天文ガイド 惑星の近況 2016年6月号 (No.195)
堀川邦昭、安達誠

衝を過ぎたばかりの木星は、しし座を逆行中で観測の好機にあります。夜半過ぎの南天で はと、アンタレスをはさんで右に火星、左に土星が並んでいます。土星は3月25日に留と なり逆行に入りました。火星もまもなく留となります。暖かくなり冬の悪シーイングから 解放されましたが、今春は天候が不順のようで、観測者とっては試練が続いています。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

南赤道縞(SEB)では、3月に始まった白雲活動によって大赤斑(GRS)後方が大きく乱れてい ます。3月10日頃までに出現した白斑によって大きな活動域が形成された後、しばらく白 斑の供給がストップしていましたが、25日になって少し後方のII=310°付近に新しい白斑 が出現し、活動域の長さは70°に広がっています。その後も新しい白斑が供給されて、非 常に活発な状態が続いています。活動はしばらくの間、続くと思われます。

SEBで起こる白雲活動には、大赤斑後方で定常的に見られる白雲領域(post-GRS disturbance)と、大赤斑とは関係なく独立に起こるmid-SEB outbreakと呼ばれる2つのタ イプがあります。今回の活動は、どちらの特徴も見られるので、どちらに分類するか判断 が難しく、しばらくは事態を静観するしかないようです。

[図1] 大赤斑後方の白雲活動
図の右側で新しい白斑が発生し、大赤斑方向に移動しながら乱れた白雲に変化する様子がわかる。

ベルトが北に広がる拡幅現象が進行中の北赤道縞(NEB)は、動きの遅い白斑WSZが拡幅領域 の前端に居座っているため、前方に広がることができないという異常な展開が続いていま す。それでもWSZ前方には北緯21°に沿って淡いラインが伸びて、NEBとの間が薄茶色にな っています。同じように見えるところがII=90°付近にもあり、何かをきっかけとして拡 幅が一気に広がる可能性は残っているようです。

その一方で、拡幅領域では後端部分が40°に渡って淡化し、拡幅前の通常のNEBの幅に戻 ってしまうという大きな変化が起こっています。。現在の拡幅領域後端はII=5°付近に移 り、長さは100°ほどに短縮してしまいました。残った拡幅領域でも、ベルト北部が以前 よりも明るく見えるようになっています。今回の拡幅現象は全周に波及しないまま中途半 端に終わってしまうのでしょうか。今後の予想がつかない展開となっています。

[図2] 永続白斑BAと淡化する拡幅後端部
NEB北部が中央左で淡く、ベルトが細くなっている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

SEB南縁には数多くの暗斑や突起が見られます。体系IIに対して後退していますが動きは ゆっくりで、SEB南縁を高速で流れる後退ジェットストリームには乗っていません。現在、 大赤斑前方に大きなリング暗斑があります。当初はSEB南縁の小暗斑でしたが、しだいに 大きく成長して南熱帯(STrZ)に飛び出して見えるようになりました。2月は1日当たり+2° の割合で後退していましたが、大赤斑に近づくにつれて減速し、現在は1日当たり+0.5° です。大きくなったことでジェットストリームの奔流から離れてしまったためと思われま す。3月下旬には大赤斑に到達して、面白い現象が見られるかと期待していましたが、し ばらくおあずけのようです。

[図3] SEB南縁のリング暗斑
画像中央でSEBから大きく突き出しているがリング暗斑。下はドリフトチャート。大赤斑の手前で大きく減速した。

大赤斑は相変わらず赤みが強く、大変目立つ存在です。2月はII=240°でほとんど動きま せんでしたが、3月は大きく後退して、現在はII=245°に位置します。衝をはさんで周辺 減光が東西で入れ替わることで生じる位相効果(衝後は経度を大きく見積りがちになる)と、 大赤斑固有の90日周期の振動運動が重なったためと思われます。

火星

5月31日の最接近に近くなり、火星の視直径は12秒を越えました。最も遠かった時に比べ、 およそ3倍にもなり、肉眼で見ても模様がよく見えるようになってきました。当会に寄せ られる観測報告も日増しに増え、表面模様のかなり小さな模様まで記録されるようになり ました。

ここひと月間には砂嵐は記録されませんでしたが、Hellasや両極付近では、活発な雲の変 化が捉えられました。北極冠はすっかり小さくなり、黄色っぽく見えていますが、周辺に は小さな雲がよく発生しています。Mare Acidalium付近などよく発生するところがありま すが、北極域渦状雲と呼ばれるドーナツ状の渦状雲になっているようです。ESAのMars Express周回衛星が、その様子をとらえていました。当会に報告されてきた画像では、ま だリング状の雲をとらえた報告はありません。

[図4] Hellasの雲と南極のベール
撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、40cm)

一方、南極地方はいつ見ても雲に覆われている状態になりました。これからどんどん濃く なり、南極冠の形成が始まります。Hellas盆地には白雲が円形に広がっていましたが、 2月27日に西風に乗って雲がHellasから伸びだし、東側に広がり始めましたが、その後こ の状態が続き、白く濃く伸びた雲以外にも南側全体にフード状に雲が広がっています (図4)。4月9日現在、まだ一周には届いていませんが、もうすぐ全体を覆うことでしょう。

[図5] OlympusやTharsisの山岳雲
撮像:フェルナンド・コレア氏(チリ、35cm)

低緯度地方を覆う氷晶雲の活動も活発で、画像では南北幅40°位の広がりになっていると ころが見られます。また、Olympus Monsは雲だけでなく、眼視でも火山そのものが雲の端 に黒い点になって観測されています(図5)。

土星

表面輝度が低くい土星は、南天低く撮像条件が厳しいため、観測は低調です。土星は斑点 に乏しく変化もゆっくりですが、色調は豊かで、特に極地方の変化は目を見張るものがあ ります。昨年の土星面と比べると、今年は北極の六角形を取り巻く緑色の領域が暗くなっ たようです。そのため可視光では六角形が見えにくくなっています。

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