天文ガイド 惑星の近況 2017年8月号 (No.209)

堀川邦昭


夜空では夜半前に木星、夜半後は土星が見ごろとなっています。 木星は6月10日に留となり、逆行から順行に変わります。 逆行中の土星はいて座からへびつかい座に戻り、まもなく6月15日に衝を迎えます。

ここでは5月半ばから6月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

南赤道縞(SEB)では、2つの大きな攪乱活動であるmid-SEB outbreakとpost-GRS disturbanceが本格的な会合を始めています。 これまでも両者が接近したことはありましたが、outbreak先端部の明部がかなり衰えていたため、大きな変化は見られませんでした。 今回は、4月後半にoutbreakの第2発生源から湧出した優勢な明部が前進して来て、本格的な会合となりました。 これには、post-GRS disturbanceの後方への拡大と、outbreakの第2発生源に前進運動によって、両者の距離が短くなり、明部が衰える前にpost-GRS disturbance後端に到達するようになった点も大きく寄与しています。

会合した両者の白雲は互いに混ざり合うことなく、outbreak先端部がpost-GRS disturbanceの北側にくさび状に入り込んで、南北に重なり合って見えていて、間のSEB中央部には南へ傾き上がる濃い組織が両者の境界となっています。 outbreakの先端部は北へ細くなって、白雲の一部は赤道帯南部(EZs)に流出しているようです。 一方、post-GRS disturbance後部は南へ押し上げられて短縮を始め、6月初めには、後端がII=330°付近まで前進してしまっています。 後方のSEB南部にはまだ乱れた白雲が細く残っていますが、衰退は明らかと思われます。 outbreakの第2発生源前方には活発な明部が並んでますので、今後も会合によるpost-GRS disturbanceの短縮は続くと思われます。

mid-SEB outbreakは依然として活発な活動を続けています。 第1発生源はII=160°付近、第2発生源はII=80°付近にあり、白雲を湧出して前方のSEBに攪乱模様を形成しています。 どちらもII系に対して1日当たり-0.7〜-0.8°のスピードで前進しているため、両者の距離はほとんど変わっていません。 これらの中間にあった第3発生源は衰えてしまったようです。 第1発生源の後方には濃い中央組織が伸びていて、通常のSEBの様子に戻っています。 発生源が前進するに従って、しだいに長くなっています。

5月中旬、大赤斑(GRS)後方にメタンバンドで明るく写る白斑が出現、これと同時に大赤斑の前方には非常に濃いストリーク(dark streak)が現れました。 特に14日にはストリークの一部もメタンブライトとなり注目されました。 可視光ではメタン白斑に対応する模様は見られませんでした。 何とも不思議な白斑ですが、4月末から5月上旬にかけて、mid-SEB outbreakの余波と思われるSEB南縁の暗斑群が大赤斑に押し寄せていたので、これらが赤斑湾(RS bay)を回って後方でメタン白斑を形成、一部が大赤斑南側を伝って前方にも出たのではないかと思われます。 このようなメタン白斑は、2015年3月にも観測されています。 メタン白斑は一週間ほどで消えてしまいましたが、ストリークは、元々SEB南縁にあったストリークと同化して、現在II=200°付近まで伸びています。

大赤斑本体は、上記の暗部の活動にもかかわらず、異例に赤みの強い状態を保っています。 経度はII=270°で、4月後半から変わっていません。 大赤斑固有の90日周期の振動運動が前進期に入っていたため、長期に渡るゆっくりとした後退運動を打ち消していたようです。 6月中には大赤斑の振動運動が前進から後退へと変化するので、再び後退し始めると思われます。

北赤道縞(NEB)の北縁では、II=220°に大きく目立つ白斑があり、その前後にも4個の白斑が見られます。 小さく動きも不安定なので、合体や消失してなくなってしまうかもしれませんが、いくつかは生き残ると思われます。 II=100°にある長命な白斑WSZも少しずつ明るくなっています。

5月26日、北緯51.6°、II=163.8°の北極地方(NPR)で小天体の衝突と見られる閃光現象が観測されました。 発見者はフランス・コルシカ島のソーブール・ペドランゲール(Sauveur Pedranghelu)氏で、時刻は19時24分(UT)、継続時間は0.7秒とのことです。 この衝突による痕跡模様は観測されていません。

[図1] 大赤斑とメタンブライトな領域
メタン画像(右上)でのみ大赤斑前後に明部が見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] BAとmid-SEB outbreak発生源付近
撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図3] mid-SEB outbreakとpost-GRS disturbanceの会合
▲はmid-SEB outbreakの先端、▼はpost-GRS disturbanceの後端を示す。outbreakが後方から押している様子がわかる。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)、大杉忠夫氏(石川県、25cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

土星

土星面は概ね落ち着いていて大きな変化はなく、環にも異常は見られません。 最も目立っているのは北赤道縞(NEB)で、その北に大きく二条に分離した北温帯縞(NTB)が見られます。 北組織(NTBn)の方が濃く明瞭ですが、南組織(NTBs)も以前よりコントラストが高くなって、独立したベルトのようになってきました。 NTBの北にも北北温帯縞(NNTB)がはっきりと見られます。 各ベルトの間のゾーンは色調が微妙に異なっていて、美しいコントラストを見せています。 NEBの北組織では、小さな白斑が時々捉えられていますが、単発的な観測しかなく、追跡できていません。

[図4] 縞模様が明瞭になった土星
撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

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