今シーズンの木星面を特徴付ける赤斑湾(RS bay)後端の循環気流(Circulating Current)
が、著しく衰退しています。2月に入ると、特徴的模様だったカギ爪状の暗部が消失し、
大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)南縁は正常に見え方に戻って、なだらかなスロープを描
くようになりました。大赤斑の南を囲むアーチと前方の南熱帯(STrZ)に延びるストリーク
(dark streak)はまだ痕跡状に残っていますが、淡く目立たない模様になっています。大
赤斑からかなり離れたII=50〜160°の区間ではストリークが明瞭に見られますが、これは
最盛期の12月に形成されたもので、徐々に細かい暗斑に分解しつつあるようです。
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[図1] 大赤斑周辺の変化 |
ひと月足らずの間に大赤斑を囲むアーチや前方のストリークが消失し、大赤斑本体が明瞭に見られるようになった。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm) |
この結果、大赤斑本体が剥き出しとなって、大変よく目立っています。オレンジ色が鮮や
かで、一連の暗部の活動にもかかわらず、ほとんど影響を受けなかったようです。大赤斑
は周囲に暗部が出現すると、淡化して変形したり赤斑孔(RS Hollow)に変化する傾向があ
るので、今回のように顕著な姿を保っているのは異例です。
経度はII=223°でほぼ停滞しています。ここ数年はひと月当たり+1.4°のペースで後退を
続けていましたが、昨年10月以降はほとんど動いていません。大赤斑は循環気流が出現す
ると自転周期が短くなる(加速する)傾向があります(周囲にアーチやstreakが出現した場
合も同じ)。今回の後退運動の停止は、循環気流とそれに伴う暗部の出現に対応したもの
と言えます。長径は約14°で昨シーズンよりも若干大きいものの、復活と言うには程遠く、
小さくなったままです。
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[図2] 永続白斑BAとその周辺 |
BA前方にはSTBnが伸び、そのすぐ北側にはストリークが残っている。SEB中には不明瞭になった明部も見られる。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm) |
II=155°に位置する永続白斑BAは、暗い縁取りを持つ薄茶色の白斑として見られます。後
方には長さ30°の南温帯縞(STB)の暗部が伸び、その後方は南にシフトしてSTB南組織
(STBs)の細い組織がII=250まで続いています。一方、BA前方には青黒いSTB北組織(STBn)
がII=80°まで伸びています。すぐ北側にはSTrZのストリークがあって二重になっていま
すが、ストリークは色調が異なり、茶色をしています。
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[図3] BAとSSTBのFFRの相互作用 |
SSTBの高気圧的白斑の間のFFRがBAに引き込まれて、巻きついているように見える。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm) |
BAの南では南南温帯縞(SSTB)の中に高気圧的白斑(AWO)が並んでいます。このうち、A7a/
A8/A0/A1の4個のAWOは間隔が20°前後に詰まっていて、間のSSTBは低気圧的白斑(CWO)や
フィラメント領域(FFR)に分断されています。高解像度の画像を精査すると、これらのCWO
やFFRは、BAを通過する際に引きずられるように北に変形する様子が見られます。特に1月
後半にBAを通過したA8とA0の間のFFRは、通過の際にBAに大きく引き込まれ、24日には一
部がBAに巻きついているのが捉えられています。この相互作用によってFFRが矮小化し、
A8とA0が急接近するのではないかと思われたのですが、予想に反して2月は少し離れてし
まっているようです。なお、SSTBにはこれまで10個のAWOが観測されてきましたが、最近、
A6とA7aの間に新たに白斑が形成され、A7bと命名されました(経度順ではA7b→A7aと逆の
並びになっていますので注意してください)。今シーズンのSSTBは大きく二条に分離して
いるが特徴的ですが、最近は南組織が淡くなっているようです。
SEBはベルトの北半分が広範囲に明化しています。明化は10月に大赤斑前方から始まった
のですが、とうとう全周に波及してしまいました。通常、大赤斑後方で非常に濃く厚い北
組織(SEBn)が見られるのですが、現在はそのような組織は存在しません。一方、ベルト南
部でも薄明るく見える領域が増えています。ナゾの明部(light patch)はまだII=150°付
近に残っているが、細く薄暗くなってほとんど目立たなくなってしまいました。2010年11
月に発生したSEB攪乱(SEB Disturbance)によって濃化してから4年が経過しているので、
ベルトの内部ではmid-SEB outbreakと呼ばれる激しい白雲活動の発生が予想されますが、
今のところそのような兆候は見られません。
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