ R.Heffner氏(名古屋市、28cmSCT)、瀧本郁夫氏(香川県、31cm反射)

第30回 木星会議(高松)
2006年9月9/10日の2日間に渡り、第30回木星会議が高松市生涯学習センターで開かれました。初めての四国での開催でしたが、全国から41名の参加があり(画像4)、熱心な議論が繰り広げられました。四国天文協会の皆様に感謝します。

2006年9月9日(土)
・パネルディスカッション『惑星観測の楽しみ』(安達誠、永長英夫、香西清弘、森下陽子)
・特別講演『木星大気の力学』(九州大学・中島健介)
・講演「惑星観測の経験談」(佐藤健)
・懇親会
2006年9月10日(日)
研究発表
・STBsの後退ジェットストリームの検出(堀川邦明)
・2005-06年期の土星面の状況(平林勇)
・WinJUPOSの使い方(三品利郎)
・2005-06年のmid-SEB outbreak(伊賀祐一)
・木星スケッチデジタル化プロジェクトの進捗状況
・超極秘木星観測計画
(田部一志)
・鏡面冷却による筒内気流の改善(瀧本郁夫)
※来年は滋賀県ダイニック・アストロパーク天球館で開かれる予定です。


画像4 第30回 木星会議(高松) に集合写真(拡大)

前号へ INDEXへ 次号へ