天文ガイド 惑星の近況 2011年6月号 (No.135)
堀川邦昭

現在、観測に適した明るい惑星は、4月5日におとめ座で衝を迎えた土星だけにな っています。天球上でちょうど180°離れている木星は、太陽と合(7日)を過ぎた ばかりで、火星や金星も観測に適しません。そのため、惑星の話題は土星に集中 しています。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

土星

※北熱帯の白雲活動

昨年12月に始まった白雲活動は、衰えが目立つようになってきました。発生源と なっている白斑は、一段と小さくなり、明るさもなくなっています。4月半ばの 画像で見ると、白斑の明るさは前方に伸びる白雲と同程度で、色調も濁った感じ で以前のような白さは感じられません。経度は4月14日でIII=241°でした。昨年 12月に出現したときの経度はIII=249°でしたので、土星面をほぼ一周して、元 の場所に戻ってきたことになります。当観測期間における後退速度は1日当たり +2.6°で、以前とほとんど変化していません。

熊森氏は土星の北半球を北極側から眺めた展開図を作成しており、今回の白雲活 動の様子を一望することができます。4月4〜6日の画像から作成した展開図を見 ると、発生源の白斑がIII=220°付近にあり、ここから二本の白雲が南北に広が りながら、経度減少方向に伸びて、北熱帯(NTrZ)全周を取り巻いており、間には 暗い不規則な帯が続いています。白雲活動の南北方向の広がりは、土星の北緯 25°から50°付近まで、かなり広い範囲に及んでいるようです。二本の白雲(南 北分枝)は、発生源の白斑に近いところでは明るく乱れていますが、離れるに従 って拡散して不明瞭になっており、土星面を3分の2周ほどした辺りでは、NTrZが ベールで覆われたように白っぽくなっています。ただし、高解像度の画像では、 このような経度でも微細な模様を見ることができます。

[図1] 北極方向から見た北熱帯の白雲活動
今回の白雲活動を北極側から見た展開図で、発生源の白斑から2本の白雲の帯が南北に広がりながら土星面全周を取り巻く様子が一望できる。
4月3日〜5日の熊森照明氏の画像から同氏作成。


北赤道縞(NEB)を見ると、南分枝の白雲が侵入したベルトの北部と、通常のNEBと の境界には明瞭な灰色のすじが形成されています。以前の南分枝では、かなり顕 著な活動が見られたのですが、今では衰退して目立つ白斑などはほとんどありま せん。一方、北分枝は北緯47°付近に細く明瞭なゾーンを形成しています。当初 は南分枝に比べて活動が単調でしたが、現在では、むしろこのゾーンの方が目立 つようになっています。この白い帯の緯度は、ボイジャーやカッシーニによって 観測された、土星面中緯度で最も速いジェットストリームのピークにおおよそ一 致しています。発生源の白斑から北へ流れ出した雲は、このジェットストリーム に引きずられて前方北側へ広がり、この緯度に滞留したものと想像されます。

[図2] 衰えつつある白斑
4月半ばの発生源の白斑の様子。
明るさは前方に伸びる白雲と同程度まで落ちていて、もはや白斑とはいえない。
撮像:風本明氏(京都府、31cm)


[図3] 拡散した白雲
2本の白雲の帯は大きく広がってNEBよりも幅広い。
不規則な明暗が見られる。
撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)


なお、白雲活動の北側の領域では、最近赤みが目立つようになっています。元々 この領域は青〜青緑系のみの色調でしたので、北半球を観測できるようになった 2006年以降で初めてではないかとと思われます。これが土星の季節変化によるも のか、それとも白雲活動の影響によるものかは、今のところわかりません。

※環のスポークと衝効果

前月のこのページで報告したB環中の「スポーク」模様は、今月もしばしば観測 されています。相変わらず、土星本体に対して(南を上にして)右側でのみ現れ、 反対側ではまったく見られません。4月5日に出現したものはかなり濃く、スポー クというよりは暗斑のような形状でしたが、多くの観測者によって捉えられてい ます。

当観測期間は、普段に比べて環が土星本体よりもかなり明るくなっているのが注 目されます。これは衝効果と呼ばれる現象です。通常、地球から土星を見ると、 太陽が照らす方向とは少し角度があるため、環を構成する粒子には影の部分がわ ずかながら見えています。しかし、衝の頃は太陽と同じ方向から土星を見ること になるので、影の部分がまったく見えなくなり、その分、環が明るく見えるので す。地球の月が満月の頃に明るくなるのと、同じような理由です。この現象は、 ハイリゲンシャイン現象と呼ばれることもありますし、フィリピンのクリストフ ァー・ゴー氏(Christopher Go)は、Seeliger effectと表現しています。非常に 古くから知られている現象ですが、過去の記録は多くありません。しかし、画像 で環と本体の明るさを容易に比較できるようになった近年では、毎シーズン恒例 の現象となっています。

[図4] 環のスポークと衝効果
本体右側のB環中に暗斑のような「スポーク」模様が見られる。
B環全体が衝効果によって土星本体よりもかなり明るい。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)


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