火星は日没後の南西天に見られます。 季節が進むのとほぼ同じスピードで東へ移動していますので、日没時に見える方角がほとんど変化しません。 一方、明け方の東天では木星が姿を見せるようになりました。 合で観測できない間に重要な現象が起こり、いつもより少し騒がしい観測シーズンの幕開けとなっています。
ここでは10月半ばから11月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
火星はどんどん順行を続け、いて座を横切りました。 日没後の南の空に見えており、まだ観測の好機が続いています。 視直径は7秒と小さくなりましたが、気流が良ければまだ模様を記録することができます。 眼視では400倍くらいに上げると、模様も見えてきます。 Deが南に大きくなり、南極冠と南半球の模様が見やすくなりました。
Lsは256°で、南半球は夏を迎えています。 小さくなってきた南極冠は、Noachisが正面の位置に来た時にはっきりと見えますが(図1)、 反対のMare Sirenumの方向からは、よほど条件が整わないと見えない状態です。 南極冠の縮小期に見えるNovus Mons (ミッチェル山)がHellasの南側に見えてきました(図2)。 気流が良くないと画像として記録するのは難しいかもしれません。
[図1] 南極冠の様子 |
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南極冠の形や大きさがよくわかる位置で見た火星。撮像:岩政隆一氏(横浜市、35cm) |
[図2] Novus Monsの分離 |
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極冠のすぐ左にある白点がNovus Mons、下に白雲も写っている。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm) |
ダストストームは、今月ははっきりわかるものは発生しませんでした。 まだまだ発生の予想される位置にいますから、目は離せません。 9月に発生したダストストームによってArgyre盆地が明るくなったいう報告がありました。 位置の変化がほとんどないまま数日間経ちましたが、今月になると再び明るさは元に戻り、現在は暗い姿に戻りました。 この一連の変化で、Argyreが明るく見えたのは、ダストストームが盆地内にとどまった姿を記録したものだったように思われます。
一方、北極付近に活発に出ていた白雲は、活動が鈍くなり、画像でも目立った姿を見せなくなりました。
暗い模様では、今シーズンはNoachisがやや暗くなっています(図1)。 また、Solis Lacusの東側にあるThaumasiaも暗くなっていますが、その他の地域については特別な変化は見られませんでした。
北温帯縞(NTB)南縁には、赤道帯(EZ)よりも速い風速150m/sを超える木星面で最速のジェットストリームが流れており、ここで起こる激しい活動は、NTBs jetstream outbreakと呼ばれています。 以前は北温帯流-C(NT Current-C)の活動として知られ、高速で前進するメタンブライトな先行白斑(Leading spot)とその後方に形成される暗斑群によって、NTBが急速に濃化して行きます。 1970年以降は5年おきに発生しており(1991〜2006年は活動休止)、前回は2012年3月でした。
[図3] 大赤斑とNTBsのoutbreak |
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中央から左にoutbreakの青黒い大きな暗斑が並ぶ。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) |
今回のoutbreakは、10月19日に木星探索ジュノー(JUNO)の地上支援として、ハワイの赤外望遠鏡IRTFで観測を行っていたオートン(Orton)博士によって発見されました。 IRTFの赤外画像では、2.3μm画像でoutbreak特有の先行白斑が、5μm画像で暗斑群がホットスポットとして捉えられています。 一方、 アマチュアの画像では、15日から16日にかけて、江口利哉(東京都)と宮崎勲氏(沖縄県)が悪条件ながら北熱帯(NTrZ)に淡い濃淡を捉えていますし、ジュノーが11日から14日にかけて撮った低解像度の画像でも白斑や暗斑群が見られ、outbreakはすでにかなり広範囲に広がっていることが明らかになりました。 前回のoutbreakから4年半後の発生となりますので、予想よりも少し早いものの、5年周期は維持されているようです。
英国天文協会(BAA)のロジャース(Rogers)氏のレポートを見ると、高速で前進するメタンブライトな先行白斑と思われる模様は4つあります(うち1個は不明確)。 10月下旬でも2個は明瞭で、その後方には暗斑群が形成されています。 先行白斑と暗斑群の広がりから逆算すると、outbreakの最初の発生は合直前の9月15日頃で、10月6〜8日には二次的な活動が起こったとのことです。 先行白斑の前進速度はI系に対して1日当たり平均-5.3°で、風速にして170m/s、自転周期換算で9h46m56sとなります。
outbreakは11月初めには木星面全周に広がってしまったようです。 先行白斑は10月末の時点でI=260°と350°付近に位置していましたが、11月に入ると前方の暗斑群に追いつき消失してしまったようで、確認できなくなりました。 昨シーズンはかなりの経度で淡化消失していたNTBは、現在までに全周で復活し、明瞭なベルトになっています。 シーイングが悪く詳しい様子はわかりませんが、I=270〜40°で顕著な暗斑群が見られるようです。
このoutbreakは、なぜか合の前後に起こることが多く、今回も不運に見舞われました。 それでもジュノーの2回目のPerijove(近木点通過)に合わせてプロやアマチュアが早くから望遠鏡を木星に向けていたため、何とか活動の概要をつかむことができたのは、ラッキーといえるかもしれません。
[図4] NTBs outbreakの先行白斑 |
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▲で示した明るいところが先行白斑。左は赤外、右はメタン画像。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm) |
その他の木星面は、昨シーズン末と同じような状況で、あまり変化していません。 北赤道縞(NEB)と南赤道縞(SEB)が濃く太く見え、南南温帯縞(SSTB)がそれに続きます。 大赤斑(GRS)は明瞭で赤みが強く、7月に出現した周辺の暗部は完全に消失しています。 経度はII=256°で、ゆっくりとした後退運動が続いています。 大赤斑の南側には永続白斑BAがあり、11月初めに真南を通過しました。 本体は薄茶色でとても淡く不明瞭で、後方に続く南温帯縞(STB)の暗部の方がよく見えます。 そのさらに南にはSSTBの小白斑(AWO)の一群が見られ、特に大赤斑とBAの南にはA8-A0-A1の3つのAWOが密集しています。 このような時に大赤斑-BA-AWOの三重会合が重なると、AWO同士の合体が起こりやすいことを、伊賀祐一氏が指摘していますので、今後に注目しましょう。
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