天文ガイド 惑星の近況 2016年5月号 (No.194)
堀川邦昭、安達誠

木星は3月8日にしし座で衝となり、観測の好機を迎えています。火星はてんびん座を進み、 ひと足先にさそり座で西矩(3月3日)を迎えた土星に近づきつつあります。夜半過ぎの東南 天では、これらにアンタレスを加えた3つの星がとても目立っています。

ここでは2月後半から3月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

3月の木星面は、大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)に大きな白斑が出現して活動的になっ ています。白斑は3月1日にII=297°のSEB中に発生、5日には大きな白斑に発達しました。 その後も最初の発生位置から新しい白斑が次々に出現し、大赤斑後方のSEBは60°に渡っ て大きな白斑や暗い暗柱が並んで乱れてつつあります。

大赤斑の後方には、元々post-GRS disturbanceと呼ばれる定常的な白雲の活動域があり、 消長を繰り返しています。一方、大赤斑から離れた場所で突発的に起こる乱れた白雲活動 は、mid-SEB outbreakとして知られています。どちらも特定の発生源から白斑が現れて、 前方のSEBに乱れた白雲領域を作ります。今回の活動は大赤斑から60°しか離れていない ので、どちらの現象とも解釈できます。今後の活動を見て判断する必要がありそうです。

[図1] 活動的になった大赤斑後方のSEB
北半球ではWSZが明るく目立つ。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

昨年12月に形成されたSEB北部の明化領域は、木星面を一周して2月後半に大赤斑後方に戻 ってきました。しかし、大赤斑の前方に抜けることなく、急速に短縮して消失してしまっ たようです。大赤斑前方ではSEB北部が広範囲に淡くなっていますが、この白雲は前述の post-GRS disturbanceに由来していると思われます。

SEBの南縁には凹凸が多く見られます。多くはII=0°付近にありますが、大赤斑の前方に も大きな突起(暗斑)があり、1日当たり+2°のスピードで後退しています。このペースだ と4月初めには大赤斑前端に到達すると予想されます。現在の大赤斑は、SEBが濃化安定な 時期としては異例に顕著な状態が続いていますが、暗斑との会合によって何か変化が起こ るか、注目したいところです。

[図2] 大赤斑にせまるSEB南縁の暗斑
4月初めに大赤斑に到達する見込み。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

北赤道縞(NEB)はII=270〜45°の区間でベルトが幅広くなっていますが、前号で書いたよ うに前端にある白斑WSZに遮られて拡幅は遅々として進んでいません。最近は、WSZの前方 に新しいベルト北縁となる淡いストリーク(dark streak)がII=200°付近まで伸びていま すので、拡幅がWSZを越えるかどうか、見守りたいと思います。なお、WSZは大変明るく顕 著になっているのが注目されます。明るい北熱帯(NTrZ)よりもさらに明るく、この経度で は南半球の大赤斑と並んで際立った模様になっています。

[木星とガニメデによる恒星の掩蔽]

4月12日にHIP54057というしし座の7.3等星が木星によって掩蔽されます。潜入は14時45分 (UT)(日本時間23時45分)で、HIP54057が木星の左側から近づいて南熱帯(STrZ)付近に隠れ るのが、アジアとオーストラリアの広い範囲で見られます。また、翌13日には同じ星をガ ニメデが掩蔽します。潜入は11時57分(UT)(日本時間20時57分)ころ、継続時間は4.7分で す。ガニメデは木星より小さいので、こちらは日本周辺の東アジアでしか見ることができ ません。どちらも大変珍しい現象なので、狙ってみてはいかがでしょうか。

[図3] ガリレオ衛星のダブル経過
イオとエウロパが同時に木星面を経過しながら、それぞれが自分の影を掩蔽している。大変珍しい現象。撮像:クリストフ・ペリエ氏(フランス、25cm)

火星

火星は最接近を5月末に控え、次第に視直径を大きくしてきました。3月初旬に9秒を越え、 気流次第ではかなり細かなところまで見られるようになってきています。夜半前に東天に 昇り、夜明け前には南中するようになりました。

Lsは120°になり、北半球は夏至を過ぎた季節になっています。北極冠は非常に小さくな り、Mare Cimmeriumが正面に見えるときには、北極冠はほぼ見えない位置になっています。 しかし、その反対方向からは小さくなった北極冠がとらえられています。

火星面は、白雲の活動が盛んで、おもな盆地やTharsis付近は広く白雲に覆われている様 子がたくさん報告されています。低緯度地方に横たわる氷晶雲の活動も活発で、眼視観測 でも捉えることができました。400倍あれば、その姿を見ることができます(図4)。 Tharsis付近の氷晶雲は安定で非常に見やすく、2月中旬から一ヵ月間も同じ姿で記録され ています。

[図4] Tharsis付近の氷晶雲
安達誠(滋賀県、31p)のスケッチ

低緯度地方の氷晶雲は、暗色模様の上を覆うことが多いため、本来なら黒く写る模様が白 っぽくなって見えにくくなってしまい、眼視観測者が驚いてしまうことがよく起こりまし た。またHellasは常時白雲に覆われており、南に来た時は、一見して南極冠と見間違いそ うな姿です。3月1日、Hellasの白雲が東にあるAusoniaに流れ込んでいる様子をフォスタ ー氏(Clyde Foster)が記録しています(図5)。

[図5] Hellasから流れ出る白い雲
撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、36cm)

土星

今シーズンの土星は低空のため観測は低調で、当期間における国内の観測は3日間のみで した。

土星面は概ね変わっていません。高解像度の画像では、北赤道縞(NEB)から極にかけて細 い縞で覆われて、まるで環を見ているようです。昨シーズンには見られなかった特徴です。 また、赤道帯(EZ)からNEBに複数の白斑がバリー氏(Trevor Barry)によって報告されまし た。

[図6] 細い縞で覆われた土星面
撮像:フェルナンド・シルバ氏(チリ、35cm)

前号へ INDEXへ 次号へ