★白斑の衝突現象
昨年の10月末〜11月前半に白斑の多重衝突が観測された北赤道縞(NEB)北縁で、
再び白斑同士の衝突現象が始まっています。今回の衝突は、昨年の多重衝突の結
果、3つの白斑が合体したWSA+と、1997年に形成されて以来、この緯度帯を代表
する模様となっているWSZによるものです。WSA+は北半球の大変動後に形成され
た若い白斑で、多重衝突を経てこの緯度で最も明るく大きな白斑に急成長しまし
た。一方、WSZは16年存続する間に、多くの白斑と衝突合体を繰り返して成長し
た、この緯度帯の主とも言える存在です。両者の衝突・合体は、今シーズン最も
注目に値する現象です。
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[図2] WSA+とWSZの衝突・合体 |
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、アラン・コッフェルト氏(米国、28cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)、米山誠一氏(神奈川県、25cm)、パスカル・ルメール氏(フランス、28cm) |
WSZの前進速度は過去最高(-1.5°/日)を記録していたため、WSA+にすぐに追いつ
くと予想されましたが、WSA+も-1.0°/日で前進したため、当初はなかなか接近
しませんでした。しかし、今年に入ってWSA+が-0.7°に減速したため、1月末に
はWSZがWSA+のすぐ後ろに追いついてしまいました。2月4日になると、WSZが少し
北へシフトしているのが捉えられました。北半球の高気圧的渦である白斑は、衝
突の際、互いに時計回りに回りながら合体します。北へのシフトは白斑が合体す
る兆候です。11月にWSAとWSBが合体した時は、WSAの緯度が変化し始めてから数
日で合体したのですが、今回は予想に反して、両者の位置関係はその後一週間近
く変化が見られませんでした。前回より白斑の相対速度が近かったためかもしれ
ません。
その後、10日になってようやくWSZがWSA+の北へ回り込み始め、衝突・合体が始
まりました。14日の小澤徳仁郎氏(東京都)の画像で見ると、WSA+とWSZの位置が
逆転しており、互いに回りあっているのがわかります。翌日の15日になると、2
つの白斑を識別できなくなっていて、合体の最中と思われます。
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[図3] 合体白斑のドリフトチャート |
月惑星研究会の画像から筆者測定 |
★その他の状況
当観測期間の木星面は、全体としては大きな変化は見られませんでした。NEBは、
白斑の合体が起こっているII=20°から後方で、木星面の半周以上に渡ってベル
ト北部の淡化が進んでいます。通常、拡幅したNEBは1年程度太い状態にあります
ので、今回はだいぶ早く細くなり始めたようです。2011年のように異常に細くな
る可能性もあると思われます。
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[図1] 永続白斑BAに迫るSTB |
NEBでは北縁の淡化が進んでいる。撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、32cm) |
大赤斑(GRS)の南を南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。9月に大赤斑を通過した
永続白斑BAより前進速度が速いため、急速に追いついて、後方30°に迫っていま
す。いずれBAに連結すると思われますが、その前にBA後方にある小暗斑や青みの
ある白斑との衝突が起こるはずです。青い白斑は、2010年にSTB暗部と衝突した
際、攪乱活動を起こしたフィラメント領域(FFR)の一種と思われますので、注意
が必要です。
I=80°付近の赤道帯南部(EZs)に軽い乱れが見られます。これは、SED(South
Equatorial Disturbance)と呼ばれる、南赤道縞北組織(SEBn)を分断するリフト
と、EZsの青黒い暗部や白斑などの模様から成る領域です。普段は目立たないの
ですが、時々急激に発達することがあります。
昨年の大変動で濃化復活した北温帯縞(NTB)とは対照的に、北側の北北温帯縞
(NNTB)は淡化消失した状態が続いています。2月にII=300°前後のNTB北側で小暗
斑が一列に並んでいるのが捉えられています。これらはNNTB南縁のジェットスト
リーム暗斑で、1日に-3°前後で前進しています。これをきっかけにNNTBが復活
するかもしれません。
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