天文ガイド 惑星の近況 2008年7月号 (No.100)
堀川邦昭、安達誠

土星は5月3日に、木星は9日に相次いで留となりました。土星は順行に転じてし だいに遠ざかって行くのに対して、木星は逆行となって観測の好機に入り、夜空 の主役が交代しています。火星は小さくなって、観望には適さなくなってきまし た。

木星

木星の南半球では今、3つの赤い斑点が近づきつつあります。ひとつはもちろん II=125.1°(5月8日)にある大赤斑で、後方のII=150.7°(同日)にはそのミニチュ アである永続白斑BAがあります。BAは約-0.4°/日のペースで前進していますの で、6月半ばには大赤斑の後端に達します。もうひとつの赤色斑点は、昨年の南 熱帯攪乱(STrD)から派生したと思われる南熱帯(STrZ)の高気圧的リング暗斑です。 リング状の構造や強く赤みを帯びた内部の様子から、小赤斑(Little Red Spot、 以下LRS)と呼ぶのが相応しくなっています。LRSはII=159.6°(同日)にあり、不 規則ながら前進していますので、BAを追うように大赤斑に迫ると思われます。

過去の例からBAはそのまま大赤斑を通り過ぎると考えられますが、LRSについて は予想が困難です。というのは、これまで大赤斑に衝突した同型の暗斑はどれも 大赤斑の前方からぶつかったからです。大赤斑は左回りの渦ですから、後方から 大赤斑に到達した場合、大赤斑の南側へ回り込むと考えられ、月惑星研究会では、 以下のようにいろいろな予想が出ています。A) 大赤斑後方で停止し消滅する。 B) 何事もなく大赤斑の南側を通過する。C) 大赤斑周囲の流れに乗って大赤斑を 周回する。D) 間もなく停止して、その後ゆっくりと後退を始める。E) 大赤斑通 過時に潰れて前方に暗色模様が出現する。F) BAと合体する。

いずれにせよ、今年はカラ梅雨を期待したいものです。

大赤斑前方の南赤道縞(SEB)で発生したmid-SEB outbreakは、II=35〜75°の範囲 で特有の傾いた明帯が発達しています。活動の前端はII=330°付近(4月末)にあ りますが、北組織が乱れている程度で激しい活動は見られません。

一方、II=200°台で見られるSEBの白雲領域は、別のmid-SEB outbreakであるこ とが明らかになってきました。この活動域は、3月21日にII=255°付近に出現し た小白斑に端を発するもので、時間とともに前方へ拡大しています。現在、前端 部は既存の南赤道縞帯(SEBZ)の白斑領域と重なってしまいましたが、発生源付近 に大型で明るい白斑が見られ活動的です。なお、独立した2つのmid-SEB outbreakが同時に発生するのは1985年以来のことです。

SEB南縁を後退していたリング暗斑は、予想どうり大赤斑に衝突しました。4月初 めに赤斑湾(RS bay)の左肩に達した後、数日間停滞していましたが、9日以降、 RS bay北縁に沿って進入を始め、11日に中央やや手前に捉えられたのが最後の観 測となりました。大赤斑本体はほとんど変化ありませんでしたが、4月末頃、一 時的に大赤斑前方に短いストリークが出現したのは、この影響かも知れません。

北赤道縞(NEB)北縁には多数のバージや小白斑が観測されていて、長命な白斑WSZ はII=327.7(9日)にあり、他の白斑よりもひと回り大きく、NEB北縁に明瞭な凹み を伴っています。このWSZの前方にあった2つの小白斑が3月から急速に接近して、 4月10日頃、合体したことを伊賀祐一氏がレポートしています。


[図1] 2008年4月20〜21日の木星展開図(拡大)
月惑星研究会の観測より伊賀祐一氏作成。


[図2] NEB北縁の小白斑の合体
▲で示したのが合体した白斑、後方に長命なWSZが見られる。
月惑星研究会の観測より伊賀祐一氏作成(筆者改編)。

土星

3月に発生した2つ目の南温帯縞(STB)北縁の白斑はIII=299.9°(5月2日)にありま す。明るく目立っていますが、発生当初よりも拡散して北側広がり、5月の画像 では南熱帯(STrZ)を覆うように見えます。

一方、最初の白斑は3月後半から急激に衰えて、不明瞭になっていましたが、5月 に入って急に復活して顕著になり、2つ目の白斑を凌ぐ明るさとなっています。 経度はIII=326.1(5月2日)で、約-0.4°/日の割合で後退しています。この値は、 2つ目の白斑の-0.5°/日よりもやや小さく、両者は少しずつ接近しつつあるよう です。

[図3] 土星の2つの白斑
2008年5月2日 19:29UT I=252.0°、III=302.4°
撮像:P. Lazzarotti(イタリア、32cm)


火星

日没時に南中を過ぎた火星は、どんどん地球から遠ざかり、4月末には視直径は 6秒になりました。最も小さくなるのが4秒ですから、もう相当小さくなってしま ったという感じがします。

火星の北半球の季節は夏至に近づき、北極冠もかなり小さくなってきました。

今月も熱心な観測者から観測報告が寄せられてきています。4月15日にJim Melka (アメリカ)がニース(273W、+35)付近にダストストームがあると報告してきまし たが、確認観測ができませんでした。視直径が小さくなったため、観測者が減り、 情報が少なくなり、重要な情報でしたがはっきりしませんでした。

低緯度地方に広がる氷晶雲が4月15日位から、オーロラシヌス(50W、-10)付近を 中心に見やすくなってきました。北極冠は小さいため、肉眼で捉えるにはシーイ ングが良くないと困難ですが、その周囲に暗いバンドが広がっており、北極冠よ りもむしろこのバンドのほうが目立っています。

[図4] 4月21日の火星(柚木健吉氏)


視直径は小さいながらもシヌスサバエウスやメリディアニがはっきりと 記録されている。

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