天文ガイド 惑星の近況 2011年7月号 (No.136)
堀川邦昭

水星、金星、火星、木星の4惑星が明け方の東天に集合しています。地平低く観 望には適さないのですが、かなり珍しいことです。

夜空では衝を過ぎたばかりの土星が、先月に引き続き観測の好機となっています。 木星も新しい観測シーズンがスタートしました。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

2011-12シーズン最初の観測は、24日の最上氏(東京都)によって行われました。 撮像時刻はなんと01時UT(日本時間で午前10時)ですから、完全な日中の観測です。 木星は表面輝度が低いので、太陽の強烈な散乱光を受ける日中は、撮像できると は思っていませんでした。驚きです。その後、27日と28日の明け方には阿久津氏 が観測しています。阿久津氏の画像はフィリピンという地の利によって、木星面 の概略をつかむことができます。

[図1] 今シーズンの木星面
左) 赤斑孔となった大赤斑、北側の黒点はイオの影。
右) 不明瞭な永続白斑BA、NEB北縁の白斑WSZの方が顕著。
撮像(左右とも):阿久津富夫氏(35cm、フィリピン)。


南赤道縞(SEB)攪乱により復活したSEBは、幅広い二条のベルトとして見られます。 攪乱主要部となる中央分枝の活動が見られたII=200°台は、不規則な濃淡は残っ ているものの、明るい白斑は姿を消しており、活動は概ね収まっているようです。 また、中央分枝が届いていなかった大赤斑前方のSEBは、南北組織が濃く目立ち、 間のSEBZが薄明るくなっています。

大赤斑(GRS)は周囲を暗いアーチで囲まれた赤斑孔(RS Hollow)となっています。 内部はかなり薄暗く、赤みが残っているようです。アーチは大赤斑の南から前方 に向かって伸び、SEB南縁に沿ってストリーク(dark streak)を形成しているらし く、大赤斑前方のSEBは一段と幅広く見えています。大赤斑の南側では昨シーズ ン同様、南温帯縞(STB)が淡く、南南温帯縞(SSTB)が濃い状態が続いています。 永続白斑BAはII=25°付近で健在ですが、赤みを帯びて薄暗く目立ちません。BA 後方には長さ数十度のSTBの濃化部が続いています。

北半球で目を引くのは、北赤道縞(NEB)の変化です。NEBは2009年の拡幅現象によ り、幅広いベルトとなっていましたが、今シーズンは一転して細い、拡幅以前の 状態に戻ってしまいました。特にII=200°台ではかなり細く、以前はNEBの中央 近くに見えていたバージ(barge)が北縁の突起模様となり、NEB北部(NEBn)の白斑 は半分以上北熱帯(NTrZ)に露出してしまっています。他の経度でもベルトが北側 から淡化して、北縁が急速に後退しているようです。なお、II=50°付近では、 長命な白斑WSZが顕著です。前年の拡幅現象の影響が残る1997年に出現して以来、 14年間も存続しており、この緯度の模様としては極めて長命です。おそらく、北 半球の模様としては観測史上、最も長命ではないかと思われます。不思議なこと に、WSZは同じ緯度にある他の模様よりも常に優勢で、暗い模様であるバージを 壊したり、他の小白斑との合体・吸収を繰り返して、大きく明るく成長してきま した。現在では、NEBnにあるどの白斑よりも大きく顕著で、南側にあるBAよりも 大きく明るく見えます。

北温帯縞(NTB)は南組織(NTBs)が完全に淡化し、北組織(NTBn)だけが薄暗く残っ ています。3月号にも書きましたが、NTBsを流れる木星面最速のジェットストリ ームアウトブレーク現象(NTBs jetstream outbreak)が発生する可能性が高くな っていますので、NTBs上にメタンブライトな白斑が発生していないか、十分に注 意する必要があります。

土星

北熱帯(NTrZ)の白雲活動はまだ続いていますが、だいぶ衰えてきました。かつて はNTrZの幅いっぱいに見えていた発生源の白斑は、点のように小さくなり、明る さの変化も大きくなっています。白斑の緯度は北緯40°と、以前に比べると少し 北寄りになっていますが、移動速度だけは以前とまったく変わっていません。当 観測機関は、この緯度を流れる後退方向のジェットストリームに乗って1日当た り+2.9°で後退し、5月13日にはIII=325°に達しています。発生以来、土星面を 一周プラス80°も回ってしまいました。

[図2] 発生源の白斑
4月半ばの発生源の白斑の様子。
白斑は小さいがまだ明るい。周囲の白雲は以前よりかなり薄暗くなっている。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)


白斑から流れ出した白雲は、南北に広がりながら全周を取り巻いて、NTrZを青み がかった領域にしています。両側の北赤道縞(NEB)と北側の高緯度地方がやや赤 みを帯びているのと好対照です。南北二本ある白雲の帯のうち、北側の明帯(北 分枝)は細く明瞭で、北緯50°付近でこの領域の北限を縁取っています。微細な 模様は少なく単調な帯ですが、ところどころに塊のような白斑が見られます。一 方、当初大きな白斑が連なり活動的だった南側の帯(南分枝)は、拡散して衰えて しまいましたが、北分枝とは対照的に高解像度の画像では細かい明暗が残ってい ます。南側のNEBとの境界となる北緯28°付近には、明瞭な薄暗いすじが存在し ます。両分枝の間の暗帯は、III=30〜180°の範囲で濃く目立っており、南北分 枝にある明暗によって乱れて見えます。

[図3] 南北両分枝の白雲
南北分枝とも衰えたが、この経度では中央の暗部が目立っている。
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)


土星の環の傾きは徐々に大きくなっていますが、地球が軌道上を行ったり来たり することで、環の平面に近づいたり離れたりしますので、地球から見る環の傾き は周期的に変化します。現在は+7.5°と一時的に減少中で、5月下旬に極小を迎 えます。話題となったB環中のスポーク模様は、4月25日に暗斑状のものが観測さ れたのを最後に見られなくなってしまいました。これまでのスポークは、すべて 土星本体の右側(南を上に見た場合)で観測されましたが、衝を過ぎて太陽光の当 たり方が逆になりましたので、スポークのパターンにも何か変化が出るか注目さ れます。5月以降、スポークが観測されなくなったのも、その影響なのでしょう か。なお、当観測期間の初めは衝効果により、環が本体よりも明るく輝いていま したが、5月には元の明るさに戻ってしまいました。

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