※南熱帯のディスロケーション現象
今年3月以降、大赤斑(GRS)の前方では、暗いアーチの先端から流れ出したストリ
ーク(dark streak)がSEBに沿って観測されていました。ストリークは5月前半ま
で長さ30°程度と短かったのですが、その後、急速に伸長して南側へ発達し、20
日頃には大きな台形状の暗部が出現しました。
木星の縞模様は通常「暗いベルト」と「明るいゾーン」で構成されていますが、
時々ゾーンが暗く、ベルトが明るいという逆のパターンが発達することがあり、
このような明暗の逆転現象をディスロケーション(South Tropical Dislocation)
と呼んでいます。ディスロケーションは、大赤斑前方の南熱帯(STrZ)を広範囲に
暗化させるストリーク(dark streak)と、南温帯縞(STB)の淡化した区間との組合
せで出現することが多く、1980年代前後に5回観測されています。一見、南熱帯
攪乱(South Tropical Disturbance)のようですが、前後端に循環気流
(Circulating Current)は存在しません。
5月29日になると、暗部はII=100°を中心に約45°の範囲に広がってしまいまし
た。本体部分の青く太いストリークは、前端がSTBに届きそうなほど南へ発達し、
後方が傾き下がった暗部となっています。ストリークは細くなりつつ大赤斑のア
ーチに続いていますが、途中に軽い段差があり、南から淡いSTB北組織(STBn)が
カーブしてつながっていますので、ここが後端と考えられます。
このような様相から、1991年以来20年ぶりにディスロケーションが出現したと考
えられたのですが、6月に入ると意外なことに、この暗部は発達していません。
暗部は1日当たり約-2°の割合で前進し、10日の画像ではII=50〜105°の区間に
見られますが、ストリークの盛り上がりは小さくなり、南縁が乱れてギザギザし
ているものの、通常のストリークに戻りつつあるようです。
この日の画像では、II=65°付近のSTBに赤みを帯びた暗斑が出現しているのが捉
えられています。このような斑点は、その色と形状から小赤斑(Little Red
Spot)と呼ばれ、ディスロケーションの活動によって形成されたと考えられます。
小赤斑は、過去のディスロケーションでも活動の末期に形成されたことがありま
すし、色は違うものの2008年に注目された南温帯(STZ)に目玉暗斑の出現時期も、
前年に観測された南熱帯攪乱の崩壊との関連が疑われるので、注目される模様で
す。
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[図1] STrZのディスロケーションの発達 左) 大赤斑前方のSEBsが盛り上がりディスロケーションが形成された。 撮像:最上聡氏(31cm、東京都)。 右) 発達したディスロケーションの詳細。撮像:阿久津富夫氏(35cm、フィリピン) |
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※その他の木星面
SEBは全周で幅広いベルトですが、北赤道縞(NEB)と比較すると、濃度はかなり劣
っています。大赤斑前方の経度では、大きく二条に分かれていますが、南赤道縞
攪乱(SEB Disturbance)中央分枝の活動域だった大赤斑後方では、ベルトの北部
に白斑がいくつか見られ、攪乱活動の名残ではないかと思われます。
大赤斑は赤斑孔(RS Hollow)の状態が続いていますが、6月に入って、南側のアー
チが細くなっているので、復活が期待されます。経度はII=165°で、今年初めか
らあまり変化していません。昨年まで観測されていた後退運動は、止まったよう
です。
NEBは太さがSEBの3分の2程度しかなく、急速に北縁の後退が進んで、ベルトが細
くなっています。WSZを始めとするNEB北部に見られた白斑は、大半が明るい北熱
帯(NTrZ)に露出して判別が難しくなってきました。一方、昨年はベルトの中央寄
りに見られた赤茶色のバージ(barge)は、ベルト北縁の突起として観測され、以
前よりも数が増えて目立つようになっています。
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[図2] NEBの太さの比較 昨年と今年の画像をNEBの太さの違いがわかるように並べた。 昨年の画像でNEB北部に埋もれている白斑が、今年はNTrZの白斑として見られる。 復活したSEBにも注目。 |
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北温帯縞(NTB)は全周で淡化して、北組織だけが淡く残っており、II=60°付近に
短い暗部が見られます。木星面最速のジェットストリームによるアウトブレーク
(NTBs jetstream outbreak)現象の発生が期待されますが、今のところ兆候あり
ません。
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