天文ガイド 惑星の近況 2007年11月号 (No.92)
堀川邦昭、安達 誠

木星は9月4日東矩を過ぎたばかりですが、南天低いため、すでに観測シーズン終盤の感があります。一方、火星は夜半過ぎの東天に上るようになり、ダストストームの発生もあって注目を集めるようになっています。

木星

@ 循環気流続報

STrD-1における循環気流の活動は、その後意外な展開を見せています。緯度が低下するにつれて前進速度が小さくなりつつあった先頭の暗斑abは、8月中頃には体系IIに対してほぼ停止し、20日以降は予想通り後退を始めました。そして、25日に淡い小暗斑として、後方にあるdeと後続の暗斑が合体した大きな暗部(図中d-k)のすぐ北に見られたのを最後に行方がわからなくなってしまいました。その後、この領域では大きな変化が観測されています。d-kの暗斑が東西に引き伸ばされるように壊れるのと同時に、STrZに薄暗い暗部が現れました。暗部前方には、STBnに向かってストリークや小暗斑が観測されたため、体系II=260°付近に新しいSTrDが形成されたかのような様相となりました。しかし、その後暗部は後退運動を示し、暗部前端で暗斑のUターン運動も観測されなかったため、この暗部はabやd-kとSEBsを後退していた大きな暗部との相互作用により生じたと思われます。STBn上で見られた小暗斑は崩壊したd-kの一部かもしれません。この影響により、前方のSTBnはやや濃化して目立つようになっています。

8月中旬以降、STrD-1では少なくとも4個の暗斑がUターンしました(図中r、s、t、u − 仮称)。すでにUターンして前進中の暗斑も、hiやjkが前方のd-gと、lには後方からpq、さらにはUターンしたばかりのrやsやtも合体したようです。ただし、これらの暗斑の一部は合体せずに前方の暗斑の南側をすり抜けた可能性もあり、解析を進めているところです。現在、体系II:250°〜STrD-1の区間では、STBnからSTrZにかけて顕著な暗柱や暗斑が見られ、変化も激しくなっています。

[図1] 循環気流の活動

撮像:風本明(京都府、31cm)、瀧本郁夫(香川県、31cm)、林敏夫(京都府、35cm)、福井英人(静岡県、35cm)、米山誠一(神奈川県、20cm)、Bartrand(フランス、11cm)、F.Carvalho(ブラジル、25cm)、C.Go(フィリピン、28cm)、Kazanas(オーストラリア、31cm)

A その他の状況

SEB攪乱南分枝の暗斑群は、すべて循環気流によってSTrD-1でUターンしていますが、わずかながら後方へ向かう流れがあるようで、7月以降、STrD-1後方のSEBsが徐々に濃化しています。濃化部の先端は8月下旬に大赤斑へ到達し、赤斑孔の輪郭が復活しました。体系II=42°(9月15日)のSEBsには明瞭な暗斑があり、+4°/dayで大赤斑に接近しつつあります。大赤斑はSEBsの暗斑群が衝突すると、淡化することが知られています。今回は循環気流によって暗斑群が到達することがなく、大赤斑は現在でもオレンジ色の顕著な姿を保っていますが、上記の暗斑との相互作用により、どのような変化が見られるか注目されます。

循環気流によりSTrD-1は顕著な存在となった一方、STrD-2は衰えが目立っています。7月まではSEB攪乱発生源近くにあるSTrZの淡い暗柱でしたが、8月になると暗柱が消失し、小さな暗斑で満たされたSEBsの大きな膨らみという様相に変化しています。STrD-2は崩壊しつつあるように見えます。

[図2] 復活したSEBsと衰退したSTrD-2

撮像:福井英人氏(静岡県、35cm反射)、熊森輝明氏(大阪府、20cm反射)

火星

火星の全球を覆ったダストストームは、比較的早く沈静化に向かっています。2001年のときに起こったダストストームは長きにわたり表面の模様を覆っていましたが、今回は様子が少し異なっています。

8月初めのダストストームは、南半球高緯度にあるエリダニア(210W、-45)からアウソニア(258W、-35)付近に、帯状の活発な活動領域がありました。また、メリディアニ(0W、-5)やシヌスサバエウス(340W、-8)付近にもあり、これらの地域には模様が見えない状態でした。7月にはあちらこちらにダストストームの明るいスポットができましたが、今回は8月4日のオーロラシヌス(50W、-10)に発生したもの1回だけでした。

8月9日には広く拡散したダストストームは淡くなり始め、ベールの下に本来の模様が見えるようになってきました。発生時期から考えると2001年よりも早い進行です。ダミアン・ピーチ氏の画像ではオリンピア山が青画像でも黒く写り、2001年のダストストームを思い起こさせます。

[図3] ダストストームの収まった火星

2007年8月11日 撮像:D.Peach(イギリス、35cm)
左は赤画像。右は青画像。オリンピア山が黒い点になって見える

ダストストームが淡くなると、暗色模様の変化が見えるようになってきました。大規模なダストストームのときは、暗色模様の変化を捉えることが重要です。ソリス(90W、-25)は、今までのような大きさはなくなり、小さくなって記録されるようになりました。また、セルペンティス(325W、-25)は、今までよりも暗くなって見えるようになりましたが、アルギレ(35W、-50)は、反対に明るく記録されています。模様の変化を突き止めたいのですが、画像を撮像されている方は、必要以上にコントラストを上げすぎないように注意してください。

8月初めの南極地方や北極地方は、共にダストストームの上に白雲が見られています。ダストストームよりも高いところに発生しているようです。8月末には北極地方の白雲が次第に明るくなり、北極にフードを形成する兆候が見られています。これからは、北極付近の白雲の変化に注目したいものです。

小さくなった南極冠は、条件の良いときの画像でかろうじて判別できるものの、肉眼ではほとんど見ることはできませんでした。

前号へ INDEXへ 次号へ