2005-06年の木星面に見られた現象について、今月号からテーマ別に解説を連載します。
◆STBの小赤斑"BA"
観測シーズンを通じての最大のイベントは、STBに位置する"BA"と呼ばれる白斑が小赤斑に変化したことが挙げられます。
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画像1 STBの小赤斑の最初の報告(2006年2月27日) |
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撮影/C.Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)
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最初の報告は、フィリピン・セブ島のChristopher Go氏が2006年2月27日に撮影した画像で、「STB白斑が赤く変化している」というものでした(画像1)。この情報は世界を駆け巡り、BAが赤化している観測が増えてくると、プロの研究者が注目してきました。そして4月には、めったに木星に向けないハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測が行われました(画像2)。こうして、これまでのSTB白斑の五角形の外形の中に、本来のBAを構成する高気圧性の渦が、オレンジ色のドーナツ状に見えるようになったのが、小赤斑であることが分かってきました。
この頃から、STB白斑は"Red Spot Jr."とも呼ばれるようになりました。それは、小赤斑が大赤斑と同じような勢力をもったと想像されたからでした。大赤斑は高気圧性の渦で、下層の物質(リン化合物)が上昇気流で高層まで運ばれ、そこで紫外線と反応して赤く見えていると言われています。STB白斑も高気圧性の渦で、それが大赤斑と同じ赤くなったということは、大赤斑と同様の強力な上昇気流を持つ渦に成長したと考えられます。
画像2 ハッブルによる小赤斑の観測(2006年4月25日) 提供/NASA(拡大) |
画像3に、小赤斑が大赤斑に後方から接近し、さらに大赤斑を追い越すまでを約1か月ごとにまとめました。7月13日には、小赤斑は大赤斑の真南を通過しました。この際にはハワイ・マウナケア山頂の8.1mジェミニ望遠鏡での観測も行われました。
この小赤斑について、これまで誌面ではSTB白斑の赤化という、少し控えめの表現をとってきました。STB白斑の過去の観測を知っていたからでしょうか、これまでにもSTB白斑が赤みを帯びたことがありましたが、すぐに元に戻っていますので、それほど重要視しませんでした。また、STB白斑はこれまで約2年ごとに大赤斑を追い越していますので、一部で報道された小赤斑と大赤斑の衝突は起こらないだろうと思っていました。STB白斑が大赤斑を追い越すと、STBのベルトが消失したり、逆にベルトが前方に伸びたりする現象を見てきました。だから、小赤斑が大赤斑を通過すると、巨大な大赤斑の渦の影響を受けて、小赤斑の赤みが消えてしまうのではないかと考えていました。結果として、小赤斑は私が予想していたよりもはるかに強力な渦で、大赤斑を通過した後も、形状についても赤い色についても、その勢力を保ったままでした。
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画像3 大赤斑に接近・通過する小赤斑 |
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撮影/ 月惑星研究会
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