※またしても小天体の衝突!
木星と小天体の衝突現象は、今年6月に観測されたばかりですが、8月21日未明
(日本時間)、熊本県の立川正之氏は木星を撮像観測中、北赤道縞(NEB)北縁に輝
点が出現し、まもなく消失するのを発見しました。この情報を得て、当会では追
跡調査を行い、立川氏の他に、東京都の青木和夫氏と富山県の市丸正幸氏がこの
現象を捉えていることがわかりました。約1000kmも離れている熊本と東京で、木
星面の同じ位置に輝点を観測したという事実から、小天体が木星大気に突入した
際に起こった発光現象であることが確実となりました。
当会で解析したところ、衝突日時は8月20日18h22m(UT)で、発光の継続時間は1.3
秒、衝突場所はII=140.4°、北緯21.1°という結果が得られました。また、6月
の現象と同様に、この衝突による痕跡模様はまったく観測されませんでした。衝
突した小天体は木星大気中で燃え尽きてしまったようです。
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[図1] 小天体の衝突による発光現象 撮像:立川正之(熊本県、15cm) |
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それにしても、衝突現象がこれほど頻繁に観測されるとは驚きです。6月の衝突
天体と今回の衝突天体に何らかの関係があるか、大変興味のあるところですが、
今のところわかっていません。小天体の衝突頻度は、これまで考えられていたよ
りも高い可能性がありますので、我々は、これからも同様の現象が起こるという
前提で観測に臨む必要がありそうです。また、過去の観測を精査して、データを
掘り起こすことも重要ではないかと思われます。
※木星面の状況
南赤道縞(SEB)では、ベルトが急激に濃化復活するSEB攪乱(SEB Disturbance)の
発生が期待されていますが、現在は極めて静かな状態が続いています。北組織
(SEBn)の淡化がさらに進んで、明るい赤道帯(EZ)との区別がつきにくくなってき
ました。SEB内部に残るバージ(barge)の痕跡模様は、最も顕著だったRS後方の暗
斑が、8月末までにほぼ淡化消失してしまい、II=260°付近の暗斑だけが残って
います。
当観測期間中、永続白斑BAが大赤斑(GRS)の南側を通過しました。BAは8月初めに
大赤斑後端に追いついた後、25日頃に大赤斑の真南を通過して、9月には前方に
抜けつつあります。BAは赤みが戻ってきたものの、大赤斑の顕著さには及ばない
ため、残念ながら「赤ダルマ」には見えませんでした。大赤斑は4月以降、ひと
月当たり+1.5°の割合で後退していましたが、8月以降はII=154°でほぼ停滞し
ていました。これがBA通過の影響かどうかは今のところ不明です。
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[図2] 大赤斑とBAの会合 撮像:風本明氏(京都府、31cm) |
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BA後方の南温帯縞(STB)の暗部は、6月に形成されたばかりですが、早くも崩壊が
始まっているようで、長さが約30°に短縮しています。暗部後方の南温帯(STZ)
にあった2つの暗斑は、8月末に合体して大きな三角模様が出現しました。前方の
STBから後方に放出される暗斑を取り込んでいるようで、2008年に観測された目
玉暗斑と同じ活動が見られます。STBのもうひとつの暗部は、II=330〜50°に見
られ、濃い前半部分とSTB南縁(STBs)に沿って伸びる後半部分に分離しつつあり
ます。どちらの暗部も前方のSTB北組織(STBn)が顕著で、ジェットストリームに
乗って前進する小暗斑が無数に見られます。
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[図3] NEBの白斑の合体 伊賀祐一氏作成の展開図を筆者改編 撮像:前田和儀氏氏(沖縄県、50cm)、山崎明宏氏(東京都、32cm)、 アントネロ・メドゥーニョ氏(イタリア、36cm)、アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、35cm)、吉田知之氏(栃木県、30cm)、柚木健吉氏(大阪府、26cm)、 ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm) |
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幅広くなった北赤道縞(NEB)は、真ん中の濃い組織によりベルトが三層構造にな
っています。以前に比べると濃淡が少なくなり、一様で単調な見え方になってき
ました。ベルト内部には3ヵ所で長さ約30°の短いリフト領域が存在します。ま
た、ベルト北部(NEBn)には5〜6個の白斑があり、II=95°にあるWSZが最も大きく
明るく見えます。伊賀祐一氏は、8月末にII=270°付近で2個の白斑が合体したと
レポートしています。それによると、2つの白斑は徐々に接近し、26日から互い
に時計回りに回り始めて、28日には合体してしまいました。そして、ひとつの丸
い白斑となった後も、内部では元の2つの白斑が回り合っていて、28日のWesley
氏の画像では、丸い白斑の内部が暗条によって2つに区切られ、まるで中国陰陽
のシンボルのような形になっています。合体後の白斑はひと回り大きくなりまし
たが、9月に入っても小白斑が後方に分離したり、内部にはモヤモヤとした明暗
が見られ、また合体の途上にあるような印象を受けます。
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