天文ガイド 惑星の近況 2011年4月号 (No.133)
堀川邦昭

土星は1月27日におとめ座で留となり、いよいよ観測の好機に入りました。一方、 木星は夕暮れの西南天でどんどん高度を下げていて、まもなく観測シーズンは終 了となります。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

ついに南赤道縞攪乱(SEB攪乱)の南分枝先端が、大赤斑(GRS)に到達しました。南 分枝の暗斑によって、大赤斑は変形・淡化することが知られていますので、今回 も注目されていました。SEB南組織(SEBs)を1日当たり+3.5°で後退していた南分 枝の先端にある大きな暗斑は、1月18日頃、赤斑湾(RS Bay)の前端に達しました。 そして、東西に引き伸ばされながら半円形のBayの縁に沿って周回し、大赤斑の 後半分に濃いアーチを形成しました。1月23日から26日の画像を見ると、太い縁 取りが大赤斑の後ろ側をぐるりと囲んで、まるで楽譜のヘ音記号のような形にな る様子がわかります。

[図1] SEB攪乱南分枝と大赤斑の会合
月惑星研究会の観測から伊賀祐一氏が作成した組画像を筆者が抜粋・編集


これにより、大赤斑は赤い本体は見えているものの、アーチに囲まれた赤斑孔 (RS Hollow)のような状態になりました。しかし、アーチは長続きせず、まもな く消失してしまいました。2月の大赤斑は、やや不明瞭ながら赤みを帯びた楕円 形の本体が見えています。大暗斑に続くSEBsは、濃化して太くなっているものの、 目立った暗斑が存在せず、比較的静かな状況なので、大赤斑通過時の「かき乱し 効果」が小さかったのではないかと思われます。

当初はSEB北組織(SEBn)が単純の濃化するだけだった北分枝の活動は、1月初めか ら活発化し、中央分枝の前方のSEBnに暗斑群が形成されました。これらは北分枝 に乗って前方へ広がり、2月上旬には、II=20°付近までのSEBnが暗斑で凸凹にな っています。特に中央分枝前端と大赤斑の間では、SEBnが厚くなり、かなり乱れ ています。

北分枝の暗斑群が大赤斑の北を通過する時には、RS Bayに沿って湾曲して逆向き に流れている南分枝と接近して相互作用を起こし、顕著な模様が形成されていま す。2月初めには、真っ黒な三角形の暗斑が出現して注目されました。時には、 南に入り込んで、RS Bayの後半分を濃化させるようで、前述のヘ音記号のような アーチは、北分枝の活動も関与しているようです。なお、過去には、北分枝が大 赤斑前方で赤道帯(EZ)に入り込む現象が何度か記録されていますが、今回は観測 されていません。

SEB攪乱の本体となる中央分枝は、先端がII=190°付近まで前進し、大赤斑に迫 っています。内部は混沌としていて、個々の模様を追跡することは困難です。中 央分枝の約100°の区間では、かつての濃く幅広いSEBが復活しました。かつての 青黒い色調は姿を消し、SEB本来の赤茶色に変わっています。他の経度でも、南 北組織が濃く明瞭になっていますので、全周でSEBを認めることができるように なりました。

[図2] 攪乱活動によって復活したSEB
中央分枝の活動によって、濃く幅広いSEBが復活している。先端は大赤斑のすぐ後方に迫っている。
撮像:(左)唐澤英行氏(東京都、30cm)、(右)熊森照明氏(大阪府、28cm)


攪乱の活動はまだまだ続きそうで、中央分枝が大赤斑に到達した時に起こる変化 や、北分枝の活動の行く末などが気になりますが、合が近づいてまもなく観測で きなくなるのは残念です。

土星

北熱帯(NTrZ)の白雲活動は、現在も衰えることなく活動を続けており、活動範囲 は北赤道縞(NEB)内部の北緯25°から、NTrZよりも北側の北緯45°付近にまで及 んでいます。

土星面では30年に一度の割合で、大規模な斑点の出現が記録されており、前回の 1990年には、赤道帯(EZ)に大白斑が出現しました。北半球中緯度としては、1903 年のバーナードの斑点が有名で、上記の30年周期の活動のひとつとして知られて います。今回の活動は、これらに匹敵するか、さらに凌ぐ規模と思われます。

発生源となった北緯39°の白斑は、2月13日現在、III=80°付近にあり、1日当た り+2.8°の割合で経度増加方向に後退しています。体系IIIに対する風速に換算 すると秒速-26mで、探査機によって観測された風速分布と調和しています。2月 の白斑は、大きかった1月中と比べてやや小さくなっています。活動の衰退の予 兆なのか、一時的な変動に過ぎないかは、今後の観測を待たなければなりません。

この白斑から前方に向かって、明るい雲の帯が2本伸びています。ここでは、南 側の帯を南分枝、北側の帯を北分枝と呼ぶことにします。どちらの分枝も大きく 波打っていますが、南分枝は1月初めに比べると少し静かになったような印象を 受けます。

南分枝の白雲は、III=250°付近まで明瞭ですが、その前方では不明瞭で、強調 処理した画像でないとはっきりしません。前方ほど緯度が低くなっていて、NEB 北部に侵入しています。先端は経度減少方向に前進していて、1月末には反対側 から進んできた発生源の白斑と、III=30°付近ですれ違い、活動領域はNTrZ全周 を取り巻いてしまいました。2月9日にIII=10°付近のSEB中に見られた小さな明 部は、周回した南分枝の一部と思われます。

一方、北緯45°付近に伸びている北分枝は、III=300°付近まで明瞭に追跡でき ます。北分枝は南分枝より少し遅れて形成されましたが、これは発生源の白斑が 大きく成長した結果、北緯47°付近にピークを持つ前進方向のジェットストリー ムに捉えられたことが原因と考えられます。

[図3] 土星の白雲活動の発達
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、柚木健吉氏(大阪府、26cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)


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