天文ガイド 惑星の近況 2016年11月号 (No.200)

安達誠、堀川邦昭


土星は8月29日、火星は9月6日に相次いで東矩を迎え、観測時間帯は夕方に移っています。 夕暮れの南西天では土星とアンタレスの間を火星が足早に駆け抜けて行くのが見られました。 木星はしし座からおとめ座に入り、9月末には太陽との合を迎えます。

ここでは8月半ばから9月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

日没後、火星は西の空に回りました。 観測時間は今までと比べるとずいぶん短くなりましたが、日没の時刻が次第に遅くなるため、同じような位置関係での観測がしばらく続きます。

火星は9月現在さそり座の北にあり、視直径は10秒になっています。 画像はもちろん眼視での観測もまだ可能です。 Lsはおよそ220°になり、北半球では秋分と冬至のちょうど中間点に差し掛かりました。 注目の南半球は春分と夏至の中間にあたり、南極冠は縮小期に入っています。

南極冠は、火星の赤道が次第に地球に向き、南側が見える向きになってくるため、大きさが見えやすくなってきます。 画像で撮るには気流の良い条件の時に撮るか、周辺部の処理の工夫が必要でしょう。 好条件での火星画像には、南極冠の大きさのわかる画像が報告されています(図1)。

[図1] 明瞭になった南極冠
南端に細く白く見えるのが南極冠、下の明るい部分は北極雲。撮像:柚木健吉氏(大阪府、36cm)

火星は、ダストストームが頻繁に起こるシーズンに入っており、今月もあちらこちらで淡いダストストームらしきものが発生しています。 とりわけ北極周辺では、極付近の白雲が黄色くなり、ダストのベールが覆った状態が続いています。 8月13日にはHellasの東側のAusonia付近がダストのベールで淡くなり、眼視でも明るく記録されました(図2)。

[図2] Hellas周辺のダストベール
Hellasの左側が広く明るくなって見える。撮像:ミルカ−ニコラス氏(オーストラリア、36cm)

8月19日にはHellasの中にあるZea(中心やや南にある黒っぽいリング状の模様)が南アフリカのフォスター氏(Clyde Foster)によって記録され、Hellasの地表までが見えていることがわかりました。

9月3日には米国のメルカ氏(Jim Melka)からHellasの北側に明るいダストストームの報告がありました。 翌4日にはHellasの北側と、西側(Deucalionis)方面にダストの雲が伸びて広がる様子が確認され、大きなダストストームだと分かりました。 5日にはさらに西に広がり、9月7日には江口利哉氏(東京都)がその様子を捉えています。 筆者(安達)も1日に眼視で観測しましたが、ベルト状に明るい部分が広がっていました。 今後の広がりが注目されます(図3)。

[図3] ダストストームの発生
明るく見えるのがダストストーム。Hellasから広がり始めている。撮像:ポール・マクソン(米国、25cm)

土星

北半球中緯度は、この数年ずっと薄暗い緑色をしていましたが、今シーズンは低緯度と同じ薄茶色の色調に変わっています。 薄緑色は2010年に起こった大規模な白雲活動の余波と考えられますので、6年を経てようやく通常の状態に戻ったことになります。 土星の活動サイクルはとてもゆっくりしているようです。

先月号で書いた北緯64°の暗斑は、8月もいくつか画像で明瞭に確認できました。 そこで今シーズンの画像を再度調べたところ、5月以降、しばしば捉えられていて、体系IIIに対して1日当たり-11.4°という高速で前進していることがわかりました。 昨年も同じ緯度に同じような高速で前進する暗斑が観測されていて、ドリフトチャートを描くと今回の暗斑は概ね昨年の延長上に位置しています。 そのため、両者は同じ暗斑である可能性が高いようです。 ただし、今年4月以前は、かなり高解像度の画像でも予想される経度に明瞭な模様は見られません。 また、昨年の暗斑は赤外画像で顕著だったのに対して、今年の暗斑は可視光画像では目立つものの、赤外では極めて不鮮明という異なった特徴が見られます。

[図4] 北緯64°の暗斑
赤色光による画像。撮像:ミルカ−ニコラス氏(オーストラリア、36cm)
[図5] 暗斑のドリフトチャート
暗斑は昨年観測された同様の暗斑の延長上に位置している。

木星

木星は日没後の西天にわずかに見えるだけとなっていますが、8月27日に木星探査機ジュノーの近木点通過(PeriJove)という重要なイベントがあり、熱心な観測者からの報告が続きました。 観測条件は厳しいのですが、オーストラリアのウェズレー氏(Anthony Wesley)の近赤外画像で比較的詳しい状況を確認することができました。

南熱帯(STrZ)のリング暗斑が大赤斑(GRS)との会合により生じた暗部の状況を見ると、大赤斑南の青黒いアーチはまだ残っているものの、強いものではなく変化も見られません。 一方、前方のSTrZ北部はベルト状に薄暗くなって、南赤道縞(SEB)と一体になっています。 暗部はかなり前方まで広がっているようで、南縁に沿ってストリーク(dark streak)が形成されているのかもしれません。 この様相は他の可視光画像とも整合しています。

大赤斑本体は赤みがかなり強く、暗部の影響は見られません。 しかし、暗部の活動が続くと急に不明瞭になることもありますので、合明けの状況には十分に注意したいものです。


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