10月から11月にかけて、北赤道縞(NEB)北縁では3つの白斑が相次いで衝突すると
いう、大変珍しい現象が観測されています。シーズン当初、NEBでは激しい活動
が続いていましたが、8月以降は徐々に落ち着き、ベルトの北縁には白斑がいく
つか見られるようになりました。このうち最も目立つものは、先月号で紹介した
長命なWSZですが、その前方にも明るい白斑が2つあり、経度の若い方がWSB、後
方のものがWSAと名づけられました。先頭のWSBがII=70〜80°で動きが遅いのに
対して、後方のWSAとWSZは1日当たり-1°程度のスピードで前進していたため、
2つの白斑は11月中頃に衝突し、過去に観測された例のように合体すると予想さ
れました。
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[図1] NEB北縁の合体白斑とWSZ |
3つの白斑が合体してひとつの大きな白斑になっている。左下は合体白斑を拡大したもの。後方のWSZもいずれ衝突すると予想される。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm) |
ところがこの間に、WSAとWSZの間にあった小さな白斑(WSC)が-2.7°/日という高
速で前進し、10月末〜11月初めにかけてWSAと衝突してしまいました。WSCの前進
速度はの緯度帯としては異例の速さですが、これはWSCが他の白斑よりもやや北
に位置していたため、北温帯縞南縁(NTBs)を流れる木星面最速のジェットストリ
ームの影響を受けたためと考えられます。高解像度の画像で追跡すると、WSCは
10月31日にWSAに追いつき、北側から周り込むように合体したようです。この影
響により11月初めのWSAは、激しく変化する灰色の雲の断片によって一時的に形
が崩れましたが、10日頃までには明るく復活したようです。
一休みする間もなく、12日にはWSAがWSBに追いつき、衝突に伴う一連の現象が再
び始まりました。12日はまだWSAはWSBとほぼ同じ緯度にありましたが、13日にな
るとWSAが明らかに北へ移動し、14日にははっきりとWSBを回り込み始めています。
そして17日のゴー氏の画像では、WSAとWSBは合体してひとつの大きな白斑になっ
てしまいました。この白斑の内部をよく見ると、白斑の左下に明るい領域があり
ますので、両者はまだ完全に合体したのではなく、互いに回りあっている段階と
思われます。おそらく、この号が発売される頃には合体が完了して、以前よりも
ひと回り大きな白斑になっていると予想されます。
さらに、この合体白斑の後方にはWSZが控えており、着々と接近しつつあります。
11月中旬の両者の間隔は約50°なので、来年早々にはもう一度、白斑同士の衝突
現象が観測できるはずです。WSZは過去15年間に渡ってこのような衝突・合体を
繰り返し、しだいに大きく顕著な白斑に成長して来ましたので、次の衝突を経て、
WSZがどのように進化するのか、大変興味深いものがあります。
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[図2] NEB北縁の白斑の衝突・合体の経過 |
NEB北縁の白斑が次々と衝突・合体する様子を月惑星研究会の観測からまとめた。10月末〜11月初めにWSAとWSBが合体し、11月半ばにはWSAとWSBが合体を始めている。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、吉田智之氏(栃木県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、エドウィン・ポッティリウス氏(ベルギー、31cm) |
永続白斑BAと後続の小暗斑(CD1)は大赤斑(GRS)の南側を通過して前方に抜けまし
た。現在は南温帯縞(STB)の低気圧性の白斑(CW1)が通過中で、後方からSTBの暗
部が接近しつつあります。会合期間中、大きな変化は認められませんでしたが、
大赤斑の周囲に小さな暗斑やストリークの切れ端がしばしば観測されました。英
国天文協会(BAA)のRogers氏のレポートによると、これらは大赤斑を4.5日の周期
で周回していたとのことです。これらの小さな模様は、BAと一連の模様が大赤斑
と会合したことにより、STBの断片が大赤斑に取り込まれたものと思われます。
大赤斑はII=185°とやや後退しました。10月末の大赤斑は再び異様に小さくなり、
29日の画像では約13°しかありません。19世紀末に30°以上もあった大赤斑の長
径は、その生涯を通じて小さくなる傾向にあります。70〜80年代は20°前後で比
較的安定していましたが、90年代以降は徐々に小さくなって、近年は15°前後と
なっていました。今シーズンの変化は、それに拍車がかかっている可能性を感じ
させられますし、BAや一連の模様が南側を通過した影響のひとつなのかもしれま
せん。
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