先月号で速報したように、南熱帯撹乱(かくらん、South Tropical Disturbance)が発生しました。南熱帯撹乱は、SEB(南赤道縞)とSTB(南温帯縞)とに挟まれたSTrZに出現する暗部のことで、1901年から1939年まで継続した大南熱帯撹乱は有名です。その後、何回かの発生が観測されていますが、今回の発生は1993年以来の14年ぶりの現象です。
1月11日のF.Carvalho氏(ブラジル)の観測で、STrZ(南熱帯)のII=0°付近にSEBからSTBに向けて暗柱(長さ13°)が見つかりました(画像1左)。このサメの背びれのような形は、南熱帯撹乱の特徴的な模様です。これをSTrD-1と呼びます。過去の観測では、STB白斑が大赤斑を通過した後に、STB白斑の前方で南熱帯撹乱が発生することが多く、今回も右上にSTB白斑"BA"が位置しています。
ところが、1月10日のA.Wesley氏(オーストラリア)の観測で、II=220°付近にも同様な特徴的な暗柱(長さ14°)が見つかりました。これも南熱帯撹乱で、STrD-2と呼びます(画像1右)。今回のように同時に2つの南熱帯撹乱が観測されたことはありません。
画像1 2007年1月の木星面 撮影/F.Carvalho(ブラジル、18cm反射)、を(堺市、20cm反射)(拡大) |
これらの南熱帯撹乱ですが、12月19日の福井英人氏(静岡県)の観測では、II=220付近にSTrZの暗部が認められ、STrD-2の活動がすでに始まっていたことを示しています。また、12月22日の福井氏の観測では、II=0付近にSEBの凹みが見られ、すでにSTrD-1の活動が始まっていたのは明らかです。
実に幸運なことに、NASAの冥王星探査機ニュー・ホライズンズが木星の重力を利用したフライバイのために、木星の詳細な画像を公開しています(画像2)。南熱帯撹乱のもう1つの特徴は、循環気流の生成が挙げられます。循環気流と言うのは、SEBsジェット気流に乗った後退する暗斑が、南熱帯撹乱にぶつかると、反転してSTBの北縁を前進する現象です。画像2の高精細画像を見ると、STrD-1およびSTrD-2の2ヵ所で循環気流がすでに形成されていることが分かります。
前代未聞の2つの南熱帯撹乱発生にとても驚いています。撹乱本体は体系IIに対して、STB白斑と同じ速度で前方に広がっていくのではないかと考えられます。
画像2 ニュー・ホライズンズ(冥王星探査機)による木星展開図 提供/NASA、2007年1月8日撮影(南北反転、ラベルは筆者による)(拡大) |
今シーズンの木星の特徴
新しいシーズンの始まった木星を見たときに、最も驚くのはEZs(赤道帯南)の暗化です(画像3)。SEBと同じ濃さのベルトで、一見するとSEBが太くなったのではないかと勘違いをするほどです。このEZsに明るい白斑SEDが出現しています(画像2)。SEDはI=200°に位置しており、体系IIに対して約50日で一周します。
さらに、大赤斑後方のSEBの白斑が全く見られないことも大きな特徴です(画像1中)。同時に、SEBsジェット気流に乗った後退暗斑が見られず、そのために大赤斑(GRS)を取り巻く暗部がないむき出しの状態が見られます。つまり、SEB全体の活動が非常におとなしくなっていると言えます。BAAのJ.Rogers氏からの情報では、「このような全ての活動が停止した最後の年は1988年であった。その時は、1989年にSEBは淡化(白化)し、1990年に劇的なSEB復活(SEB Revival)が発生した。すなわち、2007年のどこかで、後に劇的なSEB復活につながるSEBの淡化を見ることができるかもしれない。」と考えられますので、これからの観測が楽しみになってきました。
SSTB(南南温帯縞)には8個の小白斑が見られ、BAAが提案しているA0からA8のラベルを画像2に示します。また、NEB(北赤道縞)北縁にある長寿命な白斑WSZは、大赤斑の前方の経度に位置しています。昨シーズン、同じ緯度にあった2つの他の白斑を次々と合体した後、現在はその前進速度が鈍り、ほぼ停滞しています。
画像3 2006年と2007年の比較 撮影/T.Olivetti(タイ、28cm反射)が(拡大) |
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