天文ガイド 惑星の近況 2015年2月号 (No.179)
堀川邦昭

木星は11月19日に西矩となりました。夜半過ぎには、すでに東天のかなり高いところまで 昇るようになっていますが、シーイングの悪い日ばかりで、国内の観測は奮いません。木 星以外の惑星はどれも太陽近くにあり、観測に適しません。

ここでは11月後半から12月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

地球から見た木星面中央の緯度を表すDeの値が、11月にプラスからマイナスに変わりまし た。6年ぶりのことです。木星のDeは±3.9°の範囲でしか変化しませんので、小望遠鏡で はほとんどわからないのですが、これから6年間は、南半球高緯度の観測が少しだけ容易 になるかもしれません。

[循環気流の形成!?]

大赤斑(GRS)の周辺では、現在も暗部の活動が続いています。赤斑湾(RS bay)の後端にあ る大きな暗部から暗い物質が放出されて、大赤斑南縁を囲むアーチや前方の南熱帯(STrZ) にストリーク(dark streak)が形成されては分解・拡散して、大赤斑前方のSTrZを黄濁さ せることを繰り返しています。一回の活動はひと月前後と短いのですが、次から次と重な るように活動が続き、大赤斑前方のSTrZ北部はかなり薄暗くなっています。拡散した暗部 は南温帯縞北組織(STBn)に沿って伸び、すでに木星面を3分の2周しているようです。大赤 斑本体は現在もオレンジ色で、大きな影響はないように見えますが、赤斑孔(RS Hollow) の内部はだいぶ薄暗くなってきました。

[図1] 大赤斑前方の暗部とジェットストリームの変化
左) 大赤斑後方の暗部からアーチとストリークが伸びている。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)。右) 推定されるジェットストリームの流れ。循環気流が形成されていると思われる。

この活動の源泉は、明らかに赤斑湾後端の暗部です。異様に大きく立ち上がって、後方か ら大赤斑に巻きつくカギ爪にように見えます。普通、大赤斑後方の南赤道縞(SEB)は幅広 く、南縁は後方に向かってなだらかなスロープを描いていますが、現在はえぐれるように 細くなっているので、おそらく、SEB南縁(SEBs)を流れるジェットストリームが後方へ向 かわずに、一部が大赤斑後部を周回して、前方のSTrZに流出しているのではないかと思わ れます。SEBsとSTBnのジェットストリームが、STrZを横切って連結する現象は、循環気流 (Circulating Current)と呼ばれます。今回の活動を見る限り、赤斑湾後端に循環気流が 形成されている可能性が高いようです。

循環気流は、南熱帯攪乱(STr. Disturbance)と密接に関連した現象です。2007年にSEB南 縁を後退する暗斑群が、南熱帯攪乱前端の循環気流によって捉えられ、次々に反転して STBnを前進する様子が克明に捉えられたのは記憶に新しいところです。ただし、今回の活 動を南熱帯攪乱と呼んで良いかどうか、筆者は今のところ判断がつきかねています。

前号でも触れたように、2000年にも大赤斑の周辺で同じような活動が観測されました。今 回と同じように、大赤斑後端部に大きな暗部が出現し、アーチやストリークの活動を繰り 返した後、4ヶ月ほどで終息したのですが、名残として大赤斑前方に大型の高気圧的暗斑 が形成されました。この暗斑は徐々に後退し、最終的に大赤斑に衝突して一連の活動が終 わりました。大赤斑自体はこの期間中、比較的明瞭でしたが、暗斑との衝突によって淡化 し、その後、長い間不明瞭になってしまいました。今回も同じ経過をたどるかどうかわか りませんが、今後の見通しを立てる上で大変参考になります。

[その他の状況]

永続白斑BAが大赤斑との会合を終えて、前方に離れつつあります。内部は薄茶色に濁って いますが、周囲に暗い縁取りがあり輪郭明瞭です。すぐ南には、SSTBの高気圧的白斑 (AWO)であるA7aとA8の2つの白斑と、その間に低気圧的白斑(CWO)がひとつが集まっていて 大変賑やかです。

[図2] 12月の木星面展開図
12月12日〜13日の観測から作成。撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

大赤斑後方のSEBの活動域(post-GRS disturbance)は、これまで極めて不活発でしたが、 12月になって少し復活し、明るく見える面積が増えたようです。しかし、通常の活動には 比べるべくもありません。前述したジェットストリームの異常に起因しているように思わ れます。SEBの明部(light patch)は、まだ細長い明帯として残っています。やせ衰えてい ますが、これまでの経緯から考えて、今後もしぶとく生き残るのではないでしょうか。

北赤道縞(NEB)内部は活動的で、明瞭なリフト(rift)領域が多く見られるようになりまし た。ベルト北縁は、II=350〜80°で北に膨らんで乱れています。長命な白斑WSZは、II= 20°付近のベルト北縁に大きな凹みを作る明瞭な白斑として見られます。

北温帯縞北組織(NTBn)は、淡化が進んで淡いすじが残るだけです。北温帯(NTZ)は広範囲 に暗化して北北温帯縞(NNTB)と融合しており、明るいゾーンとして見られるのは、II=80 〜170°の範囲だけになっています。

[図3] WSZとSTB Ghost
NTZは暗化してNNTBと融合している。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)

前号へ INDEXへ 次号へ