天文ガイド 惑星の近況 2011年3月号 (No.132)
堀川邦昭

天球上でほぼ180°離れた木星と土星が相次いで東矩と西矩を迎え、木星は夕暮 れの南天に、土星は夜明け前の東南天に見られます。注目すべき現象が相次いで、 惑星観測者はうれしい悲鳴を上げていることでしょう。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※南赤道縞攪乱の状況

南赤道縞攪乱(SEB攪乱)は、発生から2ヵ月余りが経過し、順調に発達を続けてい ます。警戒された第2攪乱は、今のところ発生していません。過去の第2攪乱(第3、 第4を含む)は、どれも最初の攪乱から2ヶ月以内に発生しているので、今回は単 一の攪乱活動で終わると思われます。

1月に入り、SEB南組織(SEBs)を経度増加方向に伝わる南分枝の先端が、大赤斑に 到達しつつあるようです。大赤斑はSEB攪乱の南分枝の暗班群がぶつかることで、 変形・淡化することが知られています。攪乱発生前に見られたSEBsの鱗状パター ンに由来する先端の30〜40°は、淡くなってよくわからないのですが、1月初め には大赤斑に到達したようで、3日には赤斑湾(RS bay)の後端部分が暗班状に濃 くなっています。この暗班は13日になると、南熱帯(STrZ)を横切るアーチに変化 していて、注目されます。大赤斑本体は、以前に比べてやや淡く輪郭がぼやけて きましたが、それほど大きな変化ではありません。

上記の淡い先端部の次には大きな暗塊が続いており、13日にはII=130°に達して います。暗班群は1日当たり約+3.5°の割合で後退を続けていますので、1月半ば 過ぎには大赤斑にぶつかると予想されます。果たして大赤斑に劇的な変化が起こ るか注目しましょう。

SEB北組織(SEBn)を経度減少方向に広がる北分枝は、1月10日までに木星面を一周 し、発生源の北側に戻ってきました。当初、北分枝ではSEBnが単純に濃化するの みで、暗班などはほとんど見られませんでしたが、1月5日から8日にかけて、大 赤斑と中央分枝先端の間にのこぎりの歯のような暗班群が急速に形成されていま す。

[図1] SEB攪乱中央分枝の活動
撮像:最上聡氏(東京都、30cm)


SEB攪乱の本体となる中央分枝の活動は、II=230〜300°の範囲で斜めに傾いた暗 部として見られます。前方ほど細くなっていますが、前端に明瞭な段差があって、 北分枝との境界になっています。この領域の後端部分がSEB攪乱の発生源で、メ タンブライトな白斑が繰り返し発生しています。また、中央分枝の前端部も活動 的な領域で、ここでもメタンブライトな白斑が現れます。白斑は前端のスロープ に沿って大きな細長い明部に拡散、するとその中に新たな白斑が出現、といった 活動をしているようです。

[図2] SEB攪乱の発達
左向きの三角は北分枝の先端、右向きの三角は南分枝の先端を示す。また、中央分枝の範囲を矢印で示した。
永長英夫氏(兵庫県、30cm)撮像・作成の展開図を筆者編集。


※その他の木星面の状況

木星面の他の領域では、大きな変化は見られません。II=86.6°(3日)に位置する BAは、周囲を暗部に囲まれた薄暗い白斑ですが、著しく小さくなり、長径は約7° しかありません。

赤道帯(EZ)は相変わらず明るく、青いフィラメント状の模様ばかりで、顕著なフ ェストゥーン(festoon)はほとんどありません。北赤道縞(NEB)は幅広い赤茶色の ベルトで、リフト活動は消失してしまいました。ベルトの北側には、白斑が3個 と4〜5個のバージ(barge)が存在します。

北温帯縞(NTB)は南組織が淡くなっています。英国天文協会(BAA)のロジャース氏 (John Rogers)は、木星面最速であるNTB南組織(NTBs)のジェットストリームが加 速して、2007年のアウトブレーク現象(NTBs outbreak)直前と同じ状況になって いるため、近いうちに再びアウトブレークが起こると、アラートを発しています。 観測の際には、NTBs上にメタンブライトな白斑が発生していないか、十分に注意 してください。

土星

12月上旬に土星の北熱帯(NTrZ)に出現した白斑は、その後、過去に例を見ないほ ど激しい活動を続けています。最初小さかった白斑は、NTrZをはみ出して北側の 北温帯縞(NTB)の領域まで広がった巨大な明部となり、体系IIIに対して1日当た り+2.6°というかなりのスピードで経度増加方向に移動しています。これを自転 周期に換算すると10時間41分26秒となり、体系III(10時間39分22.4秒)よりも約2 分も遅いことになります。

この明部の南部から北赤道縞(NEB)北縁に沿って大型の白斑が経度減少方向にず らりと並び、明部から流れ出した白雲が大きく波打って乱れている様子がうかが えます。この白斑群の先端は、明部とは逆に経度減少方向に移動しているので、 活動領域は急激に拡大し、1月10日前後には体系IIIで170°から340°までと、土 星面のほぼ半分を覆ってしまいました。また、14日の画像では、明部の北部から も白雲が流出し、北温帯(NTZ)?に沿って広がっているのが見られます。

12月下旬に撮像されたカッシーニの画像を見ると、白斑は巨大な白雲の塊で、ま るで土星内部から湧き上がった巨大なプルームが、NTrZの雲の層を突き破って顔 を出しているようです。木星のSEB攪乱も、内部から何かが沸き上がって来るよ うな印象を受けますが、カッシーニで見る今回の白斑は想像を絶する規模です。

発生当初に比べると、白雲の輝度は少し落ちたようですが、活動はまだ当分続き そうです。今後の展開に注目しましょう。

[図3] 土星の白雲活動の発達
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


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