当観測期間も木星面は落ち着いていましたが、大赤斑(GRS)前方に伸びる南熱帯
(STrZ)のストリーク(dark streak)がついに淡化当観測期間の木星面は、概ね落ち着いて静かでしたが、各所でゆっくりと、しか
し着実な変化が進んでいます。
まず、大赤斑(GRS)前方のストリーク(dark streak)ですが、予想に反して進行は
遅いものの、中央部分からゆっくりと淡化しており、11月にはBA北側に見られる
大きく盛り上がった部分も不明瞭になりました。このストリークは、画像で見る
とまだかなり明瞭ですが、眼視では南赤道縞(SEB)に比べて明らかに淡くなって
います。
大赤斑は南側のアーチが健在で、赤斑孔(Red Spot Hollow)の状態が続いていま
すが、11月に入って縁取りの北半分が明るくなってきました。色調が異なるので、
赤みを帯びた内部の赤斑本体とははっきりと区別できますが、これもストリーク
淡化の影響かもしれません。
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[図1] 赤斑孔とその周辺 大赤斑後方のSEBがやや活発になっている。この軽度のNEB北部も淡化しつつある。 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) |
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大赤斑後方のSEBに見られる活動領域(post-GRS disturbance)が11月初めに活発
化し、長さ約30°ほどの白雲領域が形成されて一時注目されましたが、その後縮
小してしまいました。この領域の活動は、SEBが長期に渡って安定なベルトにな
るかどうかの指標となり得るので、今後も注意が必要です。
SEBは全周で濃く太いベルトとして見られます。大赤斑後方では青黒い北組織
(SEBn)が、前方では赤茶色の南組織(SEBs)が顕著で、大赤斑前方では、ベルトの
北部に明帯(SEBZ)がII=30°付近まで伸びて、広範囲に渡ってベルトの北半分を
明るくしています。SEBの中央部では、赤茶色の小型暗斑(バージ)が数個見られ
るようになっていて、昨年のSEB攪乱(SEB Disturbance)以前に見られたものと同
種の模様と思われます。なお、メタンバンドによるSEBを見ると、ベルトの北部
が明るく、太さが半分くらいに細くなっています。昨年、SEBが淡化していた時
は、可視光とは反対に暗く太いベルトとして見られましたので、この変化はSEB
攪乱によるものと考えられます。
南温帯縞(STB)は、大赤斑の前方で復活しつつあります。大赤斑の南側に再生ポ
イントがあり、濃化したベルトがこの緯度特有の帯流に乗って前方へ移動するこ
とでSTBが長くなりつつあります。現在、前端はII=70°付近に達し、約100°の
区間で濃く太いSTBが見られます。しかし、11月に入って再生ポイントが衰えた
のか、濃化部の後半分が痩せて細くなってきましたので、今後の変化に注意です。
永続白斑BAは周囲の縁取りが消え、本体も赤みがあり薄暗いので、あまり目立ち
ません。
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[図2] 淡化し始めたSTrZのストリーク II=300°付近NEBの太さを比べた。昨年と比べると、約1/3に細くなっている。 撮像:風本明氏(京都府、31cm)、吉田知之氏(栃木県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm) |
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北半球では、昨年に比べて著しく細くなった北赤道縞(NEB)が、さらに細くなる
兆候を示しています。木星面で最も目立つII=130°にある巨大なバージ(barge)
から約半周の区間で、ベルトの北側が淡くなって、太さがわずか5°と、現在の
6割程度になりつつあります。昨年のNEBは14〜15°もありましたので、1年の間
に3分の1近くに細くなってしまったことになります。これほど細くなった状態の
NEBは、少なくともこの30年間では観測されていません。淡化部分はまだ完全に
は消失しておらず、薄茶色の領域として見えており、バージの前後では本来の
NEBが残っていますが、じわじわと淡化が進行しているようです。このため、元
のベルト北縁にあったバージは、著しく北熱帯(NTrZ)に突出して見えます。
NEBの北側でも縞模様の淡化が進んでいます。北温帯縞(NTB)は元々南組織(NTBs)
がほぼ消失し、痕跡が青いすじとして残るだけでしたが、北組織(NTBn)も徐々に
淡くなり、II=0〜130°の区間を残してほとんど見えなくなっています。また、
少し前まで明瞭だった北北温帯縞(NNTB)も全体的に淡化して、不明瞭になってい
ます。なお、当観測期間はNNTBの南縁(NNTBs)に沿って小さな暗斑群が観測され
ています。これらはNNTBsの流れるジェットストリームに乗っており、高速で前
進しています。
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