天文ガイド 惑星の近況 2017年2月号 (No.203)

堀川邦昭、安達誠


日没後の南西天で火星が粘っています。 夏に並んでいた土星は12月10日に太陽と合を迎えますが、火星はどんどん遠く小さくなっているものの、位置はほとんど変わっていません。 一方、明け方の東天では木星がスピカの北で高度を上げています。 合の間に天の赤道を横切って南天に入ったので、これから数年間は低空によるシーイングの影響を受けやすくなりそうです。

ここでは11月半ばから12月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

先月号で予想したとおり、南南温帯縞(SSTB)の高気圧的白斑(AWO)同士の合体が観測されました。 大赤斑(GRS)の真南で異常に接近していたA8-A0-A1のうち、合体したのはA8とA0です。 大赤斑−永続白斑BA−SSTBのAWOが三重会合となった際に、接近したAWO同士が合体する現象は2002年3月にも観測されていて、伊賀祐一氏は三重会合が合体の引き金になっているのではないかと指摘していましたが、今回はそのとおりの展開となりました。

11月11日の画像を見るとA8-A0は大赤斑とBAの真南にあり、異常に接近しているものの独立した2つの白斑です。 しかし、18日になると大赤斑とBAの前方へ抜けたところで、先行するA8が少し北側に移動しています。 高気圧的(左回り)な循環を持つ渦は、互いに反時計回りに回りながら合体することが知られていますので、この動きは合体が始まったことを示しています。 20日になると、A8-A0はひとつの白斑となっていますが、よく見ると白斑は前方南−後方北に傾いています。 A8がA0の北を回って後方へ移動し、まさに合体が進行しているようです。 そして25日には完全にひとつの白斑となってしまいました。 合体した白斑は、元の白斑よりもひと回り大きく明るくなって、よく目だっています。

この結果、SSTBのAWOはひとつ減って8個となりました。 現在はA6からA3までの6個がII=190〜290°のわずか100°の範囲に密集しています。 A4はこの集団から少し遅れつつあり、さらに遅れてA5がII=30°付近に見られます。 A5とA6の間は160°も開いていますが、II=120°付近にもうひとつ白斑があります。 これは、昨シーズン発生した3つの微小な白斑が合体を繰り返してひとつになったものです。 今後、AWOの新しいメンバーとして生き残るかもしれません。

合の間に始まった北温帯縞南縁(NTBs)のoutbreakは、11月初めには全周に波及し、NTBは濃いベルトとして復活しました。 11月前半は暗斑群が連結した細い乱れたベルトでしたが、後半になると北へ拡張して幅広くなり、濃度も増して立派な見え方になりました。 ただし、II=200〜0°ではまだ細く、青黒い北組織(NTBn)が分離して見えます。 ベルトの内部はまだ攪乱活動が残っているようで、濃淡や突起が各所で見られます。 また、隣接する北熱帯(NTrZ)は薄暗く、NTBsから北赤道縞(NEB)に向かって斜めに伸びる青黒いフィラメント模様も存在しています。

[図1] 濃く幅広く復活したNTB
NTrZは薄暗く、暗条も多く見られる。細いNNTBは暗斑の連鎖になっている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] SSTBのAWO同士の合体
▼印がA8とA0。大赤斑との間に薄暗くBAが見られる。大赤斑とBAを追い越した直後に合体したことがわかる。

NEBは拡幅活動が終わり、通常の太さに戻りました。 特にII=140〜200°では、北縁がさらに後退して非常に細くなっています。 ベルトの北縁はかなり起伏に富んでいて、薄暗いNTrZには大きな白斑や明部がいくつか見られます。 このうちII=198°にある白斑は長命なWSZです。 2007年と2012年のNTBs outbreakの際には、白雲が吹き払われて、灰色の微小な斑点だけとなりましたが、今回は大きな影響は受けなかったようです。 その他にも大赤斑後方にあたるII=300°付近に、大きな白斑がふたつ形成されています。 2012年には、そのような白斑が相互に衝突と合体を繰り返し、最終的にWSZだけが残りました。 今回はどのようなことが起こるのでしょうか。

大赤斑はII=257°にあり、相変わらず赤みが強く目立っています。 永続白斑BAは大赤斑の南を通過して前方へ抜けました。 かなり赤みが増していますが、周囲に暗い縁取りがないため不明瞭で、むしろ後方にある南温帯縞(STB)の暗斑の方が目立ちます。 STBの青いフィラメント領域であるSTB GhostとSTB Spectreは、それぞれII=140°と330°付近に見られます。 STBは消失していて、南熱帯(STrZ)から南温帯(STZ)はひと続きのゾーンとして、木星面でもっとも明るく見えます。

火星

火星はやぎ座にいて、順行を続けています。 日没も早くなり、日没時に南中付近にあります。 視直径は6秒余りと、ずいぶん小さくなりましたが、熱心な観測者から観測報告が寄せられています。 条件さえよければ眼視でも模様を確認することができています(図3)。

[図3] 小さくなった火星のスケッチ
観測者:安達誠(滋賀県、31cm)

南半球は夏至。Deは-20°になり、南極地方が地球に向いています。 小さくなった南極冠は偏心しているのですが、西経60°あたりでは南極冠がよく見られます。 南極冠は小さくなり、Hellasの1/3くらいの大きさになりました(図4)。 反対側の230°付近からではほとんど見えません。 この時期、南極冠の周囲には淡い白雲が観測されています。 火星面の雲はとらえにくくなってきており、明け方の南半球ターミネーター付近と北極付近にかろうじて見ることができます。

[図4] 縮小した南極冠
撮像:イーサン・チャペル氏(米国、20cm)

Hellasは明るさがにぶくなり、Eridaniaは赤みの強い姿が見るようになっています。 Olympia Monsは赤黒い斑点状に観測されています。 今月はダストストームの発生は見られず、ノーマルな姿をとらえることができました。

ダストストームは、今月ははっきりわかるものは発生しませんでした。 まだまだ発生の予想される位置にいますから、目は離せません。 9月に発生したダストストームによってArgyre盆地が明るくなったいう報告がありました。 位置の変化がほとんどないまま数日間経ちましたが、今月になると再び明るさは元に戻り、現在は暗い姿に戻りました。 この一連の変化で、Argyreが明るく見えたのは、ダストストームが盆地内にとどまった姿を記録したものだったように思われます。

一方、北極付近に活発に出ていた白雲は、活動が鈍くなり、画像でも目立った姿を見せなくなりました。

暗い模様では、今シーズンはNoachisがやや暗くなっています(図3)。 また、Solis Lacusの東側にあるThaumasiaも暗くなっていますが、その他の地域については特別な変化は見られませんでした。


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