天文ガイド 惑星の近況 2011年12月号 (No.141)
堀川邦昭、安達誠

木星は、まもなくおひつじ座で衝となります。近日点に近いので、50秒近い大き な木星像を楽しむことが出来ます。火星も視直径が5秒超えて、表面の詳しい様 子がわかるようになってきました。

ここでは9月後半から10月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

当観測期間も木星面は落ち着いていましたが、大赤斑(GRS)前方に伸びる南熱帯 (STrZ)のストリーク(dark streak)がついに淡化を始めたのが、目を引きます。 ストリークは現在も大赤斑からII=270°付近まで、木星面の4分の3周を覆ってい ますが、永続白斑BAと大赤斑の間の区間では、コントラストが大きく低下してき ました。この経度の南赤道縞(SEB)は逆に赤みが強く、明瞭になってきましたの で、ストリークは一層淡く感じられます。過去の観測例を調べると、大赤斑前方 で発達したストリークの寿命は数ヵ月〜半年のようです。今回のストリークが形 成されたのは今年5月でしたので、そろそろ活動の終わりが近づいていると考え てよいでしょう。

この区間以外ではストリークはまだ明瞭で、BAの北側では大きく盛り上がって顕 著です。また、大赤斑の南側を囲むアーチもかなりの濃度を保っていて、赤斑孔 (RS Hollow)の状態が続いていますが、大赤斑本体には赤みが増しているため、 Hollow内部は薄暗く濁っています。経度はII=170°と、また少し後退したようで、 心なしかやや小さくなったように感じられます。

大赤斑後方のSEB活動域(post-GRS disturbance)の活動は依然として弱く、大赤 斑の直後で小規模な白斑群が見られるのみです。代わって目立つのは、異様に厚 く発達したSEB北組織で、ベルトの幅の3分の1以上もある青みの強い暗帯が、木 星面の半周以上を取り巻いています。

南温帯縞(STB)は、ほとんどの経度で淡化し、淡く細い北組織(STBn)を残すだけ となっていましたが、今夏以降、BA後方と大赤斑前方の2ヵ所でしだいに濃化復 活しつつあります。BA後方の暗部は、暗斑のように縮小して消失寸前でしたが、 現在では長さ25°の暗部として見られます。大赤斑前方の濃化部は、大赤斑の南 で濃いSTBが「生産」されているらしく、濃化部の前進とともに徐々に伸長して、 10月には約90°の長さに成長してしまいました。一方、以前は無数と言えるほど 見られたSTBnのジェットストリーム暗斑は、ほとんど姿を消してしまっています。

II=311°にある永続白斑BAは、本体に赤みが戻り、以前よりも薄暗く見えます。 赤みがあるせいで、画像では容易に識別できますが、眼視では周囲とのコントラ ストが低く、条件悪いと確認が難しくなります。南側の太い南南温帯縞(SSTB)に はAWOと呼ばれる小白斑が、全周で9個見られますが、大きさや輝度にはバラつき があります。

明るい赤道帯(EZ)には、ハケで掃いたような青いフィラメント模様が見られ、目 立つフェストゥーン(festoon)はほとんどありません。これらのフィラメント模 様は、南北のベルトから経度増加方向に向かってたなびいていて、「く」の字を 逆にしたようなパターンを作っています。EZの中央付近には、フィラメント模様 が集まって赤道紐(EB)のような薄暗いすじが見えることもあります。

細くなった北赤道縞(NEB)の北縁から北熱帯(NTrZ)には、顕著なバージ(barge) 5個とと白斑4個が並んでいますが、特に大きな変化は見られません。長命な白斑 WSZはII=350°にあり、明るいNTrZの中で核状に輝いています。前方の白斑との 距離は約30°で、期待したほどには接近していません。

シーイングが良いと、北半球高緯度には非常に細かい模様がたくさん見られます。 秋に衝となる年によく現れるので、季節的な効果とも考えられますが、同様の現 象が南極側で観測されることはありません。

[図1] 赤斑孔と永続白斑BA付近
左) 赤斑孔の前方で濃いSTBが復活している。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)。
右) BA北側のストリークが盛り上がっている。NTrZではWSZが核状に見えている。
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


[図2] 淡化し始めたSTrZのストリーク
SEBに比べて明らかに淡くなっている。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)


火星

当観測期間の火星は、Lsが0°を少し回り、北半球は春分を過ぎたところです。 北半球はしだいに暖かくなり、北極周辺の白雲の活動が非常に活発になってきま した。9月末はアキダリウム付近の観測報告が多かったのですが、このあたりは 暗色模様の上に白雲がかぶさり、雲の様子がよく分かる地域で、北緯70°付近に 濃い白雲が取り巻いている様子が観測されています。

火星の夜明け側のエッジには朝霧が広がり、北極の白雲と重なって北極冠が斜め 方向にあるかのような面白い姿を見せていますが、この季節には毎回見られる現 象です。反対に、西のターミネーター付近では夕霧が観測されています。夕霧は 9月下旬ごろから淡く記録されるようになりましたが、はっきり記録されたのは 10月2日(Ls=9°)のプポー氏(Jean Jacques Poupeau、フランス)の観測でした。

[図3] 火星の夕霧
火星像の左端に薄く広がる帯が夕霧、B画像で明瞭。
撮像:ジーン・ジャック・プポー氏(フランス、35cm)


北極冠は10月8日の池村氏の画像で、その形が捉えられているように見えるので すが、視直径が小さいため、北極冠だとは断言しにくい状況です。

[図4] 北極冠?
撮像:池村俊彦氏(愛知県、38cm)


その他の模様では、エリシウム(Elysium;215W, +23)がやや明るく記録されてい ます。また、日没直前の南半球のヘラス(Hellas;295W, -50)やアルギレ (Argyre; 35W, -50)は砂漠の色そのもので、雲に覆われていない様子が記録され ています。注目されたソリス(Solis Lacus; 90W, -25)は、前シーズンより濃く なっているようですが、Deが+方向に傾いているため、詳しい様子は分かりませ んでした。

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