木星面の様子は、先月号で書いた状況とあまり変わっていません。
大赤斑周辺の暗部は完全に消失し、循環気流によるカギ爪模様やアーチはまったく見られ
なくなりました。また、大赤斑前方のII=50〜160°の区間に残っていた南熱帯(STrZ)のス
トリークも、3月になるとほとんど消失してしまいました。そのため、大赤斑がむき出し
になって、オレンジ色が極めて鮮やかです。以前に比べて輪郭が少し乱れていることが多
くなりましたが、これは南赤道縞(SEB)南縁の後退暗斑が赤斑湾(RS bay)に進入して、大
赤斑と会合する頻度が以前よりも少し高くなったせいかもしれません。経度はII=223°で
ほぼ停止しています。
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[図1] 大赤斑周辺の変化 |
暗部が消失し、大赤斑がとても顕著になっている。画像中央のSEB南縁に小暗斑が見られる(本文参照)。撮像:クリストファー・ゴー(フィリピン、35cm) |
3月に入ると、大赤斑のすぐ後方のSEB南縁によく目立つリング暗斑が出現しました。赤み
はありませんが、メタンバンドで非常に明るく見られますので、2月下旬に赤斑湾に進入
した後退暗斑が、後方に抜けた後で再度凝集した高気圧的な暗斑と思われます。現在は大
赤斑から15°くらい離れていますが、SEB南縁からSTrZにかなり飛び出した位置にありま
すので、この緯度の気流にしたがって大赤斑に再び近づき、2008年の小赤斑(LRS)のよう
に、大赤斑を後方から這い上がって行くかも知れません。
SEBは活気がありません。ベルトの中央に青みのある中央組織が伸び、それを境に北側に
は不規則な白雲の断片で乱れた明帯が広がり、南側は赤茶色で比較的一様な領域となって
います。濃化して活動的な時期のSEBとしては典型的な構造なのですが、濃度がなく、ちょ
っと気の抜けた感じがします。いつもなら濃く厚い北組織(SEBn)が見られるはずの大赤斑
後方でも、現在はベルト北半分に一様な薄茶色の領域が広がるだけです。乱れた白雲領域
であるpost-GRS disturbanceは、まったくと言っていいほど活動していません。一方、
SEB南縁だけは活動的で凹凸が多数見られますが、大赤斑に近づくにつれて起伏が小さく
なって静かな感じに変わります。そのためか、前述のように赤斑湾に進入する暗斑はやや
増えたのですが、大赤斑に大きな影響を及ぼすことはないようです。
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[図2] WSZとSTB Ghost |
WSZがNTrZの大きな白斑として見られる。中央左側でSTBnが少し膨らんだ部分がSTB Ghost。EZ中央をエウロパが通過中。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm) |
永続白斑BAはII=140°付近にあります。楕円の輪郭が明瞭で、内部は薄茶色に濁っていま
すが、中心に白いコアがあります。昨年まで1日当たり-0.46°のスピードで前進していま
したが、今年に入ってからは-0.39°に減速しています。BAの南側を相次いで通過した南
南温帯縞(SSTB)の白斑(A7a、CWO、A8)の動きに同調した変化のように思われます。BAは
2年前、南温帯縞(STB)の断片が後方から衝突した際に、押し出されるように大きく加速し
たのですが、現在の-0.39°というドリフトはSTBが衝突する前の値とほぼ同じです。衝突
当時は長さ80°もあったSTBの断片は、現在30°ほどに短縮してしまっていますので、今
回の減速はSTBがBAを押す力がなくなったためと見ることもできるかもしれません。
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[図3] BAのドリフトの変化 |
2012年以降のBAの動き。II系に対して-0.4°/dayで前進する特殊経度で作成。BAは2013年にSTBの断片が衝突した直後に加速し、STBの短縮に合わせるように減速したことがわかる。 |
SSTBでは高気圧的白斑(AWO)が次々とBAの南を通過中です。当観測期間はA0とA1が通過し
ました。SSTBのこの区間には、元々A7a/A8/A0/A1/A2の5個のAWOが密集していましたが、
BAを通過することによって揺さぶられたせいか、A8〜A0とA1〜A2が開いてややバラけてき
ました。また、後方からA3/A4/A5が接近しつつあり、ここ数年続いたSSTBの見慣れたパタ
ーンが変化しそうな雰囲気です。SSTB本体は概ね大きく二条に分離して見えていましたが、
最近は南組織が拡散して淡くなっているようです。
北赤道縞(NEB)は北縁が乱れて凹凸が多数あります。北組織が部分的に厚くなって北に膨
らんでいるところもあり、拡幅時の様子に似てきたような印象を受けます。北熱帯(NTrZ)
の長命な白斑WSZは、II=0°付近でNEB北縁に大きな湾入を作っています。白斑本体は明る
いNTrZ中にありますが、昨シーズンの注目された赤みはなくなり、周囲のNTrZよりも明る
い「白斑」として見られます。
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