5月下旬に大赤斑(GRS)前方の南熱帯(STrZ)で著しく発達し、南熱帯のディスロケ
ーション現象(South Tropical Dislocation)の再来と思われた暗部は、6月に入
ると急速に衰えて、現在ではほとんど元のストリーク(dark streak)に戻ってし
まいました。II=0°付近にある永続白斑BAの北からII=70°付近までの区間でス
トリーク南縁が少し乱れて凸凹しているのは、活動の名残といえます。著しい暗
部は消失しましたが、STrZのかなりの部分をストリークが覆っていますし、大部
分の南温帯縞(STB)は淡化しているので、ディスロケーションの状態は今も続い
ています。
ストリークは名残の領域のさらに前方でも南赤道縞(SEB)南縁に沿って伸びてお
り、II=270°付近までたどることができます。この区間のストリークは、ディス
ロケーション発生後にいつの間にか形成されたようですが、元のストリークの先
端が伸長したと考えると、前進速度が少し大きくなり過ぎてしまいます。元々
SEB南縁に沿って分布していた目立たない暗部が、ストリークとして発達したの
かもしれません。そのためか、BAの北を境にストリークの緯度が違っており、後
方が1°ほど高くなっています。
大赤斑は完璧な赤斑孔(RS Hollow)の状態で、Hollow内部は明るく少し赤みがあ
ります。南側のアーチは以前よりも細くなりましたが、前述の名残の領域から大
赤斑まで続くストリークは相変わらず顕著です。昨年はSEBの淡化して赤道付近
から南南温帯縞(SSTB)まで続く広大な明るい「ゾーン」の中に、赤く濃い大赤斑
がぽっかりと浮かんでいましたが、今年は明暗がまったく逆になってしまいまし
た。
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[図1] 赤斑孔とその後方の木星面 赤斑孔後方のSEBに乱れた領域が見られる。赤斑孔左上の白点はエウロパ。 撮像:吉田知之氏(30cm、栃木県) |
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SEBは南北両組織にストリークが加わり、概ね三層構造になっています。ストリ
ークと北組織(SEBn)は強く青みがありますが、南組織(SEBs)は赤茶色をしていま
す。以前は明るい南赤道縞帯(SEBZ)が大赤斑前方に伸びて、SEBが南北に分離し
て見えましたが、現在では消失しています。ベルトの南側に沿ってストリークが
存在するため、SEBは異常に幅広く見えます。特に大赤斑前方の経度では、細く
なった北赤道縞(NEB)の倍近い幅となっています。
大赤斑後方のSEBでは、ベルトの北半分に沿って乱れた白斑群が広がっています。
この領域は、SEB攪乱(SEB Disturbance)の中央分枝の活動域と重なりますので、
白斑群は攪乱活動の名残と見ることができる一方、白斑群の様相は濃化したSEB
で定常的に見られる大赤斑後方の活動領域とも酷似しています。白斑の活動領域
は、6月にはII=250°付近まで続き、約80°の長さでしたが、7月に入ると後端が
II=230°まで前進しており、急速に短縮しつつあるようです。
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[図2] 7月13〜14日の木星面展開図 赤斑孔から前方にストリークが長く伸びてSEBが異常に幅広い。 NEB北縁からNTrZにはバージと白斑を5個ずつ認めることができる。 永長英夫氏撮像・作成(兵庫県、30cm)(拡大) |
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永続白斑BAは明るさが戻り、再び明瞭な白斑として見えています。後方には今年
も短いSTBの断片が接しています。STBの断片はもうひとつあり、大赤斑の南を通
過中です。それ以外の経度のSTBは細い北組織(STBn)を残して淡化していますが、
今年もSTBn上にはジェットストリーム暗斑が見られます。その南には濃く太い
SSTBがあり、長命な高気圧的白斑(AWO)もいくつか確認できます。
NEBは北縁の後退によって著しく細くなりました。北縁の緯度は北緯16〜17°と
昨年より約4°も低く、拡幅以前の2009年よりもさらに細くなっているようです。
図3で見ると、その変化が一目瞭然です。そのため、昨年はベルトの中央付近に
あったバージ(barge)は、北縁の突起模様となっていて、昨年より数も濃度も増
したため、大変目立つ模様になりました。一方、NEB北部にあったWSZなどの白斑
は、すべて明るい北熱帯(NTrZ)にはみ出してしまい、NEB北縁にわずかに凹みを
作るのみで、目立たなくなってしまいました。赤道帯(EZ)が今年も明るいため、
NEB南縁から伸びるフェストゥーン(festoon)は元気がありません。また、NEB内
部のリフト(rift)活動もほとんど見られません。
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[図3] 最近3年間の主要なベルトの緯度変化 SEBとNEBの南縁北縁の緯度を比較してある。2010年のNEBと今年のSEBの太さに注目。阿久津富夫氏撮像・作成作成(フィリピン、35cm)、筆者改編(拡大) |
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