南赤道縞(SEB)は、依然として淡化したままで、SEB攪乱(SEB Disturbance)の兆
候はまったく見られません。先月号で述べた南北両組織の色調の違いも小さくな
り、SEBは隣の明るい南熱帯(STrZ)よりは薄暗いものの、痕跡のような灰色の条
が残るだけです。一方、大赤斑(GRS)は濃度が増し、オレンジよりもレンガ色に
近い色調になっています。特に外周部分がより濃いので、輪郭明瞭で大変美しく
見えます。おそらく、この20年間で最も顕著になったのではないでしょうか。
7月初めから大赤斑北側の赤斑湾(RS bay)内部に、明るい白斑が出現しています。
SEBの淡化が始まった昨年秋にも観測され、白雲が前方の南赤道縞帯(SEBZ)に浸
入して淡化を加速し、注目されました。今回もRS前方のSEBZが明るさを増してい
るので、淡化がさらに進むのかもしれません。これに伴い、7月20日頃にII=80°
付近にSEBZに淡い暗柱状の模様が現れ、一部の観測者に注目されましたが、これ
は昨年、顕著な赤茶色の暗斑として見られたバージ(barge)の痕跡で、SEBZの明
暗境界として一時的にそのような姿に見えただけのようです。灰色で拡散したバ
ージの痕跡は、大赤斑のすぐ後とII=250°付近にも見られます。今回はSEB攪乱
とは関係ありませんでしたが、過去にはこのような場所が攪乱の発生源となった
例がいくつかあります。前回の攪乱は、まさにSEBZのバージから活動が始まった
のは、記憶に新しいところですから、痕跡模様といえども十分に注意を払わなけ
ればなりません。
大赤斑のすぐ南には永続白斑BAがあり、赤色斑点同士の会合が2年ぶりに始まっ
ています。以前のBAは、赤みが強く周囲が明るかったため、会合時にはふたつの
赤色斑点が南北に並び、ダルマのような様相になるのではと期待されたのですが、
6月に起こった南温帯(STZ)の小白斑との合体現象の影響で、赤みが少し薄れ、さ
らに、BA後方にあった南温帯縞(STB)青いフィラメント領域、STBレムナント(STB
remnant)が、攪乱活動によって長さ約40°の濃いベルトに復活し、BA後部に接す
るようになったため、現在のBAはやや赤みのある「白斑」に戻ってしまい、残念
ながら当初予想されたような赤ダルマには見えていません。しかし、木星面最大
級の渦同士の会合ですから、十分に楽しみたいものです。
昨年から観測されているSTBのもうひとつの暗部は、II=340°から約70°の区間
で見られますが、BA後方の暗部より細く南寄りで、不規則な暗斑の集合のようで
す。ジェットストリーム暗斑が前端から放出されていて、BA後方の暗部との間に
は、STB北組織(STBn)に沿って無数の小暗斑が並んでいます。その南側の南南温
帯縞(SSTB)では、高気圧的小白斑(AWO)が10個確認されています。
木星面で唯一残る、濃く幅広いベルトは北赤道縞(NEB)です。中央には濃い組織
が東西に走り、活動的なリフト(rift)領域がそれを分断しています。リフトは明
るい白斑として出現し、成長すると前方南側−後方北側に傾いた乱れた明帯に発
達しますが、動きも変化も激しいので、追跡するのは大変です。NEB北縁には白
斑が増えていますが、最も目立つのは長命な白斑WSZで、大きさと明るさは群を
抜いています。ベルト南縁から伸びるフェストゥーン(festoon)はほとんど見ら
れません。EZは依然として明るく、不規則な青いフィラメント模様で満たされて
います。
北温帯縞(NTB)は全周で明瞭で、北北温帯縞(NNTB)も概ね連続したベルトとして
見えています。ただし、II=260〜50°の範囲では両者が融合し、混沌とした攪乱
部を形成しています。攪乱部の北側のII=340°付近には、メタンバンドで明るく
写る比較的大きな白斑があります。この緯度のメタン白斑はII=210°付近にもあ
りますが、こちらは可視光では薄暗く目立ちません。
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[図1] 8月初めの木星面 撮像:(左上から順に) 福井英人氏(静岡県、35cm)、熊森照明氏(大阪府、20cm)、 山崎明宏氏(東京都、28cm)、太田聡氏(沖縄県、20cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、 吉田知之氏(栃木県、30cm)(拡大) |
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| 土星 |
当観測期間における報告は、7月18日の池村氏の画像一件のみでした。環が開い
て幅広くなっています。3月から続く南熱帯(STrZ)の白雲活動は確認できません
でしたが、全体としてはEZが明るく、細く濃い南赤道縞(SEB)と拡散して不明瞭
な北赤道縞(NEB)といったパターンは変わっていません。
9月末の合に向かって、条件はどんどん厳しくなりますので、今シーズンの土星
は、これが最後の観測となるでしょう。
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