新しい観測シーズンが幕を開けました。今シーズンの木星は、かに座からしし座へと移り
ます。衝は来年の2月6日で、寒さが厳しい時期にあたりますので、シーイング的には恵ま
れないかもしれません。赤緯が3シーズンぶりに+20°を下回って+16°となりますが、南
中高度はまだかなり高いままです。
2014-15シーズン最初の観測は8月18日で、神奈川県の米山誠一氏によるものでした。現在
までに多くの観測が報告されており、木星面の概要がわかってきています。
★大赤斑周辺の変化
昨シーズン末の5〜6月と比べて最も大きく変化したのは、大赤斑(GRS)周辺です。赤斑湾
(RS bay)後部の南赤道縞(SEB)南部が大きく盛り上がって、大赤斑の南を縁取るアーチと
なり、前方の南熱帯(STrZ)には長く明瞭なストリーク(dark streak)が形成されています。
このような暗色模様は、ほとんど見られなかったので、合で観測できない間に発達したよ
うです。ストリークの長さは80°近くもあり、先端はII=130°に達しています。昨シーズ
ン後半のSEB南組織(SEBs)や南温帯縞北組織(STBn)には、ジェットストリーム暗斑が多数
存在し、大赤斑との会合を繰り返していましたので、暗部の出現はある程度、想定の範囲
内です。
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[図1] 大赤斑を取り巻く暗部 |
大赤斑後方のSEBが大きく盛り上がっている。BAが大赤斑に迫っている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) |
大赤斑本体は、まだ明瞭なオレンジ色で、楕円形の輪郭もはっきりしています。経度は
II=216°で、ほぼ予想通りの位置にあります。暗部が出現したことで、今後急速に淡化す
る可能性ありますので注意が必要です。
大赤斑周辺のこの状況は、2000年7〜8月頃と大変よく似ています。英国天文協会(BAA)の
ロジャース(John Rogers)氏によると、当時もSTBnの暗斑群の活動があったとのことで、
今回との共通点として注目されます。暗部出現をきっかけとして、大赤斑は翌年から2006
年まで、不明瞭な状態が続きました。今回も大赤斑の淡化が進めば、長期間不明瞭になる
可能性があります。
★その他の状況
木星面を見渡すと、南赤道縞(SEB)と北赤道縞(NEB)の2本のベルトが濃く、赤道帯(EZ)に
は明瞭なフェストゥーン(festoon)が多数見られます。昨シーズン末の状況とほぼ変わっ
ていません。
2012年から話題になっている、大赤斑前方のSEBの明部(light patch)は東西に伸長し、長
さ25°の薄明るい領域になっています。後端の位置はII=170°と変化していないので、前
方に拡大したようです。今シーズンも大赤斑前方でふらふらとした動きを見せると思われ
ます。また、SEB南縁ではジェットストリームが活動的になっています。特にII=0°前後
のSEB南縁はかなり乱れていますし、その他の経度でも暗斑や突起が多く見られます。
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[図2] SEBの明部とSTrZのストリーク |
SEBの明部は東西に長くなった。NTZの北温帯攪乱も見られる。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm) |
永続白斑BAは、暗い縁取りに囲まれた濁った白斑で、少し小さく見えます。経度は7日に
II=227°と、大赤斑の後端に到達しました。これから9月末までの間、大赤斑の南を通過
するのが見られます。前述のストリークがどのような影響を受けるか、注目したいところ
です。BAの後方に続くSTBの暗部は約30°に短縮しましたが、その後方には細長いSTB南組
織(STBs)がII=330°付近まで伸びています。南南温帯縞(SSTB)は大きく二条に分離してお
り、内部には高気圧的小白斑(AWO)が見られます。昨シーズン観測された10個は、すべて
残っているようです。
NEBはあちこちで長いリフト領域(rift)が発達し、活動的です。ベルトの太さはほとんど
変化していないように見えますが、北縁に凸凹が目立つので、少し細くなったかもしれま
せん。
昨シーズン、赤化して不明瞭になっていたNEB北縁の長命な白斑WSZが白斑として復活し、
II=48°のNEB北縁に大きな凹みを作っています。本体にはまだ赤みが残っていて、周囲の
北熱帯(NTrZ)よりも少し濁って見えます。
北温帯縞南組織(NTBs)は淡化が進んでほとんど消失してしまい、北組織(NTBn)だけが濃い
ベルトとして残っています。北温帯(NTZ)はかなり薄暗い経度が多く、NTBnと北北温帯縞
(NNTB)が融合した北温帯攪乱(NTD)と呼ばれる構造もまだ見られます。
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