当観測期間も木星面は落ち着いていましたが、大赤斑(GRS)前方に伸びる南熱帯
(STrZ)のストリーク(dark streak)がついに淡化を始めたのが、目を引きます。
ストリークは現在も大赤斑からII=270°付近まで、木星面の4分の3周を覆ってい
ますが、永続白斑BAと大赤斑の間の区間では、コントラストが大きく低下してき
ました。この経度の南赤道縞(SEB)は逆に赤みが強く、明瞭になってきましたの
で、ストリークは一層淡く感じられます。過去の観測例を調べると、大赤斑前方
で発達したストリークの寿命は数ヵ月〜半年のようです。今回のストリークが形
成されたのは今年5月でしたので、そろそろ活動の終わりが近づいていると考え
てよいでしょう。
この区間以外ではストリークはまだ明瞭で、BAの北側では大きく盛り上がって顕
著です。また、大赤斑の南側を囲むアーチもかなりの濃度を保っていて、赤斑孔
(RS Hollow)の状態が続いていますが、大赤斑本体には赤みが増しているため、
Hollow内部は薄暗く濁っています。経度はII=170°と、また少し後退したようで、
心なしかやや小さくなったように感じられます。
大赤斑後方のSEB活動域(post-GRS disturbance)の活動は依然として弱く、大赤
斑の直後で小規模な白斑群が見られるのみです。代わって目立つのは、異様に厚
く発達したSEB北組織で、ベルトの幅の3分の1以上もある青みの強い暗帯が、木
星面の半周以上を取り巻いています。
南温帯縞(STB)は、ほとんどの経度で淡化し、淡く細い北組織(STBn)を残すだけ
となっていましたが、今夏以降、BA後方と大赤斑前方の2ヵ所でしだいに濃化復
活しつつあります。BA後方の暗部は、暗斑のように縮小して消失寸前でしたが、
現在では長さ25°の暗部として見られます。大赤斑前方の濃化部は、大赤斑の南
で濃いSTBが「生産」されているらしく、濃化部の前進とともに徐々に伸長して、
10月には約90°の長さに成長してしまいました。一方、以前は無数と言えるほど
見られたSTBnのジェットストリーム暗斑は、ほとんど姿を消してしまっています。
II=311°にある永続白斑BAは、本体に赤みが戻り、以前よりも薄暗く見えます。
赤みがあるせいで、画像では容易に識別できますが、眼視では周囲とのコントラ
ストが低く、条件悪いと確認が難しくなります。南側の太い南南温帯縞(SSTB)に
はAWOと呼ばれる小白斑が、全周で9個見られますが、大きさや輝度にはバラつき
があります。
明るい赤道帯(EZ)には、ハケで掃いたような青いフィラメント模様が見られ、目
立つフェストゥーン(festoon)はほとんどありません。これらのフィラメント模
様は、南北のベルトから経度増加方向に向かってたなびいていて、「く」の字を
逆にしたようなパターンを作っています。EZの中央付近には、フィラメント模様
が集まって赤道紐(EB)のような薄暗いすじが見えることもあります。
細くなった北赤道縞(NEB)の北縁から北熱帯(NTrZ)には、顕著なバージ(barge)
5個とと白斑4個が並んでいますが、特に大きな変化は見られません。長命な白斑
WSZはII=350°にあり、明るいNTrZの中で核状に輝いています。前方の白斑との
距離は約30°で、期待したほどには接近していません。
シーイングが良いと、北半球高緯度には非常に細かい模様がたくさん見られます。
秋に衝となる年によく現れるので、季節的な効果とも考えられますが、同様の現
象が南極側で観測されることはありません。
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[図1] 赤斑孔と永続白斑BA付近 左) 赤斑孔の前方で濃いSTBが復活している。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)。 右) BA北側のストリークが盛り上がっている。NTrZではWSZが核状に見えている。 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) |
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[図2] 淡化し始めたSTrZのストリーク SEBに比べて明らかに淡くなっている。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm) |
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