天文ガイド 惑星の近況 2014年11月号 (No.176)
堀川邦昭、安達誠

木星が明け方の東天に再び姿を見せるようになりました。7月24日の合からひと月半が過 ぎ、日の出時の高度は30°を超えるようになっています。

夕方の西天では、8月末に火星が土星を追い抜きました。どちらも南西天低く、日没後わ ずかな時間しか観測できません。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

新しい観測シーズンが幕を開けました。今シーズンの木星は、かに座からしし座へと移り ます。衝は来年の2月6日で、寒さが厳しい時期にあたりますので、シーイング的には恵ま れないかもしれません。赤緯が3シーズンぶりに+20°を下回って+16°となりますが、南 中高度はまだかなり高いままです。

2014-15シーズン最初の観測は8月18日で、神奈川県の米山誠一氏によるものでした。現在 までに多くの観測が報告されており、木星面の概要がわかってきています。

★大赤斑周辺の変化

昨シーズン末の5〜6月と比べて最も大きく変化したのは、大赤斑(GRS)周辺です。赤斑湾 (RS bay)後部の南赤道縞(SEB)南部が大きく盛り上がって、大赤斑の南を縁取るアーチと なり、前方の南熱帯(STrZ)には長く明瞭なストリーク(dark streak)が形成されています。 このような暗色模様は、ほとんど見られなかったので、合で観測できない間に発達したよ うです。ストリークの長さは80°近くもあり、先端はII=130°に達しています。昨シーズ ン後半のSEB南組織(SEBs)や南温帯縞北組織(STBn)には、ジェットストリーム暗斑が多数 存在し、大赤斑との会合を繰り返していましたので、暗部の出現はある程度、想定の範囲 内です。

[図1] 大赤斑を取り巻く暗部
大赤斑後方のSEBが大きく盛り上がっている。BAが大赤斑に迫っている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

大赤斑本体は、まだ明瞭なオレンジ色で、楕円形の輪郭もはっきりしています。経度は II=216°で、ほぼ予想通りの位置にあります。暗部が出現したことで、今後急速に淡化す る可能性ありますので注意が必要です。

大赤斑周辺のこの状況は、2000年7〜8月頃と大変よく似ています。英国天文協会(BAA)の ロジャース(John Rogers)氏によると、当時もSTBnの暗斑群の活動があったとのことで、 今回との共通点として注目されます。暗部出現をきっかけとして、大赤斑は翌年から2006 年まで、不明瞭な状態が続きました。今回も大赤斑の淡化が進めば、長期間不明瞭になる 可能性があります。

★その他の状況

木星面を見渡すと、南赤道縞(SEB)と北赤道縞(NEB)の2本のベルトが濃く、赤道帯(EZ)に は明瞭なフェストゥーン(festoon)が多数見られます。昨シーズン末の状況とほぼ変わっ ていません。

2012年から話題になっている、大赤斑前方のSEBの明部(light patch)は東西に伸長し、長 さ25°の薄明るい領域になっています。後端の位置はII=170°と変化していないので、前 方に拡大したようです。今シーズンも大赤斑前方でふらふらとした動きを見せると思われ ます。また、SEB南縁ではジェットストリームが活動的になっています。特にII=0°前後 のSEB南縁はかなり乱れていますし、その他の経度でも暗斑や突起が多く見られます。

[図2] SEBの明部とSTrZのストリーク
SEBの明部は東西に長くなった。NTZの北温帯攪乱も見られる。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

永続白斑BAは、暗い縁取りに囲まれた濁った白斑で、少し小さく見えます。経度は7日に II=227°と、大赤斑の後端に到達しました。これから9月末までの間、大赤斑の南を通過 するのが見られます。前述のストリークがどのような影響を受けるか、注目したいところ です。BAの後方に続くSTBの暗部は約30°に短縮しましたが、その後方には細長いSTB南組 織(STBs)がII=330°付近まで伸びています。南南温帯縞(SSTB)は大きく二条に分離してお り、内部には高気圧的小白斑(AWO)が見られます。昨シーズン観測された10個は、すべて 残っているようです。

NEBはあちこちで長いリフト領域(rift)が発達し、活動的です。ベルトの太さはほとんど 変化していないように見えますが、北縁に凸凹が目立つので、少し細くなったかもしれま せん。

昨シーズン、赤化して不明瞭になっていたNEB北縁の長命な白斑WSZが白斑として復活し、 II=48°のNEB北縁に大きな凹みを作っています。本体にはまだ赤みが残っていて、周囲の 北熱帯(NTrZ)よりも少し濁って見えます。

北温帯縞南組織(NTBs)は淡化が進んでほとんど消失してしまい、北組織(NTBn)だけが濃い ベルトとして残っています。北温帯(NTZ)はかなり薄暗い経度が多く、NTBnと北北温帯縞 (NNTB)が融合した北温帯攪乱(NTD)と呼ばれる構造もまだ見られます。

火星

火星はすっかり西に傾きました。土星よりもいくぶん東に位置するので、もうしばらく観 測することができますが、この夏のひどい天候のため観測数は激減し、火星の様子の多く は海外からの報告に頼らざるを得ませんでした。

[図3] 変形したアリンの爪
子午線の湾(アリンの爪)が砂嵐のため歪んで見える。南極周辺の白雲が目立つ。撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)

当観測期間は、南極冠がいつから見え始めるかに注目していましたが、残念ながら、それ に関する報告はありませんでした。9月8日にイタリアのオリベッティー(Tiziano Olivetti)氏が、ヘラス南部と南極を広く覆う白雲を捉えており、南極冠の出現は間近の ようです。9月から10月の観測に期待しましょう。その他の面白い現象としては、8月12日 に米国のパーカー(Donald Parker)氏が子午線の湾の変形を記録しています。アリンの爪 として有名な模様ですが、右側が欠けてあたかも「栓抜き」のような姿です。砂嵐による 影響と思われますが、前後の観測がなく、詳しい状況はわかりませんでした。また、8月 20日には京都府の堀内直氏が、黄色く明るくなったノアキスを報告しています。ここ一ヶ 月の間、南半球も北半球もこういった小規模な砂嵐がいくつか発生したようで、局部的に リムが黄色く写った画像がいくつも見られます。

[図4] ノアキスの黄雲
ノアキス(左上)が黄色く明るい。ダストストームが広がっていることを示している。撮影:堀内直氏(京都府、30cm)

土星

土星は11月18日の合に向かって高度下げています、今シーズンもそろそろ終わりのようで す。

北極周辺の暗化が進んで、六角形パターンは可視光ではほとんど判別できません。一方、 赤みの増した北緯50°付近の北温帯縞(NTB)はコントラストが増して、英国のアベル(Paul Abel)氏の眼視スケッチでも明瞭に捉えられるようになっています。

観測条件は悪くなる一方なので、土星面の様子を把握できるのは今月までと思われます。

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