天文ガイド 惑星の近況 2007年3月号 (No.84)
伊賀祐一

2006年12月の惑星観測です。今月は上旬から中旬にかけて全国的に天気が悪く、また冬場の悪シーイングに悩まされる季節が訪れました。2月11日に衝を迎える土星は、26人から26日間で252観測(そのうち海外から13人で53観測)の報告がありました。太陽との合を終えて、新しいシーズンを迎えた木星は5人から7日間で20観測(そのうち海外から2人で3観測)の報告がありました。

木星:新しい観測シーズン始まる
2006年12月19日に福井英人氏(静岡県)から今シーズンの初観測が報告されました(画像1)。11月22日の合からほぼ1ヶ月後の観測でした。

最も目立つのは、EZs(赤道帯南組織)の暗化で、すぐ南のSEB(南赤道縞)と1本の幅広いベルトのように見えます。EZsは2006年5月ごろから少しずつ黄色く濁っていましたが、今シーズンは全周にわたってかなり暗くなっています。12月30日には大赤斑付近がとらえられ、大赤斑がむき出しの状態で見られます。何年もの間、大赤斑後方には擾乱領域が存在していましたが、今シーズンは白斑がありません。NEB(北赤道縞)は少し細いベルトに感じます。2002年12月に淡化したNTB(北温帯縞)も変化はないようです。


画像1 2006年12月の木星
撮影/福井英人(静岡県、35cmSCT)(拡大)

速報:南熱帯撹乱発生か?

2007年1月11日にブラジルのF.Carvalho氏から、STrZ(南熱帯)のII=0°付近に特異な形をした暗部をとらえた画像が報告されました(画像2)。SEBとSTB(南温帯縞)の間をつなぐ暗部は、南熱帯撹乱(South Tropical Disturbance)の可能性があります。この暗部がさらに東(左)に広がるか、注意が必要です。また、II=220°のSTrZにも気になる暗部があります。これらの詳細については次号でお伝えします。

画像2 南熱帯撹乱発生か?

撮影/F.Carvalho(ブラジル、18cm反射)

木星:2005-06年のまとめ(3)
今月も2005-06年の木星面に見られた現象を解説します。

NEB北縁の白斑の合体

NEBが北側に幅が広がっている時(拡幅期)、NEB北縁にはノッチ(notch)と呼ばれる白斑が複数個存在します。この白斑のうち、'Z'と名付けられた白斑(WSZ)は特異なもので、1997年から10年間継続して存在しています。そして、他の白斑は体系IIに対してほぼ静止していますが、この長寿命のWSZはずっと前進を続けていました。そのために、WSZは「NEB北縁の壊し屋」ではないかと言われてきましたが、実際にその現場を見ることはありませんでした。

2006年6月に、WSZが後方から接近し、前方の白斑とマージ(合体)する現象が初めてとらえられました(画像3)。特に接近していた2個の白斑が、6月24日にお互いの周りを時計方向に回り込む動きを見せ、6月29日には1個の白斑になりました。マージ後の白斑WSZはひと回り大きさが増しています。

画像3 NEB北縁の白斑のマージ(A)

撮影/月惑星研究会

さらに、2006年9月にも、WSZはもっと前方にあった白斑に追いつき、時計方向に相互に回転しながら、9月13日に1個の白斑にマージする様子が観測されました(画像4)。同様にWSZが前進を続けるとしたら、図5に示すように、2月末(c)と3月末(d)に、再びNEBの白斑をマージする様子を観測できるかもしれません。


画像4 NEB北縁の白斑のマージ(B)
撮影/月惑星研究会(拡大)


画像5 NEB北縁の白斑のドリフトチャート
○印がNEB北縁の白斑、●印がNEB中央のバージ(拡大)

土星
12月24日の柚木健吉氏(堺市)と風本 明氏(京都市)の観測では、SEBのIII=290°に小さな白斑が認められました(画像6)。SEBは2本のベルトに分かれていて、SEBnが濃く見えています。今シーズンは、SEBの中央にしばしば模様の濃淡が見られますが、はっきりと白斑と認められたのは24日だけでした。STBも2本のベルトに分かれています。相変わらず南極地方高緯度は赤みが強い状態が続いているようです。

画像6 2006年12月の土星

撮影/Christopher Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)、柚木健吉(堺市、26cm反射)、風本 明(京都市、31cm反射)

マーズ・グローバル・サーベイヤーの重要な発見
NASAの火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)が、2006年11月2日に通信ができなくなり、探査ミッションの継続が難しくなっています(画像7)。探査機は1996年11月7日に打ち上げられ、1997年9月11日に火星周回軌道に投入されました。観測の本番は1999年4月から始まり、当初2年の予定を大幅に上回る7年半の探査が続けられていました。

画像7 火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤー

提供/NASA

MGSからはこれまでに24万枚もの画像が送られてきました。この記事にも何回も登場していますが、特に2002年から2003年にかけて毎週発表された火星の気象レポートは大変に興味深いものでした。それは、アマチュアの望遠鏡でとらえることのできる、火星の1年間の気象現象の教科書と言えるものでした。

NASAニュースによれば、MGSの重要な発見として、以下の業績を紹介しています。

  • ごく最近に液体の水によって作られた証拠である「グルー」と呼ぶ峡谷を発見した。
  • 湿った環境で形成される鉱物の「赤鉄鉱(ヘマタイト)」を発見し、ヘマタイトの豊富な場所をオポチュニティーの着陸地点に決定した。
  • 前例のない火星全体の地形図を作成した。
  • 局地的な残余地場を発見し、火星にもかつて地球のような磁場が存在したことを証明した。
  • 水の川が流れてできたと思われる古代の三角州の地形を発見した。
  • 長期間の観測で、繰り返される年サイクルの変化を追跡した。さらに、ここ3回の夏にはドライアイスからできた永久南極冠が縮小し、気候変動が進行していることを示した。
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