天文ガイド 惑星の近況 2013年1月号 (No.154)
堀川邦昭
木星はおうし座の角の間をヒヤデスに向かって逆行中です。秋が深まり、季節風 の吹き出しにより、シーイングの悪い日が増えてきましたが、夜半にはほとんど 頭の上に達してしまいますので、高度によってある程度相殺されているようです。 他の惑星は観測に適しませんが、土星の初観測が報告されています。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

10月から11月にかけて、北赤道縞(NEB)北縁では3つの白斑が相次いで衝突すると いう、大変珍しい現象が観測されています。シーズン当初、NEBでは激しい活動 が続いていましたが、8月以降は徐々に落ち着き、ベルトの北縁には白斑がいく つか見られるようになりました。このうち最も目立つものは、先月号で紹介した 長命なWSZですが、その前方にも明るい白斑が2つあり、経度の若い方がWSB、後 方のものがWSAと名づけられました。先頭のWSBがII=70〜80°で動きが遅いのに 対して、後方のWSAとWSZは1日当たり-1°程度のスピードで前進していたため、 2つの白斑は11月中頃に衝突し、過去に観測された例のように合体すると予想さ れました。

[図1] NEB北縁の合体白斑とWSZ
3つの白斑が合体してひとつの大きな白斑になっている。左下は合体白斑を拡大したもの。後方のWSZもいずれ衝突すると予想される。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

ところがこの間に、WSAとWSZの間にあった小さな白斑(WSC)が-2.7°/日という高 速で前進し、10月末〜11月初めにかけてWSAと衝突してしまいました。WSCの前進 速度はの緯度帯としては異例の速さですが、これはWSCが他の白斑よりもやや北 に位置していたため、北温帯縞南縁(NTBs)を流れる木星面最速のジェットストリ ームの影響を受けたためと考えられます。高解像度の画像で追跡すると、WSCは 10月31日にWSAに追いつき、北側から周り込むように合体したようです。この影 響により11月初めのWSAは、激しく変化する灰色の雲の断片によって一時的に形 が崩れましたが、10日頃までには明るく復活したようです。

一休みする間もなく、12日にはWSAがWSBに追いつき、衝突に伴う一連の現象が再 び始まりました。12日はまだWSAはWSBとほぼ同じ緯度にありましたが、13日にな るとWSAが明らかに北へ移動し、14日にははっきりとWSBを回り込み始めています。 そして17日のゴー氏の画像では、WSAとWSBは合体してひとつの大きな白斑になっ てしまいました。この白斑の内部をよく見ると、白斑の左下に明るい領域があり ますので、両者はまだ完全に合体したのではなく、互いに回りあっている段階と 思われます。おそらく、この号が発売される頃には合体が完了して、以前よりも ひと回り大きな白斑になっていると予想されます。

さらに、この合体白斑の後方にはWSZが控えており、着々と接近しつつあります。 11月中旬の両者の間隔は約50°なので、来年早々にはもう一度、白斑同士の衝突 現象が観測できるはずです。WSZは過去15年間に渡ってこのような衝突・合体を 繰り返し、しだいに大きく顕著な白斑に成長して来ましたので、次の衝突を経て、 WSZがどのように進化するのか、大変興味深いものがあります。

[図2] NEB北縁の白斑の衝突・合体の経過
NEB北縁の白斑が次々と衝突・合体する様子を月惑星研究会の観測からまとめた。10月末〜11月初めにWSAとWSBが合体し、11月半ばにはWSAとWSBが合体を始めている。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、吉田智之氏(栃木県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、エドウィン・ポッティリウス氏(ベルギー、31cm)

永続白斑BAと後続の小暗斑(CD1)は大赤斑(GRS)の南側を通過して前方に抜けまし た。現在は南温帯縞(STB)の低気圧性の白斑(CW1)が通過中で、後方からSTBの暗 部が接近しつつあります。会合期間中、大きな変化は認められませんでしたが、 大赤斑の周囲に小さな暗斑やストリークの切れ端がしばしば観測されました。英 国天文協会(BAA)のRogers氏のレポートによると、これらは大赤斑を4.5日の周期 で周回していたとのことです。これらの小さな模様は、BAと一連の模様が大赤斑 と会合したことにより、STBの断片が大赤斑に取り込まれたものと思われます。

大赤斑はII=185°とやや後退しました。10月末の大赤斑は再び異様に小さくなり、 29日の画像では約13°しかありません。19世紀末に30°以上もあった大赤斑の長 径は、その生涯を通じて小さくなる傾向にあります。70〜80年代は20°前後で比 較的安定していましたが、90年代以降は徐々に小さくなって、近年は15°前後と なっていました。今シーズンの変化は、それに拍車がかかっている可能性を感じ させられますし、BAや一連の模様が南側を通過した影響のひとつなのかもしれま せん。

土星

10月26日の合を過ぎ、土星は明け方の東天に姿を現すようになりました。今シー ズンの最初の観測が、最上氏(東京都)から報告されています。まだ条件が悪く、 表面の詳しい状況はわかりませんが、環が大きく開いて土星本体と同じくらいの 幅になっています。どのような土星面になっているか、今後が楽しみです。

[図3] 今シーズン最初の土星
環が大きく開いている。撮像:最上聡氏(東京都、40cm)

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