天文ガイド 惑星の近況 2013年7月号 (No.160)
堀川邦昭

土星が4月29日に衝となり、観測の好機となっています。4月末以降、シーイング が改善し、観測数もようやく増えてきました。一方、6月19日に合を迎える木星 は、日没後の西北天低く見えていますが、観測可能な時間はどんどん短くなって おり、観測シーズンはそろそろ終了となります。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星面では特に大きな変化は観測されていませんが、北赤道縞(NEB)が著しく赤 みを帯びているのが、目を引きます。4〜5年周期で繰り返されるNEBの活動サイ クルでは、ベルトが拡幅した後に赤みが強くなる時期が訪れることが知られてい ます。NEBは昨年の大規模な変動によって幅広いベルトに変化しましたので、今 回の赤化は通常の活動の範囲と見ることができます。一方、赤みが強かった北温 帯縞南組織(NTBs)は、以前よりも赤みが薄れてきたように思われます。

NEB北縁の後退はあまり進んでいませんが、ベルトの北半分はかなり濃淡があり 乱れています。今シーズン衝突・合体を繰り返して発達したWSZは、大きく明る い白斑としてII=316°のNEB北縁に凹みを作っており、現在も1日に-0.6°という かなりのスピードで前進を続けています。

[図1] 北半球の大変動からの復帰
昨年7月は北半球のベルトパターンが失われるほど乱れ、EZも暗化していたが、現在は正常に戻っている。右画像には大きくなったWSZが見られる。撮像:左) 柚木健吉氏(大阪府、26cm) 右) クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

昨秋に著しく縮小して話題になった大赤斑(GRS)は、赤く顕著な状態を保ってい ます。大赤斑は隣接する南赤道縞(SEB)が濃い時期には淡くなっていることが多 いので、現在の状態は異例です。この赤さはいつまで続くのでしょうか。経度は シーズン初めより15°も後退し、II=195°になりました。大赤斑は20年以上、ゆ うくりとした後退運動を続けていますが、近年は後退速度が増しているようです。 来シーズンはII=200°を超えることが確実と思われます。

[図2] 永続白斑BA周辺の変化
昨年9月はBAから大きく離れていたSTBの暗部が、わずか半年余りで追いついて一体になってしまった。撮像:左) 熊森照明氏(大阪府、28cm) 右) クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

永続白斑BAはII=150°に位置する赤色斑点として見られます。後方には3月にBA に追いついた南温帯縞(STB)の長い暗部が伸びています。STBは通常赤茶色をして いるのですが、現在のSTBは青黒い感じで、BAから30°の範囲ではやや乱れてい ます。また、暗部はBAの南側を回って前方へも漏れ出していて、条件が悪いとBA の位置がわかりづらくなっています。今シーズン(2012-13シーズン)は、NEBのリ フト活動と拡幅現象にNTB南縁を流れる木星面最速のジェットストリームで起こ るアウトブレーク現象(NTBs jetstream outbreak)が同時に発生する「北半球の 大変動」によって、かつて見たこともない異様な木星面からスタートし、徐々に 元の状態に戻って行く様子を詳しく観測することができました。その過程でNEB 北縁に数個の白斑が形成されましたが、それらは次々と衝突・合体して、最終的 には長年この緯度に存在する白斑WSZに取り込まれてしまいました。その結果、 WSZはこれまで例のないほど、大きく明るい白斑になっています。北半球の活動 の影響は赤道帯(EZ)にも及び、6年ぶりに顕著なフェストゥーン(festoon)や赤道 紐(EB)が観測されました。

一方、南半球では、大赤斑の長径が一時13°まで縮小して、17世紀に観測された カシニの斑点のような姿となって注目されました。また、STBでは長い暗部が永 続白斑BAに衝突する現象が観測されました。近年のSTBは、暗斑から成長した長 い暗部がBAに衝突し、その後少しずつ崩壊しながら短縮して小暗斑になると、次 の暗部が衝突するというサイクルを数年おきに繰り返しています。これは、ここ 20年くらいで確立した新しいSTBの活動パターンと言えます。

合を過ぎた木星が明け方の東天に姿を現して、次の観測シーズンがスタートする のは、梅雨明けを待つことになると思われます。近年の木星面は年毎に大きな変 化を見せていますので、大いに期待したいものです。

土星

先月号で紹介した、土星の北極地方の六角形パターンが注目を集めています。観 測条件が良くなって、高解像度の画像が増えたこともあり、多くの観測者が六角 形パターンを検出することに成功しています。当観測期間はバリー氏だけでなく、 阿久津氏、永長氏、熊森氏らが、極展開図の作成に成功しており、六角形パター ンが非常に明瞭な模様であることがうかがわれます。また、阿久津氏は4月30日 の3画像から作成したアニメーションを見ると、六角形パターンが土星の自転と 共に回転している様子がわかります。各氏の極展開図を追うと、六角形の角の位 置は体系IIIに対してあまり動いていないように思われます。

土星面のその他の縞模様は、大きな変化は見られません。赤道帯(EZ)が明るくク リーム色で、北赤道縞(NEB)南部と北北温帯縞(NNTB)が赤みを帯びている他は、 暗緑色の色調で覆われています。NEB北部から北温帯縞(NTB)の内部には不規則な 濃淡が見られ、北温帯(NTZ)にも複数の明部が散在していますが、コントラスト が低く追跡するのは難しいようです。

先月号でも書いたように、ハイリゲンシャイン現象により、当観測期間のB環は 著しく明るくなっています。ハイリゲンシャイン現象は、衝効果(Opposition Effect)またはSeeliger Effectとも呼ばれ、衝前後には太陽光が正面から当たる ため、環を構成する氷粒子が作る影が見られなくなることで起こります。かつて は非常に珍しい現象でしたが、撮像観測が普及してからは毎シーズン恒例の現象 となっています。

[図3] 衝前日の土星面
ハイリゲンシャイン現象のためB環が明るい。撮像:山崎明宏氏(東京都、31cm)

[図4] 土星の北極地方の六角形パターン
強調画像で見ると、六角形パターン(下矢印)が自転によって回転しているのがわかる。NTZには白斑が見られる(上矢印)。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

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