大赤斑(GRS)は相変わらずオレンジ色が鮮やかです。周囲から暗い模様がなくなったため、
大変目立つようになりました。南赤道縞(SEB)南縁の後退ジェットストリームに乗って、
時々大きな暗斑が赤斑湾(RS Bay)に流れ込んできますが、大赤斑自体は輪郭が少し乱れる
程度で、ほとんど影響ありません。経度はII=226°で、少し後退しました。
今シーズンのSEBは明るい所が目立っていますが、4月初めから大赤斑前方でベルト北部が
数十度に渡って著しく明るくなりました。眼視では北縁が消失して、ベルトの幅が3分の2
になってしまったかのようです。明化した領域は体系IIに対して1日当たり-3.5°で前進
していて、後端部分には明瞭な白斑が見られました。現在はII=310〜25°に位置していま
す。
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[図1] 明化したSEB北部 |
SEB北部が明化してベルトが細く見える。撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、35cm) |
永続白斑BAはII=120°付近にあり、周囲を暗く縁取られた白斑として見られます。内部は
薄茶色に濁っていて今ひとつ明るくないのですが、高解像度の画像では中心に白い核があ
り、ドーナツのような形状です。BA後方にある南温帯縞(STB)の暗部は、短縮してBAより
も小さな暗斑になってしまいました。2013年3月にBAに衝突した時は70°の長さがありま
したので、短縮量は1日当たり0.9°とかなり大きな数字です。近年のSTBは、暗部形成→
BA衝突→短縮→消失というサイクルを繰り返していますが、後の世代ほど短縮スピードが
大きい傾向にあります。暗部が崩壊する過程では、BA前方のSTB北組織(STBn)と後方の南
組織(STBs)に暗斑群やストリーク(dark streak)を大量に放出していて、現在もまだ名残
が見られます。
南南温帯縞(SSTB)に見られる高気圧的小白斑(AWO)は、昨年10月頃には10個の白斑が3つの
クラスターに分かれて分布していました。その後、動きの遅いA6/A7に後方のグループが
追いついて来た上に、A7とA7aの間に新しくA7bが形成されたため、11個のAWOが木星面の
3分の2の経度範囲に集まり、さらに接近しつつあります。最も離れているA5とA6の間の
SSTBは、大きく分離した南組織が南に拡散して異様に幅広くなり、北赤道縞(NEB)に匹敵
する太さとなっています。
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[図3] SSTBに見られる小白斑(AWO)の分布の変化 |
A6を基準として各白斑までの距離がわかるようにしてある。7ヶ月の間に全体で約30°も間隔が詰まった。永長英夫氏の全面展開図から筆者作成。 |
先月号で新たな拡幅現象が始まったと書いた北赤道縞(NEB)ですが、II=120°付近の活動
は収まってしまいました。NEBの北縁は起伏に富んで、ベルトの幅は場所によってかなり
違っているため、全体として拡幅が進んでいるのかどうかよくわかりません。しかし、3
つの分枝がシステマチックな活動を見せるSEB攪乱(SEB Disturbance)とは異なり、同時多
発的に進行するのがNEB拡幅の特徴なので、今後も活動を注視する必要があります。
大赤斑の北の北温帯(NTZ)には、顕著なバージ(barge)が観測されてきました。明るい領域
に孤立した模様として大変目立っていましたが、4月半ばに急に淡化・消失してしまいま
した。これと入れ替わるように、約40°後方の北温帯縞北組織(NTBn)の暗部前端に小さな
暗斑が出現しました。この暗斑は同じ緯度にあるバージやNTBnの暗部とは異なり、前進運
動をしています。現在、II=150°に達しており、前進速度-1.8°/dayとかなり高速で、北
温帯流-Bという帯流に属します。北温帯流-Bが観測されるのは大変珍しく、今回は2003年
以来、12年ぶりの出現となります。
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[図2] バージの消失と前進する小暗斑 |
NTZのバージ(▲)の消失と北温帯流-Bに乗って前進する小暗斑(▼)の出現。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、マノス・カルダシス氏(ギリシャ、28cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、吉田智之氏(栃木県、30cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm) |
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