天文ガイド 惑星の近況 2013年5月号 (No.158)
堀川邦昭
春の訪れと共に暖かい日が多くなり、夜間の観測も楽になってきました。しかし、 春先は大気が不安定で、シーイングの良い日が長続きしません。木星は西に傾く のが早くなり、一方、土星は夜半前に昇るようになっています。

ここでは2月後半から3月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星


★続・白斑の衝突現象

注目された北赤道縞(NEB)北縁の白斑、WSZとWSA+の衝突現象は、2月10日頃にWSZ がWSA+の北へ回り込みを始め、15日以降はひとつの白斑とその後方にアーチ状の 明部が巻きついた形状に変化し、ふたつの白斑を識別することができなくなりま した。白斑が日増しに明るく明瞭になる一方で、アーチ型の明部は徐々に小さく なって白斑から離れて行きました。おそらくアーチ型の明部から一部が剥ぎ取ら れて、白斑に取り込まれたものと思われます。2月下旬には衝突現象は一段落し て、ひとつの大きな白斑が残りました。衝突時の位置関係や衝突直後の白斑の前 進速度(ドリフト)がWSZの値(1日当たり-1°)に近いことから考えて、白斑とアー チ型の明部はそれぞれWSZと衝突によって壊されたWSA+であり、明部(WSA+)の一 部は引き剥がされてWSZに取り込まれたものと考えられます。白斑(WSZ)は衝突前 よりもひと回り大きくなり、3月も明るく顕著です。一方、WSA+のちぎれた残骸 である明部は、3月初めにはWSZから30°ほど後方で乱れた明部として見られまし たが、その後は衰えてしまったようです。

1997年以来存続し、この緯度の主とも言える存在となったWSZと、今シーズン合 体を重ねて急速に成長したWSA+の一騎打ちとして注目された今回の衝突現象でし たが、結果はWSZの圧勝に終わったようです。今後もWSZはNEB北縁に見られる白 斑の親玉として君臨するでしょう。南半球の大赤斑(GRS)や永続白斑と同じよう な高気圧性の白斑ですので、将来は赤化して話題になるかもしれません。

[図1] WSA+とWSZの衝突
最終的にひとつの大きな白斑となった。矢印はWSA+の残骸と思われる明部。撮像:米山誠一氏(神奈川県、25cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、パスカル・ルメール氏(フランス、28cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

★永続白斑BA後方の変化

大赤斑の南を通過した長さ60°の南温帯縞(STB)の暗部が、前方を進む永続白斑 BAに追いついて、周辺の模様と激しい相互作用を始めています。

[図2] BA後方のSTBの変化
STB暗部がBAに接近し、間の明るい領域を乱して暗化させている。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、マーチン・モバリー氏(英国、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

STBの暗部は2008年に大赤斑前方に出現した薄暗い暗斑が成長したもので、前進 速度が他の模様よりやや大きく、5年かけて木星面の3分の2周も離れていたBAに 追いついてきました。一方、BAの後方には低気圧性の領域が2つ存在します。ひ とつは今シーズン顕著だった小暗斑(CD1)で、BA後方に尻尾のように伸びたSTBの 暗部が縮小したものです。もうひとつは、小暗斑後方の青白い白斑(CW1)で、こ れもかつてのSTBの一部でした。

2月初めまでにSTBの暗部が青白い白斑に追いつき、3月に入ると白斑の周囲に暗 い縁取りが出現し、BAとの間のスペースが急速にベルト化し始めています。この 間、小暗斑は目立たなくなり、代わりに青白い白斑との間に高気圧的な白斑 (AW1)が形成されています。いずれ、BAとの間は暗い模様で埋められ、BAの後方 に伸びる長いSTBとなるでしょう。

近年のSTBは、暗斑が長い暗部に成長し、BAに追いついた後、徐々に短縮して暗 斑に変化、すると次の暗部が追いついて衝突するというサイクルを繰り返してい ます。今回の暗部もいずれ崩壊して短縮していくと思われますが、現在、II=0° 付近には薄ボンヤリした暗斑があり、将来はこれが新しいSTBの暗部に成長する と思われます。

★その他の状況

南半球でも南赤道縞南縁(SEBs)のリング暗斑が大赤斑に衝突する現象が観測され ています。1日当たり+2°のスピードで後退していたリング暗斑は、今年に入っ て+1°/dayに減速したものの、2月6日には赤斑湾(RS bay)の前端に到達し、大き な暗柱となって目を引きました。その後、RS bayの内部入り込み、9日に大赤斑 の北を通過、最終的には大赤斑に取り込まれたようです。これに伴い大赤斑前後 端にはSEBとをつなぐブリッジや短いストリークが出現しています。その後も、 数個の暗斑がRS bay内に侵入したことが画像からうかがわれますが、大赤斑自体 は輪郭が少しぼやけた程度で、大きな変化は見られません。

南南温帯縞(SSTB)の9個の高気圧的小白斑(AWO)のうち、BAの南側を通過した4個 (A8/A9/A0/A1)は、先頭のA8が減速したため間隔が詰まってしまい、A8とA1の経 度差は50°しかありません。伊賀祐一氏によれば、大赤斑とBAの会合時にその南 側をAWOが通過すると、合体が起こりやすいとのことです。今シーズンは昨年9月 に大赤斑とBAが会合し、少し遅れてAWOが南側を通過していますので、完全では ないものの、上記の条件に当てはまるようです。今後の白斑の動きに注意が必要 です。

北北温帯縞(NNTB)は全周で淡化消失していますが、2月以降、II=200-300°の区 間で小暗斑が等間隔で並んでいるのが観測されています。これらはNNTB南縁を流 れるジェットストリーム暗斑で、1日当たり-2.5°という高速で前進しており、 3月初めには先頭の暗斑が大赤斑の北方に達しています。NNTBが濃化復活するきっ かけになるかもしれません。

土星

土星は2月19日に留を過ぎ、4月末の衝に向けて逆行中です。観測の好機ですが、 シーイングに恵まれず、土星面の詳しい状況がなかなか掴めません。

北熱帯(NTrZ)から北温帯縞(NTB)にかけては、相変わらず緑色の薄暗いベルトで す。内部の濃淡や乱れはほとんどなくなり、一様で静かになりました。この南側 には赤みの強い北赤道縞(NEB)が接していますが、普段のNEBよりも細くなってい ますので、NEBの北部は緑色のベルトに含まれているものと思われます。

北北温帯縞(NNTB)の赤みは、当観測期間も明瞭でした。かつて環が大きく南側に 開いていた2005年頃、南半球の同じ緯度帯で赤みの強いベルトが出現して注目さ れたことがあります。土星の南北で現れる同じような特徴は、土星の季節変化な のかもしれません。

[図3] 3月の土星面
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

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