天文ガイド 惑星の近況 2017年7月号 (No.208)

堀川邦昭


春から初夏へと季節が進み、惑星観測に好適な時期を迎えました。 4月8日に衝となった木星はおとめ座を逆行中で、左の方へ目を向けると、6月に衝となる土星がいて座を逆行中です。 火星は7月に合となります。 しばらく観測はお休みです。

ここでは4月半ばから5月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

南赤道縞(SEB)はmid-SEB outbreakとpost-GRS disturbanceの2つの攪乱活動が同時に起きていて、どの経度を見ても乱れた白雲が広がっています。

mid-SEB outbreakは、II=30〜170°の範囲で活動が続いています。 2〜3ヵ所ある発生源のうち、最前方のII=100°に位置する第2発生源が最も活動的で、前方のSEB北部に乱れた暗柱と明部が並んでいます。 最後方にある第1発生源でも白雲の生成が続き、第2発生源との間はSEBの幅いっぱいに乱れた白雲や暗部が広がっています。 両者の間には第3発生源がありますが、あまり激しい活動は見られなくなりました。 当初、第1発生源はほとんど動いていませんでしたが、3月中頃から前進運動に変わりました。 現在はII=170°付近にあり、1日に-0.5°の割合で動いています。 outbreak前端部では明暗模様が急速に衰退し、後述するpost-GRS disturbanceの領域に到達する前に消失しているようです。 このため、outbreak前端の位置は大きく変動しています。 5月上旬の時点では、outbreakの活動域とみなせるのは、II=30°から後方と思われます。

大赤斑後方に広がる白雲の活動域であるpost-GRS disturbanceも活発で、衰える気配はまったく見られません。 見た目の活動はmid-SEB outbreakとよく似ていますが、こちらは白雲の湧出場所が後方にジャンプすることで活動域が広がっていくという特徴があります。 今回は1月下旬に活動が始まって以来、半月〜ひと月に一度の割合でジャンプを繰り返しており、4月中旬にはついにII=0°に白斑が出現し、活動域の長さは90°になりました。 普段は最大でも60〜70°程度なので、これほど発達するのは異例なことです。

大赤斑は相変わらず赤みが強く顕著ですが、周囲に再び小規模な暗部が出現しています。 後方のSEBが盛り上がってブリッジが形成され、前方には短いストリーク(dark streak)が見られます。 前方のSEB南縁が乱れているので、mid-SEB outbreakの影響と思われます。 経度はII=270°で、4月半ば以降、後退が止まりました。 長径は約14°で、昨シーズンと変化ありません。

南温帯縞(STB)の青いフィラメント領域のひとつであるSTB Ghostが、大赤斑の南を通過して前方へ抜けました。 特に大きな変化はありませんが、青い笹の葉のような輪郭が明瞭になっています。 永続白斑BAはII=185°にあり、淡橙〜薄茶のドーナツ型の暗斑として見られます。 後方に接するSTBの暗斑DS4はまだ活動的で、後方に暗斑群を放出しています。 DS4からII=225°にある南温帯(STZ)の暗斑までの領域は、全体が薄茶色のベールに包まれていて、DS4の勢力範囲を示しているように見えます。 STB Ghostは、この薄茶色の領域に追いついています。 今後、この2つの領域の相互作用に注目しましょう。

北赤道縞(NEB)では、大きなリフトは拡散して目立たなくなりましたが、小さなリフトや白斑はあちこちに見られます。 拡幅したNEB北縁に沿って、白斑が見られます。 長命な白斑WSZはII=100°にあり、他にII=140°と230°の白斑が目立っています。 WSZはまだ灰色に濁っていますが、以前よりは明るくなりました。 高解像度の画像では、リフト領域の白い雲がWSZに巻きついている様子が捉えられていて、リフトと北縁の白斑の関係がうかがわれます。

[図1] 大赤斑とpost-GRS disturbance
乱れた白雲が大赤斑後方に広がる。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] post-GRS disturbanceの拡大
活動域最後端の白斑の位置をプロット。矢印の所で後方へジャンプしている。
[図3] 5月9日〜10日の木星全面展開図
SEBの活動がわかるように、II=240°を基準に展開した。番号付きの▼はoutbreakの発生源の位置。宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)の画像から作成。

土星

土星面では、薄茶色の北赤道縞(NEB)と赤茶色〜紫色をした北温帯縞(NTB)の2本のベルトが目立っています。 NEBは二条になっていて、高解像度の画像で見ると、北組織(NEBn)はさらに2本の細いベルトで構成されているのがわかります。 この他にも淡い縞模様が見られるようになりました。 NEBとNTBの間にある淡い縞は何とも名称に困るのですが、このページではこの縞をNTB南組織(NTBs)と呼ぶことにします。 NTBと濃緑色の北極地方の間に見られる淡い縞は、北北温帯縞(NNTB)と思われます。

NEBの内部や赤道帯(EZ)には、コントラストの低い白斑や暗斑が捉えられていますが、個々の模様を追跡することはできませんでした。

[図4] 環が大きく開いた土星
撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

前号へ INDEXへ 次号へ