10月末にWSCと合体した北赤道縞(NEB)北縁の白斑WSAは、続いてWSBと衝突合体し、
11月17日にはひとつの白斑となりました。当初、この合体白斑は北熱帯(NTrZ)に
大きく広がって、後方にある長命なWSZの倍ほどもある大きな白斑でしたが、そ
の後しだいに凝集し、11月末にはWSZと同じくらいのサイズと明るさになってい
ます。同じ緯度にありながら前進速度の異なる3つの白斑が衝突したのですが、
面白いことに合体白斑WSA+WSB+WSCは、WSAの前進速度を継承しており、1日当た
り-1°の割合で前進を続けています(図2)。WSZもほぼ同じスピードで前進してい
るため、期待されたさらなる衝突現象は、しばらくおあずけとなっています。
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[図2] NEB北縁の白斑のドリフトチャート |
WSA、WSB、WSCが合体した白斑は、WSAの動きを引き継いでいる。後方のWSZも同じようなスピードで前進している。 |
シーズン初めの6月〜7月にピークを迎えた北半球の大変動によって、NEBは大き
く拡幅したのですが、11月以降、北縁が不明瞭な区間が見られるようになってい
ます。特に上記の合体白斑から大赤斑(GRS)があるII=180°までの範囲では、ベ
ルトの北半分にかなり濃淡があり、北縁が淡く不明瞭になっています。ベルトの
太さが周期的に変化するNEBの活動サイクルは、周期が4〜5年の長さなのですが、
今回は早くも北縁が後退してベルトが細くなる時期に入ったようです。
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[図1] 大赤斑と永続白斑BA |
どちらも赤みが強く顕著。BAはリング構造が明瞭。NEB北縁は淡化が始まり、不規則な濃淡が見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm) |
大赤斑はII=187°にあり、ゆっくりと後退を続けています。オレンジ色が鮮やか
で、輪郭もはっきりしており、大変よく目立ちます(図1)。9月末と10月末に一時
的ではあるものの、長径が約13°まで小さくなりましたが、現在は概ね14〜15°
と安定しているようです。しかし、2000年代に比べるとひと回り小さくなった感
じは否めません。永続白斑BAと後続の模様は大赤斑から離れ、現在は南温帯縞
(STB)の濃化部(dark section)の先端が南側を通過し始めています。BAは大変顕
著で、大赤斑よりも赤みが強く感じられます。中心が明るいリング状をしていま
すが、シーイングがよければ眼視でもリングになっているのがわかります。
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[図3] 12月13日の木星面 |
SEB南縁に細かい凹凸が増えた。NEBはII=50〜200°で北縁が淡化を始めている。撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、筆者改編 |
図3は永長氏による全面展開図です。8時間の間に撮像した9枚の画像から作成し
たもので、大変な労作です。木星は自転が速いので、夜の長い冬場はシーイング
に恵まれない代わりに、このような離れ業が可能になります。展開図では、南赤
道縞(SEB)南縁には暗斑や突起模様(projection)が多くなって来たのが目につき
ます。目立つ暗斑について調べたところ、+2°/dayで後退していることがわかり
ました。SEB南縁には-50m/s(+4°/day相当)という強いジェットストリームが流
れています。暗斑は完全ではないものの、ジェットストリームの影響を強く受け
ているようです。今後、ジェットストリームがさらに活動的になると、SEBが長
期間に渡って安定なベルトになり、mid-SEB outbreakなどの現象が再発すること
も考えられますので、注意が必要です。
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