木星の南半球では今、3つの赤い斑点が近づきつつあります。ひとつはもちろん
II=125.1°(5月8日)にある大赤斑で、後方のII=150.7°(同日)にはそのミニチュ
アである永続白斑BAがあります。BAは約-0.4°/日のペースで前進していますの
で、6月半ばには大赤斑の後端に達します。もうひとつの赤色斑点は、昨年の南
熱帯攪乱(STrD)から派生したと思われる南熱帯(STrZ)の高気圧的リング暗斑です。
リング状の構造や強く赤みを帯びた内部の様子から、小赤斑(Little Red Spot、
以下LRS)と呼ぶのが相応しくなっています。LRSはII=159.6°(同日)にあり、不
規則ながら前進していますので、BAを追うように大赤斑に迫ると思われます。
過去の例からBAはそのまま大赤斑を通り過ぎると考えられますが、LRSについて
は予想が困難です。というのは、これまで大赤斑に衝突した同型の暗斑はどれも
大赤斑の前方からぶつかったからです。大赤斑は左回りの渦ですから、後方から
大赤斑に到達した場合、大赤斑の南側へ回り込むと考えられ、月惑星研究会では、
以下のようにいろいろな予想が出ています。A) 大赤斑後方で停止し消滅する。
B) 何事もなく大赤斑の南側を通過する。C) 大赤斑周囲の流れに乗って大赤斑を
周回する。D) 間もなく停止して、その後ゆっくりと後退を始める。E) 大赤斑通
過時に潰れて前方に暗色模様が出現する。F) BAと合体する。
いずれにせよ、今年はカラ梅雨を期待したいものです。
大赤斑前方の南赤道縞(SEB)で発生したmid-SEB outbreakは、II=35〜75°の範囲
で特有の傾いた明帯が発達しています。活動の前端はII=330°付近(4月末)にあ
りますが、北組織が乱れている程度で激しい活動は見られません。
一方、II=200°台で見られるSEBの白雲領域は、別のmid-SEB outbreakであるこ
とが明らかになってきました。この活動域は、3月21日にII=255°付近に出現し
た小白斑に端を発するもので、時間とともに前方へ拡大しています。現在、前端
部は既存の南赤道縞帯(SEBZ)の白斑領域と重なってしまいましたが、発生源付近
に大型で明るい白斑が見られ活動的です。なお、独立した2つのmid-SEB
outbreakが同時に発生するのは1985年以来のことです。
SEB南縁を後退していたリング暗斑は、予想どうり大赤斑に衝突しました。4月初
めに赤斑湾(RS bay)の左肩に達した後、数日間停滞していましたが、9日以降、
RS bay北縁に沿って進入を始め、11日に中央やや手前に捉えられたのが最後の観
測となりました。大赤斑本体はほとんど変化ありませんでしたが、4月末頃、一
時的に大赤斑前方に短いストリークが出現したのは、この影響かも知れません。
北赤道縞(NEB)北縁には多数のバージや小白斑が観測されていて、長命な白斑WSZ
はII=327.7(9日)にあり、他の白斑よりもひと回り大きく、NEB北縁に明瞭な凹み
を伴っています。このWSZの前方にあった2つの小白斑が3月から急速に接近して、
4月10日頃、合体したことを伊賀祐一氏がレポートしています。
[図1] 2008年4月20〜21日の木星展開図(拡大) 月惑星研究会の観測より伊賀祐一氏作成。 |
|
[図2] NEB北縁の小白斑の合体 ▲で示したのが合体した白斑、後方に長命なWSZが見られる。 月惑星研究会の観測より伊賀祐一氏作成(筆者改編)。 |
|
|