天文ガイド 惑星の近況 2016年1月号 (No.190)
堀川邦昭、安達誠

明け方の東天では、しし座の後ろ足付近で10月後半から11月初めにかけて、金星・木星・ 火星の3惑星が次々に接近しました。まず10月17日に木星と火星が会合し、続いて10月27 日に西方最大離角となった金星が同じ日に木星と、11月3日には火星と接近しました。ど の接近も1°内外まで近づいたので、低倍率で同視野に収まり、素晴らしい眺めとなった ようです。現在は木星が最大離角を過ぎた金星を追い越して、どんどん高度を上げていま す。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

10月半ばに赤斑湾(RS bay)後端に出現した突起(projection)は、その後、カギ爪状の暗部 に発達し、大赤斑(GRS)の前方には短いストリーク(dark streak)が形成されました。昨年 10月に始まり4ヶ月に渡って大いに注目されたのと同じ活動の再来となりましたが、11月 に入っても大きく発達することなく、小規模な活動に止まっています。11月半ばの時点で は、赤斑湾後端のカギ爪は後方に広がって台形状の暗部となり、大赤斑前方のストリーク はしだいに伸長して、II=185°にあるSTBの青い暗斑(STB Ghost)の北に達しているものの、 細く淡くて、先端はいくつかの暗斑に分解しています。今回の活動はあまり大きなもので はありませんでしたが、この種の活動は繰り返し起こるので、今後も注意したいものです。

[図1] 大赤斑とその周辺
10月と11月では赤斑湾後端の突起の様子が変化していることに注意。撮像:(上)永長英夫氏(兵庫県、30cm)、(下) 岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

大赤斑本体は顕著で、暗部の影響はまったく見られません。ここ数年はオレンジと表現す るのが適当な色調ですが、今シーズンは濃度がやや増して、色合いもオレンジから赤に少 し近づいたような印象を受けます。経度はII=234°でほとんど変化ありませんでした。古 くから大赤斑と隣接する南赤道縞(SEB)の濃度には逆の相関があると言われています。SEB が濃く安定したベルトである時期の大赤斑は、形が不明瞭で赤みも弱いことが多く、反対 にSEBが淡化すると、大赤斑は明瞭になり赤みも増します。現在のように、SEBが濃い時に 大赤斑も赤く顕著なのは、極めて異例なことです。

SEBはベルトの中央やや南を薄明るいSEBZが走っていて、概ね二条になっています。濃く 厚い南組織(SEBs)に対して、SEBZのすぐ北には濃く細い組織が見られますが、ベルト北部 はやや淡く、青黒い暗斑で乱れているところもあります。

SEBの南縁は起伏に富み、暗斑や深くえぐられた湾(bay)などが多数見られます。特にII=5° には、STrZに突出した大きな暗斑があり、大変目立っています。これらの凹凸模様の経度 は体系IIに対してほとんど変化していないので、SEB南縁を流れる後退ジェットストリー ムには乗っていません。

[図2] WSZとNEBの拡幅領域
WSZの周辺ではNEBの拡幅が進んでいるように見える。黒点はガニメデの影。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

II=140°付近の北赤道縞(NEB)に出現した大型の暗斑は、NEBから分離して北熱帯(NTrZ)の 孤立したリング状の暗斑になりました。この緯度では小赤斑(Little Red Spot)と呼ばれ る大赤斑を小型にしたような赤色斑点が過去に何度か観測されています。今回の暗斑は周 囲のNEBよりも赤みがあったので、小赤斑が形成されたのではないかと期待されたのです が、小赤斑の重要な要素であるメタンブライト(890nmのメタン吸収帯で明るい=雲の高度 が高い)な特徴が観測されていません。

この暗斑は、当初II=140°付近をゆっくりと前進していましたが、11月初めに突然10°も 前方へ移動し、現在はII=130°に位置しています。画像を見ると、11月初めの暗斑はNEB からの張り出しがかなり大きかったので、おそらく、北温帯縞(NTB)南縁を流れる木星面 最速のジェットストリームへと向かう速度勾配の大きな領域に、一時的に入り込んだので はないかと思われます。

NEBはII=300〜50°の範囲では北縁が北緯21°と幅広くなっていて、典型的な拡幅時の様 相となっています。この拡幅域の前端にはNTrZの長命な白斑WSZがありますが、その前方 のNTrZにも淡い模様が見られ、拡幅域が拡大する気配が感じられます。他の経度のNEBは、 北縁に起伏はあるものの通常の太さで、拡幅活動は停滞したままのような印象を受けます。 しかし、2009年には前述の小赤斑のような大型暗斑が出現したひと月後に、ちょうど同じ 場所から本格的な拡幅活動が始まったこともあるので、拡幅活動の状況については今後も 十分に注意する必要があります。

火星

いよいよ火星シーズンが始まりました。2016年5月30日は火星の最接近の日となります。 視直径は18.6秒の中接近ということになります。

今シーズンの初観測(月惑星研究会に報告されていたもの)は、8月29日アメリカのポール・ マクソン(Paul Maxson)氏によってもたらされました。視直径わずか3.7秒の小さな火星を 撮像(685nm)されたものですが、小さくなりつつある北極冠やアキダリウム、子午線の湾 など目立った模様が記録されているものでした。11月14日までに報告されたことをもとに、 紹介します。

[図3] 割れ目のできた北極冠
撮像:ワジム・アレクセーエフ氏(ロシア、36p)

地球からよく見えている北半球は、来年1月の夏至に向かっています。北極冠は次第に縮 小していきます。10月5日にはロシアのワジム・アレクセーエフ(Vadim Alekseev)氏によっ て北極冠の割れ目も記録されています(図3)。この時期、北極冠を取り巻く周囲にはスポッ ト状の白雲がよく見られます。この画像の左下にもそれらしいものが記録されています。 ただ、これだけで雲と判断することはできませんが、注意を払いたいところです。

土星

栃木県の吉田智之氏から今シーズン最後の土星画像が届いています。10月18日の観測で、 日没15分後、高度20°足らずの土星です。そんな悪条件下での撮像にもかかわらず、主要 な縞はもちろん、カシニの空隙も明瞭に捉えられているのは驚きです。

土星は11月30日に太陽と合になりますので、観測は年明けまでお休みとなります。次の観 測シーズンを楽しみにしたいものです。

[図4] 今シーズン最後の土星
赤外画像。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)

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