天文ガイド 惑星の近況 2008年1月号 (No.94)
堀川邦昭、安達 誠

最接近も間近となり、火星は日増しに大きくなっています。今年は久しぶりに北半球を詳しく観測できるようになって、北極冠の形成に注目が集まっています。また、土星も夜半過ぎの東天に昇るようになっていますが、木星は太陽に近づいて観測シーズン終了となりました。

火星

9月になると、火星の北極は「北極フード」と呼ばれる白い霧に覆われてきました。この北極フードは月末にはしだいに濃く広がるようになり、肉眼でもはっきりと捉えられるようになりました。

火星の表面はダストのダストベールに覆われ、南半球中緯度以南のコントラストが低い状態でした。しかし、中旬ごろにはこのダストダストベールはかなり収まり、暗色模様が次第にはっきりと見えるようになってきました。そのため2005年のシーズンとの違いが、かなりはっきりと分かるようになりました。もっとも大きな違いはソリスラクス(90W、-25)付近の変化でしょう。2005年にはあたかも「カエル」のような姿でしたが、今回は中心付近が濃くなり、周囲の明るい部分のほとんどが暗くなってしまいました(図1)。ヘレスポントス(330W、-45)が淡くなり、黄雲の発生場所で有名なノアキス(350W、-45)は、南北に明るい部分と暗い部分が際立って見えるようになり、特徴的な姿を示しています。そのほかにもエリシウム(215W、+25)付近など、模様の様子は違って見えている部分が各所に見られます。

[図1] 2007年9月4日19:58UT

LS=314° CM=105° 撮像:熊森照明(大阪府、20cm)
ソリスが黒い模様として目立つ。

9月には目立ったダストストームの発生は見られず、比較的落ち着いた大気の様子でした。しかし、その中でも面白い現象がいくつか見られています。火星最大の火山であるオリンピア山(125W、+20)が、9月中ごろにやや赤っぽく観測されました。2003年のときにも同じ現象が今回よりも顕著に現れましたが、今年も青画像でひときわ目立つ黒い点に記録されています(図2)。青画像で黒く写るということは、この部分に雲がなく晴れていることを意味しています。オリンピア山よりもダストのダストベールが低空にあるのか、あるいは山に下降気流が起こり晴れた領域になったのか、考えると面白いものです。

[図2] 2007年9月16日 04:06UT

LS=314° CM=119° 青画像 撮像:ダミアン・ピーチ(イギリス、35cm)
青画像でオリンピア山が黒い点となって目立つ

北極地方のフードは、9月の初めごろはそう目立ちはしませんでした。しかし、9月6日ごろから次第に明るく変化し、月末には複雑な変化を見せるようになりました。この北極フードは北極冠の形成過程を研究するためには非常に重要な気象現象です。そもそも、北極冠がどのような過程を通って形成されるのかよく分かっていないのです。フードの中で地球からは見えない状態のままゆっくり大きく成長するのか、あるいは、フードの形成と密接に関係し合いながら一気にできてくるのか、それとも、ドーナツ状にゆっくりできてくるのか、まだ完全にはわかっていないのです。近赤外での画像など単色の光を通して火星を撮影すれば、フードを通して下の情報を得ることができます。

[図3] 2007年9月14日 18:37UT

LS=314° CM=350° 撮像:池村俊彦(愛知県、38cm)
ノアキスの様子がよく分かる。

9月12日ごろからは、フードに変化が見られるようになりました。西側のリムから出てきた姿に、これが急激に明るくなる様子が記録されていいます。9月30日のダミアン・ピーチ氏の画像によると、この明るい部分が次第に大きくなり、火星面の子午線付近になるとだんだん淡くなる様子が鮮明に記録されています。これからは、北極付近の変化の追跡が最も重要な観測の目標となるでしょう。

[図4] 北極フードの変化の様子

2007年9月30日 LS=323° 青画像 撮像:ダミアン・ピーチ(イギリス、35cm)

木星

STrD-1の前方で幅広くなったSTBnは、先端が10月半ばに大赤斑を通過し、さらに前方に広がっています。10月24日の福井氏の画像では、大赤斑がまるで串刺しになったかのような、面白い様相になっていました。STBnの拡幅は一時的な現象のようで、10月下旬の画像ではBAからSTrD-1の間がすでに通常の状態に戻っています。しかし、STrD-1はまだ顕著でSEBsには大きな暗部が見られるので、SEB攪乱の活動はまだ続いていると思われます。

今シーズン最後の観測は14日の風元氏の画像になりそうです。近年にない激動の木星面でしたが、来シーズンはどんな現象がみられるでしょうか。

[図5] 串刺しの大赤斑

2007年10月24日 08時33分UT
I:320.6° II:129.8° 撮像:福井英人 (静岡県、35cmSC)

土星

土星の環は傾きが小さくなりつつあります。10月の画像を見ると、環の見かけ上の南北方向の幅は土星本体の3分の1程度になってしまいました。そのため、条件が悪いとカシニの空隙を捉えることが難しくなっています。その分、これまで環で隠されて見えなかった北半球が顔を出すようになり、A環のすぐ北には明るいNTrZが見られます。昨シーズンの北半球高緯度は青みがかってぼんやりしていましたが、しだいに南半球と同じ色調に変わってきているようです。

今シーズンの環の傾きは概ね現在と同じくらいですが、来シーズンはさらに小さくなって串団子のような土星となり、次の2009年にはいよいよ「環の消失」が13年ぶりに見られます。

[図6] 環の細くなった土星

2007年10月21日 19時52分UT
I:263.6° III:333.8° 撮像:永長英夫(兵庫県、30cm反射)

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