天文ガイド 惑星の近況 2016年10月号 (No.199)

安達誠、堀川邦昭


夜空ではアンタレスと土星が南北に並び、左から明るい火星が間に割って入ろうとしています。 観測の好機が続いていますが、南天低いため日没後数時間で高度が下がり、観測条件は厳しいようです。 木星は西天低くなり、観測シーズン終盤となっています。

ここでは7月半ばから8月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星は次第に遠ざかり、8月初めの視直径は13秒となりました。 しかし、ようやく夏の良いシーイングに恵まれるようになりました。 視直径が大きかった梅雨時よりも良い条件で観測ができるようになっています。

Lsは200°近くになり、南半球は春分を過ぎました。 火星像の南端に南極冠のエッジがはっきり見えるようになりましたが、梅雨の間は気流に恵まれず、それらしい姿をなかなか捉えられませんでした。 画像では非常に細く写るため、形を鮮明に写すことが難しく、南極冠の様子をとらえるのは、非常に難しい状態でした。 むしろ眼視の方がよく分かったかもしれません。

南極冠の北縁はHellasの南側付近で見やすくなっていましたが、それを越えた高緯度になると再び暗い様子になり、南極を取り巻く白い帯として観測されました。 全周で一気にできたわけではなく、できては消えてを繰り返しながら、安定したエッジが形成されました。 MROの画像を見ると6月頃から見えていますが、いつできたかを決めるのは非常に難しい状況でした。

火星面に見える雲は、高地にかかっていた雲が次第に見えなくなってきました。 Hellasも雲がなくなり、砂漠の地肌が見えるようになりました。 また、日没時の赤道付近によく出ていた白雲も次第に姿を見せなくなり、眼視では気流が良くないと見逃してしまう程度になりました。 南極冠が最大になったこの頃は、白雲の活動は極地方に集中します。 そのため、北極地方は広く白雲に覆われ、ぱっと見た瞬間、北極が南極冠を見ているような錯覚に陥るような見え方になることもありました(図1)。

[図1] 北極付近の明るい雲
画像の一番下のまるで極冠のように明るい部分が雲。撮像:佐々木一男氏(宮城県、28cm)

一方、先月からダストストームの季節に入ってきましたが、このひと月間にも面白い現象がいくつも起こっています。 7月10日には北極域でダストストームが発生しました(図2)。 このダストストームは、一度だけしか記録されていませんが、これより少し弱いものが31日にも記録されています。 また、こういった極付近の速い気流に乗って、淡いダストストームが何回も発生し、北半球は淡いダストのベールに覆われている地域が広がりました。 7月23日にはNoachisに高高度プルームと思われる雲が出現しました(図3)。 24日にはその名残らしい膨らみが記録されていますが、目立ったものではありませんでした。 これからは大きなダストストームの発生に注意が必要でしょう。 暗い模様では、Aurorae Sinusの北側にあるGangesが北の方まで暗くなっている様子が捉えられています。 画像でも(図4)眼視でも、その様子がよくわかりました。

[図2] 北極付近のダストストーム
北極地方にできた暗いバンドの内側がダストストーム。撮像:DJ・ハンソン氏(米国、51cm)
[図3] 高高度のプルーム?
矢印の先にある出っ張りが高高度プルームか。撮像:ファビオ・カルバロ氏(ブラジル、41cm)
[図4] 濃く北に伸びたGanges
画像中央を右下に伸びるすじがGanges。撮像:畑中明利氏(三重県、30cm)

木星

大赤斑(GRS)の前方に見られた南熱帯(STrZ)のリング暗斑がついに大赤斑に到達しました。 6月以降、1日当たり+0.6°のペースで後退していた暗斑は、7月16日頃に赤斑湾(RS bay)の前端に達し、22日にオーストラリアのウェズレー(Anthony Wesley)氏の赤外画像で赤斑湾の内側に少し入り込んだ姿が捉えられたのを最後に消失してしまいました。 しかし、その直後から大赤斑南部にアーチが発達、前方のSTrZが薄暗くなり、赤斑湾の後端には青黒い暗部が盛り上がって見えるようになっています。 これらの暗色模様はすべて大赤斑に取り込まれたリング暗斑の仕業と思われます。

大赤斑本体はアーチ内に赤く明瞭に見られますので、今のところ影響はないようです。 しかし、周囲を暗色模様で囲まれていますし、南赤道縞(SEB)南縁には多くの突起が見られますので、これらの暗斑が後退して大赤斑との会合を繰り返すことで、大赤斑の様相が劇的に変化する可能性もあります。 今後、しばらく観測が困難な時期となりますが、合前後の大赤斑周辺には十分に注意したいものです。

[図5] 大赤斑周辺の暗色模様
大赤斑は周囲が暗くなっているが、本体はまだ顕著である。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

土星

土星面は落ち着いた状態にあり、特に目立つ変化は見られません。 7月24日に暗緑色をした極域の南縁に暗斑があるのを岩政氏が捉えています。 同じような暗斑は8月7日の小澤氏の画像でも見られます。 暗斑の緯度は北緯65°、経度は24日がIII=248°、7日がIII=90°で経度差は158°もあり、1日当たりの移動量は-11°にもなりますが、この緯度には昨年も-10°/dayを超えるスピードの暗斑が観測されています。 もしかすると昨年の暗斑と関連があるのかもしれません。

[図6] 高緯度の暗斑
薄暗い北極域の南縁に暗斑が見られる。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

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