大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)に見られる白雲領域(post-GRS disturbance)は、
当観測期間中も活動的でした。7月中旬は整然と並んだ白斑群が見られましたが、
8月には乱れた白雲へと変化しています。6月に形成された時、活動域の長さは
80°もあったのですが、以後縮小を続けて7月末には40°と、約半分になってし
まいました。ところが、8月初めに新しい白斑がII=230°付近に出現し、活動域
は再び長くなっています。このような、活動域の縮小と再生は、post-GRS
disturbanceの特徴のひとつです。不思議なことに、メタンバンドの画像を見る
と、post-GRS disturbanceの領域は、明るくほとんど写りません。これは、この
領域の雲が対流活動によって、通常のベルトよりも高いところに吹き上げられて
wいることを示しているのかもしれません。活動域の後方では、極めて濃く太い
SEB北組織(SEBn)がII=0°付近まで続いています。
大赤斑は相変わらず周囲を暗く縁取られた赤斑孔(RS Hollow)となっています。
以前と比べると北側の縁取りが淡化して、大赤斑とSEBを隔てる白いチャネルが
復活していますが、南側のアーチは健在です。経度はII=169°(12日)で、昨シー
ズンの末からあまり変化していません。過去数年間続いていた、ひと月に1°以
上という後退運動は止まったようです。大赤斑前方のSTrZ北部を著しく暗化させ
ているストリーク(dark streak)は、現在もII=260°付近まで続いており、木星
面の4分の3を覆っています。5月に発達した盛り上がった暗部は完全に消失して
しまいました。
南温帯縞(STB)以南では、特に大きな変化は見られません。永続白斑BAはII=340°
付近にあり、暗い縁取りに囲まれた明瞭な白斑です。STBは大部分の経度で淡化
しており、南半球の中〜高緯度では南南温帯縞(SSTB)が唯一目立っています。
SSTBには今年も高気圧性の小白斑(AWO)が全周で8個ほど観測されています。
北赤道縞(NEB)では、北縁に凹凸を作っているバージ(barge)と呼ばれる赤茶色を
した横長の暗斑が目を引きます。濃く目立つものが全周で4〜5個存在しますが、
特に大赤斑の北側に見られるバージが顕著で、木星面で最も濃い模様として見ら
れることもしばしばです。このバージは元々近接した大小2個のバージでしたが、
7月20日過ぎに合体して東西に長いひとつのバージになってしまいました。この
ようなバージ同士の合体現象は、これまでにもしばしば観測されています。すぐ
隣の北熱帯(NTrZ)には大型の白斑があり、NEB北縁に浅い湾(bay)を作っています。
本体は明るいNTrZの中にあるため、わかりにくいのですが、輝度のあるものが4
個程度あり、このうち長命なWSZと呼ばれる白斑はII=20°付近に見られます。
北温帯縞(NTB)南部は全周で淡化し、青みのある淡い条が痕跡として残っていま
す。この緯度を流れる木星面最速のジェットストリームによるアウトブレーク現
象(NTBs jetstream outbreak)の発生が期待されています。この現象は、メタン
バンドで特に明るく写る小白斑の出現から始まるので、観測の際には注意が必要
です。北半球の中〜高緯度で明瞭に見られるベルトは北北温帯縞(NNTB)で、濃淡
や凹凸はあるものの概ね連続したベルトとなっています。このほか、II=300〜
110°の範囲ではNTB北組織(NTBn)が薄暗く見えており、特にII=0〜60°ではNNTB
と同程度の濃さがあります。この濃化部の後方の北温帯(NTZ)は薄暗く、やや乱
れていて、昨シーズン観測された攪乱領域の名残と思われます。
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[図1] 8月前半の木星面 最新の木星画像を体系IIで約60°間隔に並べた。 撮像:(左上から順に)阿久津富夫氏(35cm、フィリピン)、長谷部孝男氏(28cm、愛知県)、吉田知之氏(30cm、栃木県)、山崎明宏氏(32cm、東京都)、熊森照明氏(28cm、大阪府)、小澤徳仁郎氏(30cm、東京都)(拡大) |
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[図2] メタンバンドによる木星面 大赤斑後方のSEBはメタンでは明るく、ほとんど見えない。 撮像:菅野清一氏(30cm、山形県) |
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