11月、火星のLsは340°になり、北半球の春分に近くなってきました。火星全面を広く覆っていたダストのベールはかなり淡くなり、観測に目立った影響を与えなくなってきました。オリンピア山は、黒い斑点ではない普段の姿に戻り、大気中のダスト量が著しく減少していることを示しています。
模様のコントラストが高くなって、暗い模様の様子がいろいろとわかってきました。11月号で紹介したソリス付近の暗い模様の他に、前シーズンと違ってキンメリウム(230W、-20)北端から小シルチス(260W、0)が淡くなっている姿が特徴的です。また、シレナム(160W、-30)からキンメリウムの北側、また、シヌスサバエウス(340W、-8)の北側の砂漠には薄暗い斑点の並んでいる様子がはっきりしています。
一方、ヘラス(290W、-50)は霧か霜に覆われ白く見えるのが普通の見え方でした。青の画像でも白く写っていましたが、季節が進むにつれ、盆地の中にある砂漠の黄色が観測されるようになりました。
北極付近はフードと呼ばれる北極雲があちこちに広がり、複雑な見え方ですが、今月は何といっても、北極冠がいつごろから見えてくるかが大きな注目点でした。過去には北極冠が形成される詳しい様子は記録されていません。近年のように赤外や近赤外で撮像されたことはほとんどなく、北極冠の形成過程は謎に包まれていました。
北極冠の形成については、北極雲の下で一気にできるのか、徐々にできるのかに注目が集まっています。北極冠が見えているようでも、近赤外や赤外で北極冠が写らなければ、北極冠ができているとはいえません(図1、図2)。図1では、極冠があるかのように見えますが、赤画像では何も記録されていません。観測のポイントは、日によって緯度が同じに見えること、かつ、近赤外や赤外でも白くはっきり写っている時を注視しました。結局北極冠ができたといえる日は、11月11日付近というところに落ち着きました(図3)。
|
[図1] 2007年11月3日 18:49UT |
|
LS=342° CM=241° 撮像:池村俊彦(愛知県、38cm) 左からカラー、青色光、緑色光、赤色光による画像。赤画像では北極冠の明るさがない。
|
|
[図2] 2007年11月24日 11:47UT LS=352° CM=19° 撮像:風本明(京都府、31cm) 左からカラー、赤色光、緑色光、青色光による画像。赤画像で北極冠の形が見える。(拡大) |
|
[図3] 2007年11月17日 00:31UT |
|
LS=348° CM=205° 撮像:ダミアン・ピーチ(イギリス、35cm) 北極冠の輪郭が見えいてる。
|
|
ダストストームは11月5日、ヨーロッパの複数の観測者によって発見されました。場所はアキリス(50W、+29)でこの日だけ明るい光斑として記録されました。その後の追跡観測はなく、詳しい様子はわかりません。ただ、長続きするような規模のものではなく、小規模なものだったようです(図4)。
|
[図4] 11月5日のダストストーム |
|
撮像:パウロ・カスキーニャ (ポルトガル、35cm) 白い光斑がダストストーム。
|
|
面白い現象が北極フードの近辺で起こりました。北極付近の白雲は非常に活発で面白く、フードの中に白く小さな光斑が捉えられています(図5)。非常に小さく記録されましたが、おそらく低気圧性の雲だと考えられます。
|
[図5] 2007年11月4日 06:49UT |
|
LS=342° CM=56° 撮像:ドナルド・パーカー(米国、41cm) 白い点がはっきり見える。
|
|
11月の中ごろにはタルシス(90W、+5)付近の火山の上に白雲が見え始めました(図6)。タルシスにはアルシアシルバ・パボニス・アスクラエウスの3つの火山がありますが、これらの頂からたなびく白雲が観測されます。可視光で見るには、まだ明るさが足りませんが、画像でははっきりと記録されています。これからますますこれらの白雲は明るくなると思われます。
|
[図6] タルシス山雲 |
|
2007年11月16日 20:06UT (青色光) LS=348° CM=140° 撮像:ティッツアーノ・オリベッティー(タイ、28cm) 欠け際に白雲が見える。
|
|
|