天文ガイド 惑星の近況 2011年5月号 (No.134)
堀川邦昭

もうすぐ衝を迎える土星は、おとめ座を逆行中です。まだまだシーイングの不安 定な時期ですが、観測の好機となっています。木星は西空低くなり、今期最後の 観測が報告されています。

ここでは2月後半から3月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

昨年11月に始まった南赤道縞攪乱(SEB攪乱)は、4ヵ月余りの活動で木星面全周を 取り巻き、淡化していたSEBを元の濃く太いベルトに変化させてしまいました。2 月末には、攪乱本体である中央分枝の先端が大赤斑(GRS)に到達し、大赤斑から 攪乱発生源のII=300°付近までの120°区間では、赤茶色のSEBが完全復活を遂げ ています。残りの区間では、まだベルトの中央部分(SEBZ)が明るく見えるものの、 南北両分枝の活動によってSEB北組織(SEBn)とSEB南組織(SEBs)の厚みが増してい て、SEBZはしだいに狭くなりつつあります。

[図1] 2月以降の大赤斑周辺の変化
大赤斑が赤斑孔に変化し、中央分枝が後方のSEBを埋めて行く様子に注目。
月惑星研究会の観測から伊賀祐一氏が作成した組画像を筆者が抜粋・編集


大赤斑は観測条件の悪化に伴い、楕円形の本体を認めることができなくなってい ます。2月末〜3月初めの様相は、南側を濃いアーチで囲まれた赤斑孔(RS Hollow) で、内部は薄赤く濁っています。アーチの先端はストリーク(streak)となって大 赤斑前方の南熱帯(STrZ)に伸びているようです。

北分枝と南分枝が接近している大赤斑の真北では、今年初めから両者の相互作用 による顕著な模様がしばしば出現しています。2月も赤斑湾(RS bay)の中央から 後方が青黒く縁取られ、特に17〜18日には、大赤斑の真北と後端、さらにやや後 方のSEBsの3ヵ所に真っ黒な暗斑が現れ注目されました。しかし、2月末に中央分 枝が大赤斑に到達してからは、顕著な模様は少なくなり、青みも見られなくなっ ています。

II=65°付近に位置する永続白斑BAは、以前にも増して小さく薄暗くなり、北半 球のほぼ同じ経度にある北赤道縞(NEB)北縁にある白斑WSZよりも目立たなくなっ ています。

[図2] 小さくなった永続白斑BA
矢印部分にBAがある。NEB北縁の白斑(WSZ)よりも小さい。SEB上の黒点はイオ。
撮像:池村俊彦氏(愛知県、38cm)


NEBは2009年後半以降、幅広いベルトとなっていましたが、最近は大赤斑の北側 で北縁が淡化して、元の太さに戻り始めているようです。また、ベルトの赤みが 強くなり、北部には4つの白斑と5個のバージ(barge)が認められます。これらの 特徴は、拡幅現象の余波であり、NEBの活動サイクルの一部を構成する現象です。

北温帯縞(NTB)も徐々に淡化が進行しており、南組織(NTBs)はほとんど見えなく なっています。II=350〜60°に見られる細いベルトは、北組織(NTBn)の断片です。

土星

発生から3ヵ月が経過し、北熱帯(NTrZ)の白雲活動に衰えが見え始めています。2 月前半までは、輝度の高い白斑から波打った白雲の帯が2本(南分枝と北分枝)伸 び、まるで彗星の頭部を見ているようでしたが、この頃から発生源となる白斑が 小さくなり始めました。3月に入ると白斑はさらに小さくなり、南北分枝の白斑 も近傍以外では明度が落ちて、少し青または緑の色調となっています。また、両 分枝を隔てる灰色の暗条には不規則な濃淡が生じ、暗斑状に濃い部分が見られる ようになっているので、南北分枝が痩せて隙間が開いてきたように思われます。 土星内部からの白雲の湧出し量が減少して、明帯を維持できなくなっているのか もしれません。

[図3] 最近の白雲活動
白斑本体は明るいが、後方の白雲は輝度が落ちている。
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


現在、発生源となる白斑はIII=150°付近にあり、1日当たり+2.8°という経度変 化量は変化していません。2本の白雲のうち、南分枝は前方に進むにつれて緯度 が低くなって北赤道縞(NEB)を侵しています。その先端は不明瞭で位置を特定す ることができませんが、反対側から後退してきた白斑の南側を通り過ぎて、土星 面を一周以上覆っています。縞模様が傾いて、前方が赤道寄りに、後方が極寄り になった構造は、木星でもしばしば見られます。

[図4] 土星の白雲活動の展開図
白斑本体は図の右外にある。左側ほど赤道寄り(上)になっているのがわかる。
撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)


土星の環の傾きは10°で、内部の様子がかなりよくわかるようになっていますが、 3月7日にフランスのデルクロワ氏(Marc Delcroix)が、スポークと見られる模様 が出現していると指摘して注目されています。

スポークは、土星のB環に見られる不規則な放射状の明暗模様で、1980年にボイ ジャー探査機によって発見されました。カッシーニ探査機が土星に到着した際に は、観測されませんでしたが、2005年に再び姿を現しており、環の平面の傾きが 小さい時期に出現すると言われています。

デルクロワ氏の画像では、土星本体右側のB環に不規則な濃淡が見られ、動画で はそれらが時間と共に移動して行く様子が捉えられています。これ以降、数名の 観測者がスポーク模様を報告していますが、興味深いことに、今回のスポーク模 様はすべて土星本体右側で見られ、左側のB環には全く何も見られません。なお、 2月の画像を調べると、B環中にスポークと思われる影が見られるものがあります。

[図5] 土星の環のスポーク
矢印部分の明暗が移動しているのがわかる。
撮像:マーク・デルクロワ氏(フランス、25cm)


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