4月8日に衝を迎えた木星が観測の好機となっています。 春本番となり、時には絶好のシーイングに恵まれることも多くなりました。 土星はいて座にあり、3月17日に西矩、4月6日に留となり、こちらも観測に適した時期に入りました。 火星はおひつじ座を順行しながら、どんどん遠ざかっています。
ここでは3月半ばから4月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
発生から4ヵ月が経過したmid-SEB outbreakは、相変わらず活動的な状態を続けています。 第1発生源は少し前進してII=190°台にあります。 間欠的に白雲が湧き出ていますが、II=130°付近にある第2発生源の方が活発で、前方50〜60°の区間では、南赤道縞(SEB)北部に濃い暗柱や明部が並んでいます。 両発生源の間の領域は、SEBの幅いっぱいに乱れた白雲や暗部が広がって混沌としており、個々の模様を追跡することが困難です。 水元伸二氏の解析によれば、2月上旬に第1発生源から新しい白雲の湧出場所(だ3発生源)が分岐し、ゆっくりと前進しているとのことで、ここからも白雲が供給されているようです。 outbreakの前端は、後述するpost-GRS disturbanceの後端に達しているようですが、白雲はSEB北部の乱れ程度に衰退しているため、post-GRS disturbanceを脅かすには至っていません。
大赤斑(GRS)後方に見られる白雲の活動領域であるpost-GRS disturbanceも、活発な活動を続けています。 1月後半から活動域が段階的に後方へと広がり、4月にはII=350°に白斑が出現して、活動域の長さは80°に達しています。 眼視でも大赤斑後方に大きな白斑が並んでいて、mid-SEB outbreakに劣らぬ活動です。 そのため、SEBはどの経度を見ても白雲だらけで、大変乱れています。
大赤斑は3月に再び後退を始め、現在はII=267°にあります。 mid-SEB outbreakの余波として発生した周囲の暗部は衰え、大赤斑前方に伸びるストリークは淡化して痕跡が残るのみとなっています。 大赤斑自体は赤みが強く、暗部の影響をまったく受けていません。 SEBがこれだけ活動的であるにもかかわらず、大赤斑が顕著な状態を保っているのは、極めて異例です。
南南温帯縞(SSTB)で、再び高気圧的白斑(AWO)同士の合体が起こっています。 先月、A5aとA5bが合体してひとつの白斑(A5a)となり、現在はII=0°付近にありますが、その前方から別の小白斑が急接近してきました。 合体は3月末に始まり、4月3日までには完了したようです。 A5a付近では昨シーズンから小白斑の形成と合体が繰り返されています。 現在もA5aの30°前方には微少な白斑が見られますので、今後もそれらとA5aの合体が続く可能性があります。
最近、上記のA5aの前後では、SSTB南部に小さな白斑がずらりと並んでいるのが目につきます。 この経度のSSTBはとても幅広く二条になっていて、白斑は南組織の中に埋もれています。 AWOほどの明るさはなく、形がはっきりしないものも見られます。 これらはII=100°台で形成されているようで、南緯43°を流れる前進ジェットストリーム(S3 jet)に乗って1日当たり-3°という高速で前進しています。 この緯度での白斑群はほとんど例がありません。 木星探査機Junoの画像で見ると、白斑は右回りの低気圧的な循環を持っているようですが、詳しい振舞いはよくわかっていません。
北赤道縞(NEB)でも激しいリフト(rift)活動が続いており、衰える気配が見られません。 主要な活動領域はII=340〜120°と木星面の3分の1を超えています。 動画で見ると、NEBの北部はリフトの白雲で大きなうねりを生じていて、ベルトを再拡幅させる引き金になったように思われます。 拡幅したベルト北縁には小白斑がいくつも見られるようになっています。 このうちII=250°にある大きな白斑に、後方から小さな白斑が接近、4月8日以降、両者の合体が進行中です。 また、II=170°にも高速で前進する白斑があるので、近い将来、約60°前方にあるWSZとの合体が見られるかもしれません。
[図1] 活動的なpost-GRS disturbance |
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乱れた白雲が広範囲に広がる。NEBでも激しいリフト活動が見られる。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm) |
[図2] 大赤斑とNEBの白斑の合体 |
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▲の白斑が大きな白斑に飲み込まれようとしている。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm) |
[図3] mid-SEB outbreakの全景 |
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3つの番号付きの▼はoutbreakの発生源の位置。熊森照明氏(大阪府)の4月4日の画像から作成。 |
観測は事実上、今月で終わりになると思われます。 視直径は4.5秒くらいと非常に小さくなりましたが、熱心な観測者によってまだ継続されています。 気になる南極冠ですが、3月15日のマーチン・ルイス氏(Martin R Lewis)の観測では明瞭に見られました。 4月1日にはサイモン・キッド氏(Simon Kidd)が南極のエッジにかろうじてとらえています。 今シーズンはこれが南極冠の最後の記録となるでしょう。 Ls=343°となり、北半球は春分に近づいてきました。
一方、北極方面は白雲が目立つようになってきています。 日本国内では神奈川県の岩政隆一氏が、まだ観測を続けておられ、北極付近の白雲をとらえています。 空が暗くなるまでに観測を始めています。 この時期は少しでも早くスタートすることが決め手です。
[図4] 消失寸前の南極冠 |
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南の端に見える小さな白点が南極冠。撮像:サイモン・キッド氏(英国、35cm) |
シーイングが改善し、土星面の詳細な様子がわかるようになっています。 今のところ土星面は静かで、高解像度の画像でも斑点などは見られませんし、環にも異常は認められません。 クリーム色の赤道帯(EZ)に対して北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)は赤茶色で、中緯度のゾーンは薄緑色、北極周辺は濃緑色と色のコントラストが美しく見られます。
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