@ SEB攪乱続報
5月に発生したSEB攪乱はその後も活動が続いています。当初は小規模なmid-SEBoutbreakではないかと疑われましたが、6月以降、しだいにSEB攪乱としての特徴が際立ってきました。
SEB攪乱は北、南、中央の3つの分枝活動で構成されます。中央分枝はSEB内部の白雲活動で、mid-SEB outbreakの活動とよく似ています。今回の活動では、発生源から微細な白斑と青黒い暗部に満たされた攪乱領域がRS方向へ発達しました。典型的なSEB攪乱では、大型の白斑と明瞭な暗柱が交互に並ぶのですが、今回の攪乱ではそのような構造はありません。中央分枝前端は6月半ばにRSに到達し、RS bayの後ろ半分が復活しましたが、それ以降はRSに堰き止められて、前方に拡大する気配は見られません。
今回の攪乱は南分枝の活動が大変顕著で、SEB南縁に暗斑群が形成され、SEBsのジェットストリームに乗って1日当たり+3.7°という高速で後退しています。これにより、発生源後方では淡かったSEBsが濃化復活しました。また後述するように、暗斑群の先頭集団がSTrD-1でUターンする循環気流(Circulating Current)という珍しい現象が観測され、注目されています。
北分枝の活動は、SEBnが元々濃かったのではっきりわかりませんでしたが、6月後半からSEBnを約-4°/dayのスピードで前進するdark sectionが観測されるようになり、これが北分枝の先端と考えられています。
SEB攪乱の影響が及んでいない経度では、ベルトの淡化がさらに進行しています。STrD-1からRSまでのSEBsはほとんど消失してしまい、攪乱発生当初は薄茶色だったSEBZも、攪乱発生源の後方からRSの間では白く明るいゾーンとして見られます。
[図1] SEB攪乱の発達 中央の太い短い線が発生源、左右の矢印はそれぞれ北分枝と南分枝の先端、Uターン矢印は循環気流によりSTBnへ移動した南分枝の暗斑。月惑星研究会の観測より。(拡大) |
A 循環気流が観測されました!
普段のSEBsのジェットストリームは、経度増加方向にまっすぐに流れています(RSの部分ではRS bayに沿ってカーブしていますが)。しかし、南熱帯攪乱(STrD)が形成されるとその一部はSTrD前端で南側へ歪められ、STBnを経度減少方向へ流れるジェットストリームに連結されてしまいます。これを循環気流と呼びます。
今回のSEB攪乱ではSEBsに沿って後退する多数の暗斑が観測されたため、STrD-1に到達した際に上記の流れに乗ってUターンし、STBnを前進するようになるのではないかと予想されていました。
SEBsを後退していた先頭の暗斑がSTrD-1に到達したのは7月2日のことです。翌3日にはSTrD-1の暗柱に沿って南側へ移動し始め、4日にSTBnに達しました。そして、6日にはSTBnのジェットストリームに乗って前進を始めたことが確認されたのです。SEBsの後退暗斑が循環気流によってUターンする様子が直接観測されたのは1930年代に1度あるだけで、実に73年ぶり2回目のこととなります。今回の現象の一部始終を詳細に捉えることができたのは、世界的に見ても沖縄の宮崎勲氏ただひとりです。2日後の7月4日には2つ目の暗斑がSTrD-1に達して、同じようにSTBnへと移動し、前進運動に変化しています。その後方にも明瞭な暗斑が多数控えており、今後続々とUターン運動が観測されることが期待されます。
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[図2] 循環気流による暗斑のUターン 撮像:宮崎勲(沖縄、40cm)、C.Go(フィリピン、28cm)、C.Zannelli(イタリア、28cm)、A.Medugno(イタリア、35cm)、G.Grassmann(ブラジル、25cm) |
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