大赤斑(GRS)周辺に出現した暗部の活動は、かなり衰えてきました。赤斑湾(RS bay)後端
部のカギ爪状の突起は消失し、大赤斑と後方の南赤道縞(SEB)をつなぐブリッジや、前方
の南熱帯(STrZ)に伸びるストリーク(dark streak)が残っているものの、しだいに弱まっ
てきています。10月に始まった今回の活動はこのまま終息すると思われます。しかし、こ
のような活動は繰り返し起こる傾向があるので、今後も注意が必要でしょう。
大赤斑自体は大変顕著に見えています。赤みが強い上に濃度も増して、眼視では周囲の
SEBよりも濃く感じます。10cmクラスの小口径でも、大赤斑の赤さがわかるのではないで
しょうか。
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[図1] 大赤斑とWSZ |
大赤斑周辺の暗部は衰えつつある、NEBはWSZの前方で拡幅が進んでいる。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm) |
大赤斑後方のSEBにはpost-GRS disturbanceと呼ばれる乱れた白雲領域があります。最近
は不活発な状況が続いていましたが、11月後半から少し活動的になり、長さ30°くらいの
範囲で明るい白斑状の明部がいくつか見られるようになっています。12月に入ってからは
後方のSEB北組織も濃度が増して、この領域の普段の見え方に戻りつつあるようです。
一方、II=25°に位置する永続白斑BAは不明瞭な状態が続いています。白斑本体が薄茶色
に濁って明るさがないためですが、昨シーズンまで見られた縁取りがなくなり、後方に伸
びていた南温帯縞(STB)の断片も短縮して淡い暗斑に衰えてしまったため、周囲とのコン
トラストが低くなっています。
北赤道縞(NEB)はII=280°にある長命な白斑WSZからII=50°付近まで幅広くなっています。
II=130°の北熱帯(NTrZ)にある大型の茶色いリング暗斑は、現在も明瞭に見えています。
周囲のNEB北縁は起伏が少なくなり、拡幅が進んでいるように見えません。一方、WSZ周辺
ではNEBの幅が広がって、WSZがNEBに埋もれた白斑に変化し、前方でも数十度に渡って暗
斑が並び、北緯21°付近に新しい北縁が形成されつつあります。NEB拡幅の舞台はWSZ前方
に移ったようです。
NEBの北側には北温帯縞北組織(NTBn)と北北温帯縞(NNTB)の二本のベルトが見えられます。
II=90〜230°では間の北温帯(NTZ)が暗化し、二本のベルトが融合して北温帯攪乱(NTD:
NT disturbance)という太い暗部になっています。NTDの領域ではNTBnが少しずつ北に下が
って、後端でNNTBに連続しているように見え、俗に言う「床屋の看板」のような様相を呈
しています。NTDは1日当たり+0.6°前後の割合で後退しており、NTBnからNTZにかけて見
られる他の暗部も同じような動きをしています。
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[図2] SEBの小暗斑のドリフトチャート |
5個の小暗斑はどれもII=60°付近で停滞・消失している。 |
[体系II=60°の壁!?]
SEBの内部には赤茶色をした小さな暗斑が見られます。SEBが濃い時期にしばしば現れる模
様です。今シーズンは2個の暗斑が存在していましたが、11月末にII=60°付近でこれらが
合体する様子が観測されています。同じような暗斑は2014年後半から5個発生していて、
体系IIに対して1日当たり+0.2〜0.4°でゆっくりと後退していましたが、どれもII=60°
付近に来ると、停滞または消失してしまう奇妙な現象が続いています。今回も先行する暗
斑がII=57°で停滞し、後続の暗斑が追いついて合体しています。高解像度の画像を見て
もII=60°のSEB中には障壁となるような構造は何もありません。まるで、見えない壁があ
るかのようです。合体後の暗斑は東西に細長いバージとなっていますが、このバージも今
後停滞するのか消失してしまうのか、注目したいところです。
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[図3] 小暗斑同士の合体 |
暗斑DとEが合体する様子。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)、堀内直氏(京都府、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm) |
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