夏頃に比べて大赤斑(GRS)の赤みが増して、大変目立つようになっています
(図1(A))。南赤道縞(SEB)が淡化して、大赤斑が際立っていた2010年を凌ぐほど
です。中心付近がやや濃いようですが、内部はほとんど一様で、楕円形の輪郭が
シャープです。SEBが濃い時期に大赤斑がこれほど顕著になるのは、珍しいこと
です。今シーズンの大赤斑は、長径の縮小が話題になっていますが、当観測期間
も13〜14°と小さめの状況が続いています。経度は徐々に後退し、II=190°前後
にあります。1980年代前半に大きく前進した大赤斑は、1987年にII=10°台に達
した後、後退に転じ、以後多少のふらつきはあるものの、一貫して後退運動を続
けています。25年かけて木星面をほぼ半周したことになり、ベテランの観測者に
とっては感慨深いものがあります。
現在、大赤斑の南側を長さ60°の南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。以前はも
っと長かったのですが、後半部分が淡化して小暗斑の連鎖に分解してしまいまし
た。永続白斑BAはリング状の赤色斑点として目立っており、その直後にある小暗
斑も健在です。BAは、以前よりも拡散して、輪郭が不明瞭です。経度はII=145°
で、大赤斑から40°も離れてしまいましたが、後方からSTBの暗部が追いつきつ
つあり、両者の間隔は30°を割っています。
現在、木星面で最も顕著なベルトはSEBです。相変わらず南縁が活動的で、暗斑
や突起模様(projection)が多数見られます(図1(B))。先月号で触れた後退暗斑は、
大赤斑まであと40°に近づいています。後退速度は徐々に落ちていますが、2月
中には大赤斑に到達するものと思われます。周辺には他にも後退暗斑があるので、
大赤斑にどのような影響を及ぼすか注目です。
SEB本体を見ると、青みの強い中央組織が弱まり、ベルト南部は特徴に乏しくな
っています。一方、北部には小さく不規則な白斑が相変わらず多数見られます。
大赤斑後方のSEB広がる白雲の活動域(post-GRS disturbance)は比較的落ち着い
ており、細長い明帯がII=300°付近まで伸びています。II=270°付近のSEB南縁
が淡く乱れているのは、活動域の影響と思われます。
南南温帯縞(SSTB)には9個の高気圧性の白斑(AWO)が確認できます。これらは時々
発生や消失によって入れ替わりながら、常に8〜10個ほど存在しており、いくつ
かは15年以上の寿命があるようです。今シーズンは4個、3個、2個の3つのクラス
ターに分かれていて、現在は4個のクラスターがBAから大赤斑の南側に見られま
す。
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[図1] 最近の木星面 |
(D)の白黒画像は同日のメタンバンドによる画像。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、山崎明宏氏(東京都、32cm) |
北半球に目を移すと、11月に北赤道縞(NEB)北縁の複数の白斑が合体してできた
大型の白斑(以下、WSA+と表記します)が、II=25°付近で明るく目立っています
(図1(C))。元々は太いNEBの北縁に食い込んだ白斑でしたが、合体により大きく
なったため、北熱帯(NTrZ)に大きく張り出して見えます。25°後方には長命な白
斑WSZがありますが、WSA+と比べるとやや明るさで劣るようです。どちらの白斑
もこの緯度帯としては大きな前進速度を持っていますが、WSZの方がやや速いた
め、徐々に接近しつつあります。2月中には再び衝突現象が観測できるかもしれ
ません。
NEBはWSZの後方から約半周でベルト北部の淡化が始まっています。淡化した部分
はまだ薄暗く見えていますが、一見してベルトが細くなってきました。淡化領域
は今後経度方向に広がるとともに、明るさも増してNTrZと同化して行くはずです。
ベルト内部では、12月に広い範囲でリフト領域が発達しましたが、現在は衰えて
2ヶ所で活動が残るのみとなっています。赤道帯(EZ)は夏頃に比べて明るくなっ
ており、濃く太かった赤道紐(EB)は淡く目立たなくなっています。また、NEB南
縁から伸びるフェストゥーン(festoon)も、顕著なものが少なくなっているよう
に思います。
北温帯縞(NTB)は相変わらず太く目立つベルトです。赤みの強い南組織と、青く
ギザギザし北組織が特徴的です。NTBの北にはほとんど模様がありませんが、II=
270°に大きな赤色斑点があります(図1(D))。濃度はありませんが、周囲が暗い
模様に乏しいため良く目立ちます。この斑点はメタンバンドで大変明るく写りま
す。この緯度帯には他にも2つメタン白斑がありますが、可視光ではほとんど見
えません。
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