天文ガイド 惑星の近況 2016年7月号 (No.196)
堀川邦昭、安達誠

火星の接近が近づいています。4月17日にはへびつかい座で留となり、逆行に入りました。 すぐ東には土星があり、2惑星とアンタレスが三角形を描いて夜空を彩っています。木星 は5月9日に留となり、順応に転じます。夜空の主役が交代する時期が間近のようです。

ここでは4月後半から5月初めにかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

3月に大赤斑(GRS)後方で始まった南赤道縞(SEB)の白雲活動は、現在も活発な状況が続い ています。当初、II=290°で始まった活動は、新しい白斑が出現するたびに後方へと広が り、4月初めにはII=320°近くに達して、活動域の全長は70°と最大になりました。現在 は少し落ち着いて、輝度の高い白斑は少なくなり、長さも60°程度になっていますが、ま だしばらくの間は活動が続くと思われます。

今回の活動を精査すると、白雲は1ヵ所ではなく複数の場所から同時多発的に発生する傾 向があり、大赤斑後方の白雲領域は全体が一体となって活動していることが明らかです。 そのため、この活動は、元々大赤斑後方に存在する白雲領域(post-GRS disturbance)が活 性化したものと考えられます。

この余波として、白雲領域からII=0°付近までのSEB南縁が活動的になって、大きく乱れ ています。また、大赤斑前方でもSEB南組織(SEBs)が南へ厚みを増しているようです。た だし、SEB南縁に見られる多くの暗斑や突起は、後退速度が1日当たり+0.5°程度と遅く、 SEBsの後退ジェットストリームには乗っていません。

大赤斑のすぐ前方で減速したSEB南縁の大きなリング暗斑は、大赤斑の前端から25°前方 でほぼ停止してしまったようです。大赤斑前方で減速する暗斑は過去にもあありましたが、 完全に停止するのは珍しいことです。

[図1] 活動的なSEB
右側でNEB拡幅部が明化しつつある。撮像:大杉忠夫氏(石川県、25cm)

北赤道縞(NEB)の拡幅現象は、相変わらずII=255°にあるWSZが行く手を遮って前方に広が ることができません。3月に後端部が40°ほど明化してしまったのに続き、4月は拡幅域中 央にあたるII=330°前後のNEB北部も明るくなり始めました。このまま中途半端に拡幅が 終わってしまう可能性が高くなってきました。

長命な白斑WSZの周囲でも拡幅領域は少し衰えて明るくなり、WSZは再び明るい北熱帯 (NTrZ)に露出した白斑として見えるようになっています。昨年11月にWSZが拡幅領域に取 り囲まれてNEB北部に埋もれた白斑に変わった際には、それと同時に前進速度が遅くなり 注目されましたが、今回はそれとは逆にWSZが加速する兆候が見られます。大変興味深い 変化なので、今後の動きに注目しましょう。

南南温帯縞(SSTB)は、大きく二条に分離しています。内部にはA0からA8までの9個の高気 圧的白斑(AWO)があり、II=105°にあるA1が最も大きく明るく見えます。どの白斑も1日当 たり-0.9°という比較的速いスピードで前進していますが、A6がそれよりも少し遅いため 後続の白斑が追いついてしまい、A6からA1までの5個が約20°の間隔で並んでいます。そ の後方に少し遅れてA2〜A4が続きますが、A5は60°ほど離れてII=230°にあります。

[図2] 4月の木星面展開図
撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、模様の名称は筆者による。

火星

このひと月間に、火星の視直径は大きくなり16秒を越えるようになりました。気流さえ良 ければ、かなり細かな部分まで見ることができ、観望していても楽しい状況になりました。 それにつれ観測数も激増してきました。

今の火星観測の一つの焦点は、南極地方の変化にあります。次第に濃さを増す南極フード は一番濃さの強い時期にさしかかってきました。一見すると南極冠かと思われるくらい白 く明るく見えます。特にHellasが見える位置ではHellasの盆地一面に広がった(明るさに むらがあります)雲と一緒になって見事です(図3)。

[図3] 極冠のような南極フード
撮像:佐々木一男氏(宮城県、28cm)

これから南極冠の形成に向かって、南極付近の雲は活動的になります。この雲は極を覆う フードのような姿をしているため南極フードと呼ばれています。画像ではIRで撮影すると ほとんど写りません。しかし、5月1日になって、IRでも白い模様がHellasの南側に記録さ れました(図4)。淡い雲なら写りませんからよほど濃いものか、大地に降り積もったもの かどちらかではないかと思われます。その後もNoachisの南側に現れたり見えなくなった りしていますが、現段階でははっきりしません。

撮像される場合は、淡い雲の下が記録できるIRが重要な手段となります。また、画像処理 をするときには青画像を控えめにしていただけると様子がよくわかりますので、気を付け てください。

低緯度地方を全周に取り巻いていた氷晶雲はかなり淡くなり、ほとんど見えなくなってき ています。

[図4] Hellas南部の白い斑点
赤外光(IR)による画像。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

土星

土星面では中緯度に紫色の目立つベルトが見られます。これは北温帯縞(NTB)が二条に分 かれ、北組織が濃化したものです。薄青色の南組織とは大きく開いているので、別々のベ ルトとするべきかもしれませんが、当面はNTBの南北組織と扱うことにします。

NTB南組織(NTBs)では、III=70°に大きな白斑が捉えられています。また、薄茶色の北赤 道縞(NEB)にも複数の白斑が存在しています。

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