天文ガイド 惑星の近況 2011年1月号 (No.130)
堀川邦昭

10月後半は天候不順で、国内の観測は極めて低調でしたが、11月になると回復し、 晴天が続くようになりました。木星は夜半前の空で輝き、まだ観測の好機にあり ます。後述のように、待望の攪乱が発生し、観測熱が一気に高まっています。明 け方の東天には土星が見えるようになりました。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※南赤道縞攪乱の発生!

南赤道縞攪乱(SEB DisturbanceまたはSEB Revival、以下、SEB攪乱)は、淡化し た南赤道縞(SEB)が急激に濃化復活する現象です。SEBのある一点から暗斑や白斑 が発生して、乱れた領域が急速に広がって行く、木星面で最大級の現象として知 られています。

11月9日、フィリピンのクリストファー・ゴー(Christopher Go)氏は、淡化した SEBの中に小さな白斑を捉えました。白斑は小さく目立たないものでしたが、発 生場所はII=289.6°で、以前からSEB攪乱の発生場所の候補として注目されてい た、バージの痕跡模様に一致します。翌日には、各地でメタンバンドによる撮像 が行われ、白斑がこの波長帯で極めて明るく、木星大気の高層に達している雲で あることが判明しました。この特徴は、SEB攪乱の最初の暗柱に先立って出現す る白斑特有のものです。

SEB攪乱は、2007年に続き3年ぶりですが、前回はSEBがまだ淡化を始めたばかり の時に発生した変則的な攪乱でした。したがって、本格的なSEB攪乱としては、 1993年以来、17年ぶりとなります。

その後、11日になると、白斑のすぐ後方に典型的な攪乱の暗柱が形成されていま す。この暗柱はとても顕著で、眼視でも容易に捉えることができました。13日に は暗柱後方のSEB南組織(SEBs)に暗斑が形成される一方、攪乱北部は前方へ流れ て、16日までには斜めに傾いた特有の暗部へと発達し、本格的な攪乱活動が始ま ったようです。

[図1] SEB攪乱の発達
小白斑の発生から一週間で、暗色模様が東西に広がり始めている。
右はメタンバンドによる画像。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、
阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、サデグ・ゴミダデ氏(イラン、24cm)、
永長英夫氏(兵庫県、30cm)、ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)、
ジャウム・カステラ氏(スペイン、36cm)、
クリスチャン・ファッティンナンジ氏(イタリア、36cm)、
デビッド・アルディッティ氏(イギリス、36cm)


攪乱は今後、次の3つの分枝活動によって、東西に広がって行くでしょう。中央 分枝−最初の白斑の発生位置から暗柱と白斑が交互に現れ、体系IIに対して1日 当たり-1〜-2°のスピードで前方へ広がって行きます。北分枝−SEB北組織 (SEBn)に沿って暗斑や白斑が出現し、1日当たり-3〜-4°という高速で前進しま す。南分枝−SEBsを北分枝とは逆に1日当たり+3〜+4°で後退する暗斑群が見ら れます。このような活動により、SEBは数ヶ月のうちに、元の濃いベルトへと変 化するでしょう。また、南分枝の暗斑群が大赤斑(GRS)に達すると、大赤斑は急 速に赤みを失い、淡化してしまいます。これから冬に向かって条件は悪くなる一 方ですが、どのように攪乱が進展するか楽しみです。

※木星面の状況

9月に大赤斑の北側で始まった白雲の活動は、これまでになく顕著になり、10月 は赤斑湾(RS bay)の輪郭が湧出した白雲によって変形してしていました。メタン バンドの画像では、湧出場所が明瞭な白斑となっていて、今回の活動が激しいこ とを示唆しています。しかし、この活動は10月末で終息してしまい、11月にはメ タン白斑は消失し、RS bayの輪郭も元に戻っています。大赤斑は赤みが強く顕著 ですが、本体の濃度は少し落ちたように思われます。後退運動はまだ続いていて、 11月初めにはII=160°を超えたようです。

永続白斑BAは大赤斑から離れつつあり、周囲を暗い縁取りで囲まれた赤い白斑と して見られます。BAの前方では、南南温帯縞(SSTB)の2個の高気圧的白斑(AWO)が 急速に接近しつつあります。両者の間隔は、11月13日には10.7°しかありません ので、近い将来、合体現象が見られるかもしれません。このような現象は、大赤 斑とBAの会合による影響の可能性があります。南温帯縞北組織(STBn)のジェット ストリーム暗斑は、当観測期間も大赤斑後方で多数観測されました。一方、BA前 方では暗斑が連結して、一本の濃い組織に変化してしまいました。

北赤道縞(NEB)の南半分では、相変わらず数ヵ所でリフト活動が見られます。以 前に比べると、東西に長く伸びたものが増えています。一方、北半分では、長命 な白斑WSZと8月に合体した白斑が顕著です。ベルトの中央には濃い組織があり、 これに沿ってバージ(berge)が数多く見られるようになっています。昨年のバー ジはNEBの北側にありましたが、拡幅現象によってベルトが北へ広がったために、 現在は中央付近に見えるようになったという訳です。

北温帯縞(NTB)では、北縁に沿って顕著な暗斑やストリーク(streak)が存在しま す。しかし、ベルト本体は淡化しつつあり、特にII=60°から後方ではかなり淡 くなって、条件が悪いとほとんど見えなくなってしまいます。この経度では、代 わりに北北温帯縞(NNTB)が濃く見えています。

[図2] 11月の木星面
BAの前方で2つのAWOが接近している。NEBの白斑はWSZ。右端に大赤斑が見える。
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


土星

まだ条件は悪いのですが、土星が明け方の東天に昇るようになりました。この数 ヵ月の間に、環が大きく開いて土星らしい姿に戻り、両端にはカシニの空隙もは っきりと見られます。

本体では赤道帯(EZ)が明るく、北赤道縞(NEB)が幅広いベルトとして見えていま す。反対側の南赤道縞(SEB)は環の陰に隠れてしまいました。今シーズンも白斑 などの活動を期待しましょう。

[図3] 今シーズンの土星
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)


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