天文ガイド 惑星の近況 2016年4月号 (No.193)
堀川邦昭、安達誠

3月に衝を迎える木星はしし座を逆行中で、観測の好機となっています。火星はおとめ座 を抜けててんびん座に進みました。その先のへびつかい座、アンタレスの左上には土星が 顔を出すようになっています。3月初めに西矩となりますが、観測はまだ低調です。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

北赤道縞(NEB)は、II=270〜45°で大変幅広くなっています。この区間ではベルト北縁が 北緯20°にあり、他の経度に比べて3°ほど北に膨らんでいます。拡幅領域の前端には長 命な白斑WSZがあり、ベルト北部に埋もれて明るく明瞭に見えています。その前方でも拡 幅の兆候があるものの、あまり進行しているように見えません。今回の拡幅で見られる突 発的な活動は、あまり長続きしないものばかりですが、WSZ後方の拡幅領域は安定してお り、WSZの前進と共に着実に伸長しています。過去の拡幅現象はWSZと関係があるようには 見えませんでしたが、今回はWSZが拡幅をコントロールしているような印象を受けます。

南赤道縞(SEB)北部の明化領域は木星面を一周して、前端が大赤斑(GRS)の後方に戻ってき ました。全体の長さは90°で変わりありませんが、暗部で区切られたセル構造はなくなり、 ほぼ一様な細長い明帯となっています。また、最近は大赤斑前方でもSEB北部が広範囲に 淡くなっています。

[図1] 大赤斑の後方にせまるSEBの明部
北半球にはWSZとNEBの拡幅領域が見られる。撮像:阿久津富夫氏(栃木県、35cm)

大赤斑はII=240°にあり、赤みが強く大変目立っています。過去の画像と比較すると、大 赤斑はこの数年、濃く赤くなる傾向にあることは確かなように思われます。ただし、最近 は前述のようにSEBが相対的に濃度が落ちておりことも、大赤斑を際立たせる一因となっ ているように思われます。

永続白斑BAはII=0°に進んでいますが、周囲とのコントラストが低く不明瞭です。後方に 接する南温帯縞(STB)はBAよりも小さな暗斑になってしまいました。II=140°にあるSTB Ghostは相変わらず青いフィラメント状ですが、最近の画像を見ると、淡いフィラメント が長さ20°の矩形を描いていて、新しいSTBの輪郭が形成されつつあるようです。一方、 BA前方の濃い小暗斑は拡散して淡くなっています。こちらはSTB Ghostのようなフィラメ ントになってしまうかもしれません。

北温帯(NTZ)がベルト状に暗化した北温帯攪乱(NTD: NT disturbance)はII=120〜280°に 後退しています。以前よりも少し淡くなり、後端付近ではNTZに明るさが戻ってきました。

[図2] 2月の木星面展開図
永長英夫氏撮像・作成。模様の名称は筆者による。

火星

火星は明け方に高度を上げ、観測しやすくなってきました。5月31日の最接近に向かって、 大きさも大きくなり、次第に見やすくなってきています。2月を回るとLsは100°を越え、 北半球は夏至を過ぎました。北極冠は極の中心から若干外れたところにあって、Meridini (W0, +0)の見える経度では見えやすいものの、Erysium(W215, +25)の方向からはほとんど 見ることができなくなっています。ただ、この位置からも北極地方に白雲がぼんやり広が っている様子は記録されました。

今月目立っている現象は、低緯度地方に東西に広がる氷晶雲で、どの経度でも記録されて います。カラーではなく青画像にその様子が顕著に表れています。氷晶雲はいつも赤道付 近で蛇行している様子が見られますが、地表と見え方の関連も興味深い対象です。

[図3] オリンピア山の白雲
撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、36p)

Olympas Monsは正午前より山頂にかかる白雲が顕著です(図1)。一方、Tharsis(W100, +5) の3つの成層火山は北ほど顕著で、最北のAscraeus Mons(W100, +20)は早い時期から白雲 が出ていました。2月に入ると南方の2つの火山にもその傾向が広がってきました。

南半球の南緯50°にはHellasとArgyre(W30, -50)の2つの大盆地がありますが、これらは 白雲に覆われている様子が記録され、Hellasが真南に来ているときは、Hellasがあたかも 極冠のような姿に見えています(図2)。

[図4] 明るい雲に覆われたヘラス
撮像:エフライン・モラレス氏(プエルトリコ、30cm)

今月は、目立った砂嵐は起こらず、平穏な火星面となりました。

土星

今シーズン最初の観測は1月4日に米国のチャペル氏(Ethan Chappel)でした。国内では25 日の橋野氏(千葉)の画像が最も早い報告です。

土星は環がさらに大きく開き、本体がすっぽりと収まって大変美しく見えます。本体で最 も目立つのは北赤道縞(NEB)で、赤みのある濃いベルトですが、昨シーズンに比べて細く なっています。中緯度で目立つのは北温帯縞(NTB)です。昨年は一時青いベルトになりま したが、現在はNEBと同じ赤みのあるベルトに変わっています。北極の六角形模様も健在 で、赤外画像で鮮明に見られます。

[図5] 今シーズンの土星
撮像:橋野英嗣氏(千葉県、31cm)

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