天文ガイド 惑星の近況 2013年3月号 (No.156)
堀川邦昭
木星は衝からまだひと月しか経っていないのですが、南中時刻はずいぶん早くな っています。私の住む神奈川県は西側に高い山が連なっているせいか、1年を通 して西空のシーイングは良くありません。強い西風の吹く冬は特にひどくなりま す。土星は西矩が近くなりましたが、条件が悪く観測数は少ないままです。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

夏頃に比べて大赤斑(GRS)の赤みが増して、大変目立つようになっています (図1(A))。南赤道縞(SEB)が淡化して、大赤斑が際立っていた2010年を凌ぐほど です。中心付近がやや濃いようですが、内部はほとんど一様で、楕円形の輪郭が シャープです。SEBが濃い時期に大赤斑がこれほど顕著になるのは、珍しいこと です。今シーズンの大赤斑は、長径の縮小が話題になっていますが、当観測期間 も13〜14°と小さめの状況が続いています。経度は徐々に後退し、II=190°前後 にあります。1980年代前半に大きく前進した大赤斑は、1987年にII=10°台に達 した後、後退に転じ、以後多少のふらつきはあるものの、一貫して後退運動を続 けています。25年かけて木星面をほぼ半周したことになり、ベテランの観測者に とっては感慨深いものがあります。

現在、大赤斑の南側を長さ60°の南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。以前はも っと長かったのですが、後半部分が淡化して小暗斑の連鎖に分解してしまいまし た。永続白斑BAはリング状の赤色斑点として目立っており、その直後にある小暗 斑も健在です。BAは、以前よりも拡散して、輪郭が不明瞭です。経度はII=145° で、大赤斑から40°も離れてしまいましたが、後方からSTBの暗部が追いつきつ つあり、両者の間隔は30°を割っています。

現在、木星面で最も顕著なベルトはSEBです。相変わらず南縁が活動的で、暗斑 や突起模様(projection)が多数見られます(図1(B))。先月号で触れた後退暗斑は、 大赤斑まであと40°に近づいています。後退速度は徐々に落ちていますが、2月 中には大赤斑に到達するものと思われます。周辺には他にも後退暗斑があるので、 大赤斑にどのような影響を及ぼすか注目です。

SEB本体を見ると、青みの強い中央組織が弱まり、ベルト南部は特徴に乏しくな っています。一方、北部には小さく不規則な白斑が相変わらず多数見られます。 大赤斑後方のSEB広がる白雲の活動域(post-GRS disturbance)は比較的落ち着い ており、細長い明帯がII=300°付近まで伸びています。II=270°付近のSEB南縁 が淡く乱れているのは、活動域の影響と思われます。

南南温帯縞(SSTB)には9個の高気圧性の白斑(AWO)が確認できます。これらは時々 発生や消失によって入れ替わりながら、常に8〜10個ほど存在しており、いくつ かは15年以上の寿命があるようです。今シーズンは4個、3個、2個の3つのクラス ターに分かれていて、現在は4個のクラスターがBAから大赤斑の南側に見られま す。

[図1] 最近の木星面
(D)の白黒画像は同日のメタンバンドによる画像。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、山崎明宏氏(東京都、32cm)

北半球に目を移すと、11月に北赤道縞(NEB)北縁の複数の白斑が合体してできた 大型の白斑(以下、WSA+と表記します)が、II=25°付近で明るく目立っています (図1(C))。元々は太いNEBの北縁に食い込んだ白斑でしたが、合体により大きく なったため、北熱帯(NTrZ)に大きく張り出して見えます。25°後方には長命な白 斑WSZがありますが、WSA+と比べるとやや明るさで劣るようです。どちらの白斑 もこの緯度帯としては大きな前進速度を持っていますが、WSZの方がやや速いた め、徐々に接近しつつあります。2月中には再び衝突現象が観測できるかもしれ ません。

NEBはWSZの後方から約半周でベルト北部の淡化が始まっています。淡化した部分 はまだ薄暗く見えていますが、一見してベルトが細くなってきました。淡化領域 は今後経度方向に広がるとともに、明るさも増してNTrZと同化して行くはずです。 ベルト内部では、12月に広い範囲でリフト領域が発達しましたが、現在は衰えて 2ヶ所で活動が残るのみとなっています。赤道帯(EZ)は夏頃に比べて明るくなっ ており、濃く太かった赤道紐(EB)は淡く目立たなくなっています。また、NEB南 縁から伸びるフェストゥーン(festoon)も、顕著なものが少なくなっているよう に思います。

北温帯縞(NTB)は相変わらず太く目立つベルトです。赤みの強い南組織と、青く ギザギザし北組織が特徴的です。NTBの北にはほとんど模様がありませんが、II= 270°に大きな赤色斑点があります(図1(D))。濃度はありませんが、周囲が暗い 模様に乏しいため良く目立ちます。この斑点はメタンバンドで大変明るく写りま す。この緯度帯には他にも2つメタン白斑がありますが、可視光ではほとんど見 えません。

土星

土星は、環の傾きが20°を超えて、短径が本体の8割ほどになり、ほとんど土星 を包み込むように見えています。やはり環が大きく開いた土星は、見栄えの良い ものです。

真冬の悪気流に低高度という悪条件が重なり、土星面の模様の詳細はほとんどわ かりません。報告された画像では、北赤道縞(NEB)が赤いベルトとして見えてい る一方、大規模な白雲活動の影響が残る北熱帯(NTrZ)から北温帯縞(NTB)にかけ ては強い緑系の色調が広がって、際立ったコントラストを見せています。

最も明るく見えるのは赤道帯(EZ)で、クリーム色のゾーン中央には赤道紐(EB)を はっきりと認めることができます。他では北温帯(NTZ)が薄明るく見える程度で す。NTZとNTBの境界は不規則に波打っていて、暗斑や白斑も存在するようです。

[図2] 昨年末の土星
NTZ南縁には白斑のような明部が見られる。撮像:トレバー・バリー氏(オーストラリア、40cm)

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