天文ガイド 惑星の近況 2017年9月号 (No.210)

堀川邦昭


土星が6月15日にへびつかい座で衝を迎えました。 南中高度はわずか32°で、南天の低い所を這うように進むため、条件はよくありません。 木星は7月4日に東矩となりました。 日没が遅いため、空が暗くなる頃にはすでに西へ傾き始めていて、観測可能な時間はかなり短くなっています。 ここでは6月半ばから7月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

mid-SEB outbreakは、II=60°の第2発生源付近で活発な活動が続いています。 前方では南赤道縞(SEB)北部に暗柱で区切られたセル状の明部が並び、後方でもベルトの中央部に乱れた白雲が広がっています。 一方、II=150°付近にあると思われる第1発生源は衰えが目立つようになってきました。 以前は大きな白斑があり、outbreakの白雲領域と後方の濃い中央組織をはっきりと隔てていましたが、現在は小さく不規則な白斑が散在するだけで、中央組織はだらだらと北へ下がってSEB北組織(SEBn)に続き、発生源の位置がよくわからなくなっています。 この結果、outbreakの主要部はII=110°よりも前方に移りつつあります。

outbreak先端部は、SEB中央組織を南へ押し上げながらpost-GRS disturbanceの北へくさび状に入り込んで前進を続けていて、outbreakによって厚くなったSEB北組織〜中央組織は大赤斑(GRS)のすぐ北に達しています。 南へ押し上げられたpost-GRS disturbanceはすっかり衰えてしまい、小さな白斑がII=320°付近まで残っているものの、乱れた白雲はほとんど見られなくなってしまいました。

5月中旬に大赤斑前方に出現したストリーク(dark streak)は、淡化と再形成を繰り返しながら、大赤斑周辺を暗化させつつあります。 現在は大赤斑南部を覆うアーチと前方のストリークが顕著で、II=160°にある永続白斑BAの北あたりまでSEB南縁が乱れています。 また、赤斑湾(RS bay)の内部もかなり暗くなっています。 暗部の発達にもかかわらず、大赤斑本体には影響がまったく見られず、むしろ以前よりも赤みが増したように思われます。 経度はII=275°で、再び後退を始めています。 また、6月下旬の大赤斑はとても小さく、長径12.3°と今シーズンの最小を記録しました。

北赤道縞(NEB)北縁には、長命なWSZを含めて5〜6個の白斑が見られます。 このうち最大のものは、II=200°にあるWSaと呼ばれる白斑です。 6月中頃、このWSaと5月に形成されたWShという小白斑の合体が観測されました。 6月14日の画像では、細く引き伸ばされたWShが時計回りにWSaに巻きついている様子が捉えられています。 WSaは他の白斑よりも速い前進速度を持っていますので、今シーズン末までに前方にある2個の白斑との合体が見られるかもしれません。 WSZはII=70°にあります。 まだ少し濁っていますが、以前よりもだいぶ明るく見えるようになりました。

北北温帯縞(NNTB)はII=0〜200°の区間で淡く、たくさんのジェットストリーム暗斑が見られます。 これらはII=200°付近で発生し、1日当たり-3°という高速で前進して行きますが、NNTB濃化区間は暗斑群にとって障壁となっているようで、II=0°付近で消失するものが多く、木星面を一周するものはほとんどありません。 個々の暗斑は大きさもドリフトもバラバラで、減速や合体がしばしば起こっています。 暗斑群は昨年末まで見られた後、ひと休みし、今年3〜5月に大量に発生しました。 現在、II=200°付近に新たな一群が現れていますので、第3波の活動となるかもしれません。

[図1] 大赤斑周辺
暗部に囲まれた大赤斑。後方からmid-SEB outbreakにより肥厚したSEBnが迫る。post-GRS disturbanceはかなり衰えている。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)
[図2] mid-SEB outbreak
中央左で活発な白雲活動が続く。右側は第1発生源付近だが、活動は弱い。北半球ではNNTBの暗斑群が見られる。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)
[図3] 合体中のNEBnの白斑
小白斑がWsaを時計回りに回って、右下に達している(右下は拡大画像)。BAとSTB Ghostも見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

土星

6月中は環が大変明るく見えていました。 これは衝効果(またはハイリゲンシャイン現象)と呼ばれ、太陽−地球−土星が一直線に並ぶことで、環を構成する粒子の影が見えなくなる衝の時期特有の現象です。

土星本体では北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)が良く目立ち、それぞれ二条になっています。 特にNTBは大きく分離して、独立したベルトのようです。 また、NEBは南半分が赤茶色なのに対して、北半分は青みが強く、はっきりとした色調の違いが見られるようになりました。

NEB北組織(NEBn)の中には小さな白斑がしばしば捉えられています。 非常にコントラストが低いため、高解像度の画像でないと見ることができないのですが、5月以降の画像を精査したところ、NEBnを体系IIIに対して1日当たり-6.8°で前進する白斑を4つ(WS1〜4)同定することができました。 各白斑のおよその経度は6月15日の衝の時点で、III=50°、195°、240°、300°です。 また、III=140°のNTB南組織(NTBs)にも白斑があり(NTWS)、1日当たり-0.9°で前進しています。 NTWSはメタンバンドで明るいという、NEBnの白斑にはない特徴があります。

[図4] NEB北組織の白斑と環の衝効果
白線で示したところに白斑がある。衝効果により環が本体より明るい。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、40cm)
[図5] 土星の白斑のドリフトチャート
体系IIIに対して-6.8°/日の特殊経度でプロットした。○はNEBnの白斑、□はNTBsの白斑を示す。月惑星研究会への報告画像から筆者測定。

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