天文ガイド 惑星の近況 2016年9月号 (No.198)
安達誠、堀川邦昭

5月末に最接近となった火星は、早いもので6月30日に留となり、順行に転じました。すぐ 先にはさそり座のアンタレスがあり、その北を土星が逆行中です。8月末には火星がその 間を駆け抜けていくことでしょう。一方、木星は西に傾くのが早くなり、シーズン終盤の 感が漂っています。

ここでは6月半ばから7月初めにかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

火星

7月8日にLsは182°となり、北半球の秋分とほぼ重なります。反対に、南半球は春分とな ります。この時期、火星はダストストームのシーズンを迎えています。

最初のダストストームの報告は、6月14日ブラジルのソアレス氏(Avani Soares)によって もたらされました。画像から確認された位置は、Margaritifer SinusとAurorae Sinusの 中間(南より)で観測時刻は00時02分でした。ターミネーターぎりぎりにやや膨らんだよう な写り方で、2012年に発生したhigh-altitude "plume"と同じような形態に見えました。 それから2時間後と4時間後にも観測されていますが、目立った姿は記録されませんでした。 ところが、翌日(15日)にプエルトリコのモラレス・リベラ氏(Efrain Morales Rivera)が、 Margaritifer Sinusに明瞭なダストストームを報告してきました。さらにその1時間半後 の03時36分にはアメリカのハンソン氏(D.J. Hanson)が詳細な姿を記録しました(図1)。こ のダストストームは根棒状や馬蹄形ではなく、光斑がいくつも並んだような奇妙な姿をし ていました。また、16日や17日の報告を見るとほとんど移動することなく衰退したようで す。今回のダストストームは今まで知られてきたようなダストストームではなく high-altitude "plume"と関連があるかもしれません。残念なことに、日本からは観測で きない経度でした。

[図1] 斑点状のダストストーム
中央右上にできた光斑点群が見られる。撮像:DJ・ハンソン氏(米国、35cm)

一方、6月15日にフィリピンのゴー氏(Christopher Go)がMare Sirenumの南に南極を取り 巻く気流に乗ったダストストームを観測しました(図2)。この後、この付近は黄色いダス トのベールに覆われた姿が記録されています。日本からは大杉忠夫氏、小澤徳仁郎氏の画 像で確認されました。また筆者も眼視でやや明るくなっている様子を確認しています。

[図2] 南極地方のダストストーム
矢印の先がダストストーム 南極雲が切れている。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

6月27日には今度は北極冠の周りを回る気流に乗って広がったダストストームを南アフリ カのフォスター氏(Clyde Foster)が観測しました。その日から7月1日まで、ダストストー ムが北極を回るように東に広がっていく様子が記録されています。このように、小規模な ダストストームが頻発しています。これからは、規模の大きなダストストームの発生があ るかもしれません。いよいよ目の離せない季節になってきました。

[図3] 北半球にできたすじ状の雲
撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

さて、それ以外の特徴的な現象として、北極周辺の白雲の活動が活発なってきています。 眼視ではぼんやりした白雲のベール状ですが、画像では非常に複雑で、時々、円形に晴れ 間ができたり、長い白雲のバンドができたりと、著しく変化している様子がわかります (図3)。南半球ではさらに、Mare Erythraeum付近などに晴れて模様が黒々と見える領域が できました。昔は「太陽湖」と呼ばれたSolis Lacusはこの晴れ間に入ると巨大な大暗斑 に見えますが、Mare Erythraeumとの境目がわかりにくく、一見すると暗斑のように見え ないときもあります。火星面を覆う雲のベールによるいたずらといったところでしょう。 これからは、ダストストームや南極冠の出現に注目していきたいところです。

木星

NASAの木星探査機ジュノーが、7月4日に木星の周回軌道に入りました。これから約2年に 渡って、詳細な観測が行われます。どんな成果が得られるか楽しみです。

さて、木星面では、今シーズン注目された現象がどれも終息に向かっています。北赤道縞 (NEB)の拡幅現象はほぼ完全に終わり、ベルトは全周で通常の太さに戻ってしまいました。 また、大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)の白雲活動も収まり、白斑が1〜2個見られるだけ の平穏な状態となっています。

大赤斑前方で停滞しているSEB南縁のリング暗斑は、6月になると急に後退を始め、大赤斑 に接近しつつあります。リングの形も崩れて、現在はSEB南縁の突起にしか見えません。 7月中には大赤斑に到達して、取り込まれるか消失する見込みです。

[図4] 最近の大赤斑周辺
右の白点はエウロパ。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、41cm)

北温帯(NTZ)では、2013年から北温帯攪乱(NT disturbance)と呼ばれる暗い乱れた領域が ありましたが、こちらも徐々に終息に向かっているようです。現在はII=140〜320°の範 囲でベルト状の組織が見られますが、以前のようなNTZの幅いっぱいに広がった暗部はな くなり、徐々に明るさを取り戻しつつあるようです。

大赤斑は、相変わらず赤みの強い顕著な状態が続いています。6月に再び後退してII=250° 付近に達しました。3月に大きく後退してからちょうど3ヵ月なので、大赤斑固有の90日周 期の振動運動に対応した動きと思われます。

土星

土星面では紫〜茶色をした北温帯縞(NTB)北組織が最も濃いベルトとして目立っています。 その一方、NTB南組織は淡化して、北熱帯(NTrZ)に同化しつつありますので、今後は北組 織をNTBと呼ぶのがよさそうです。

高解像度の画像では、北赤道縞(NEB)などに淡い白斑や濃淡が捉えられていますが、詳細 を追跡することはできていません。

[図5] 7月の土星
特に大きな変化はない。落ち着いた状況にある。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

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