9月は全国的に天候が不順で、国内の観測にとって大きな打撃となりました。 東矩を過ぎた火星は、へびつかい座を猛スピードで東進し、いて座に入りました。 土星はアンタレスの北を順行中で、木星は9月26日に太陽と合となり、観測はお休みです。 にぎやかだった夕暮れの空から惑星がいなくなり、火星だけが残っています。
ここでは9月半ばから10月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
火星は10月10日現在、いて座に位置を変え、急速に東に移動しています。 そのため、日没時刻が早くなってきたこともあり、まだ十分観測できる位置にあります。 ただ、赤緯が低いため、観測できる時間は意外に短くなっています。 また、低高度になるため、像は大気の分散を受けるため、ウェッジプリズムを併用しないと、観測は非常にやりにくくなってきました。 視直径は8.4秒と小さくなりましたが、まだ眼視でも模様を検出できる状態です。 光度は0.1等にまで下がってきました。 火星の季節を表すLsはおよそ240°で、南半球では春から夏へ向かっています。
火星像は西側が大きく欠け、一見すると太めのラグビーボール型ですが、気流が良い時は南極冠が見やくなってきています。 今までは北極の白雲が目立ちましたが、次第にDeが南に変化するとともに南極冠が見易くなってきました。 南極冠は縮小を始めており、経度によっては見えにくくなる位置があったり、よく見える位置があったりします。 部分的に明るく見えるところができています。
さて、先月号のレポートでは、原稿を書いている最中にHellasの北側にダストストームが発生したことを報告しましたが、このダストストームはその後西へと広がり、9月9日にはArgyre盆地付近に達しました。 この頃になると日本でも観測できるようになり、岩政氏の画像ではNoachisからArgyreにかけて広くダストストームの広がっている様子がよくわかります(図1)。 同じ日に熊森氏がもう少し西を撮影していますが、この二人の観測から広がりが確認できました。 9月10日の岩政氏の観測では広がりは変わらないものの、ダストストームの濃さは薄くなってきており、東西の広がりは140°程度で終わったようです。
[図1] 南半球のダストストーム |
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南極冠を取り巻くようにダストストームの広いバンドが見られる。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm) |
9月12日にはArgyre盆地内に小規模なダストストームが発生しました。 翌13日には盆地から南西方向に出ていく様子が記録されていますが、大きな変化は見られませんでした。
また、同じ日(12日)南アフリカのフォスター氏(Clyde Foster)が、Niliacus Lacusの東の端にダストストームの発生を記録しました。 このダストストームは翌日の13日には明るい東西に伸びた雲となりましたが、翌14日には一つのダストストームだけになってしまいました(図2)。 15日にはChryseの北東部に進みましたが、そのあとは観測がなく、追跡することはできませんでした。
[図2] 9月13日(左)と14日(右)のダストストーム |
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矢印の先がダストストーム。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm) |
9月23日に、アメリカのテータム氏(Randy Tatum)の画像には、これらの2つのダストストームの起こった地域がリム付近で黄色くなって、ダストのベールが広がっている様子が記録されました。
続いて9月25日には、岩政氏がElysiumの東側にダストストームが2つ発生している様子を記録しました(図3)。 この2つ見つかったダストストームのうち、東側に発生したものは27日にも同じ位置で見ることができました。 しかし、その後の観測報告はなく、追跡はできませんでした。
[図3] 北半球のダストストーム |
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左下に見られる大きな2つの光斑がダストストーム。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm) |
火星面はまだ、ダストストームの発生シーズンが続きます。 巨大なダストストームがいつ起こってもおかしくない状態が続いています。 視直径は小さくなりましたが、まだまだ追跡をお願いしたいと思います。
[図4] 左に偏心した南極冠 |
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北極近くには小さな雲が見られる。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm) |
まだ東矩を過ぎたばかりですが、赤緯が低いため、土星は日没後ほどなく高度が下がってしまいます。 その上、天候不順が重なり、観測はほとんどありません。 今のところ、9月19日が最後の観測で、このままシーズンが終わってしまいそうです。
土星面は特に変化は見られません。 クリーム色の赤道帯(EZ)が明るく、赤茶色の北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)が濃く目立っています。 特にNTBは赤外光で非常に濃く見られます。 注目された北緯64°の暗斑は、残念ながら9月は確認できていません。 北極の六角形模様も、観測条件の悪化に伴って分解できなくなっています。
[図5] 今月の土星面 |
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撮像:ジャビエル・ベルトラン−ジョバニ氏(スペイン、51cm) |
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