10月半ばに赤斑湾(RS bay)後端に出現した突起(projection)は、その後、カギ爪状の暗部
に発達し、大赤斑(GRS)の前方には短いストリーク(dark streak)が形成されました。昨年
10月に始まり4ヶ月に渡って大いに注目されたのと同じ活動の再来となりましたが、11月
に入っても大きく発達することなく、小規模な活動に止まっています。11月半ばの時点で
は、赤斑湾後端のカギ爪は後方に広がって台形状の暗部となり、大赤斑前方のストリーク
はしだいに伸長して、II=185°にあるSTBの青い暗斑(STB Ghost)の北に達しているものの、
細く淡くて、先端はいくつかの暗斑に分解しています。今回の活動はあまり大きなもので
はありませんでしたが、この種の活動は繰り返し起こるので、今後も注意したいものです。
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[図1] 大赤斑とその周辺 |
10月と11月では赤斑湾後端の突起の様子が変化していることに注意。撮像:(上)永長英夫氏(兵庫県、30cm)、(下) 岩政隆一氏(神奈川県、35cm) |
大赤斑本体は顕著で、暗部の影響はまったく見られません。ここ数年はオレンジと表現す
るのが適当な色調ですが、今シーズンは濃度がやや増して、色合いもオレンジから赤に少
し近づいたような印象を受けます。経度はII=234°でほとんど変化ありませんでした。古
くから大赤斑と隣接する南赤道縞(SEB)の濃度には逆の相関があると言われています。SEB
が濃く安定したベルトである時期の大赤斑は、形が不明瞭で赤みも弱いことが多く、反対
にSEBが淡化すると、大赤斑は明瞭になり赤みも増します。現在のように、SEBが濃い時に
大赤斑も赤く顕著なのは、極めて異例なことです。
SEBはベルトの中央やや南を薄明るいSEBZが走っていて、概ね二条になっています。濃く
厚い南組織(SEBs)に対して、SEBZのすぐ北には濃く細い組織が見られますが、ベルト北部
はやや淡く、青黒い暗斑で乱れているところもあります。
SEBの南縁は起伏に富み、暗斑や深くえぐられた湾(bay)などが多数見られます。特にII=5°
には、STrZに突出した大きな暗斑があり、大変目立っています。これらの凹凸模様の経度
は体系IIに対してほとんど変化していないので、SEB南縁を流れる後退ジェットストリー
ムには乗っていません。
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[図2] WSZとNEBの拡幅領域 |
WSZの周辺ではNEBの拡幅が進んでいるように見える。黒点はガニメデの影。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) |
II=140°付近の北赤道縞(NEB)に出現した大型の暗斑は、NEBから分離して北熱帯(NTrZ)の
孤立したリング状の暗斑になりました。この緯度では小赤斑(Little Red Spot)と呼ばれ
る大赤斑を小型にしたような赤色斑点が過去に何度か観測されています。今回の暗斑は周
囲のNEBよりも赤みがあったので、小赤斑が形成されたのではないかと期待されたのです
が、小赤斑の重要な要素であるメタンブライト(890nmのメタン吸収帯で明るい=雲の高度
が高い)な特徴が観測されていません。
この暗斑は、当初II=140°付近をゆっくりと前進していましたが、11月初めに突然10°も
前方へ移動し、現在はII=130°に位置しています。画像を見ると、11月初めの暗斑はNEB
からの張り出しがかなり大きかったので、おそらく、北温帯縞(NTB)南縁を流れる木星面
最速のジェットストリームへと向かう速度勾配の大きな領域に、一時的に入り込んだので
はないかと思われます。
NEBはII=300〜50°の範囲では北縁が北緯21°と幅広くなっていて、典型的な拡幅時の様
相となっています。この拡幅域の前端にはNTrZの長命な白斑WSZがありますが、その前方
のNTrZにも淡い模様が見られ、拡幅域が拡大する気配が感じられます。他の経度のNEBは、
北縁に起伏はあるものの通常の太さで、拡幅活動は停滞したままのような印象を受けます。
しかし、2009年には前述の小赤斑のような大型暗斑が出現したひと月後に、ちょうど同じ
場所から本格的な拡幅活動が始まったこともあるので、拡幅活動の状況については今後も
十分に注意する必要があります。
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